成田悠輔氏"逮捕"広告に学ぶ、AIフェイクを見抜く3つの視点とは
もし今日、あなたがよく知る人物が「逮捕された」というニュースを、広告の中でふと目にしたら、あなたはどうするでしょうか。先日、経済学者の成田悠輔さんの"逮捕"を伝える広告がSNS上に出回り、ご本人が「フェイクニュースだ」と否定する出来事がありました。他人事のようで、実はとても身近な話です。公認心理師として、日々「情報」と「心の動き」を見つめてきた私が、フェイクニュースに振り回されないための視点を、今日はお伝えしたいと思います。
AIがつくった、存在しない"逮捕"
今月、SNS上である画像が拡散されました。経済学者の成田悠輔さんが警察官らしき人物に挟まれ、車に乗せられようとしている、という場面をとらえたものです。多くのカメラマンに囲まれているようにも見える、まるでその場に居合わせたかのような一枚でした。
ご本人はご自身のSNSで、この件について「逮捕されたという広告はフェイクだ」という趣旨の発言をされ、AIによってつくられたニセモノである可能性が高いことを示しています。実際にこの画像は、投資詐欺とみられる広告に使われていたことも報じられており、単なるいたずらでは済まされない、悪質な仕掛けだったようです。
私がこの出来事に注目したのは、「よくできた嘘ほど、賢い人でも見抜きにくい」という、心理学的にとても興味深い現象がそこに詰まっていたからです。
なぜ人は、フェイクに心を動かされてしまうのか
臨床心理学や社会心理学の知見を踏まえると、私たちがフェイクニュースにつかまってしまう背景には、大きく3つの心の仕組みが関わっていると考えています。
ひとつめは、権威への信頼です。実在する著名人や専門家の顔と名前がつくと、私たちの脳は「この人が関係しているなら本当かもしれない」と、自動的に警戒レベルを下げてしまいます。これは決して愚かなことではありません。むしろ、限られた時間の中で膨大な情報を処理するために、人間の脳が進化の過程で身につけてきた、効率のよい近道なのです。
ふたつめは、緊急性による思考の停止です。「今すぐ確認しないと大変なことになる」という演出は、私たちの注意を狭め、じっくり考える余白を奪います。まるで、後ろから急に肩を叩かれたときのように、反射的に振り返ってしまう。フェイクニュースの多くは、この"肩叩き"の演出がとても巧みです。
みっつめは、感情の揺さぶりです。驚き、怒り、不安といった強い感情は、事実確認よりも先に、共有ボタンへと指を動かしてしまいます。感情が動いた瞬間というのは、実は一番、情報の真偽を見誤りやすい瞬間でもあるのです。
専門家としての情報発信という一次資料の大切さ
私は日々、心理学の知見をもとに情報発信を続ける中で、フェイクニュースや陰謀論に関する相談や質問を数多くいただいてきました。その中で強く感じるのは、「情報を疑うこと」と「人を疑うこと」は、まったく別のスキルだということです。
多くの方は、フェイクニュースに引っかかることを、自分の"弱さ"だと感じてしまいます。ですが、それは弱さではありません。むしろ、巧妙に設計された心理的な罠に、正直に反応してしまっただけのことです。フェイクニュースは、静かな水面に落ちた一滴のインクのように、あっという間に広がっていきます。その広がる速さを、個人の注意力だけで止めることは、誰にとっても簡単ではないのです。
だからこそ大切なのは、「絶対にだまされない人になる」ことを目指すのではなく、「だまされそうになった自分に気づける仕組み」を、自分の中に持っておくことだと私は考えています。
だまされそうになったときの、3つのチェックポイント
ここからは、今日からすぐに実践できる3つの視点をお伝えします。
ひとつめは、感情が動いた瞬間こそ、あえて一呼吸置くという習慣です。驚いたり、怒りを感じたりしたときほど、その情報を誰かに共有する前に、一度手を止めてみてください。それは我慢ではなく、自分の心を守るための、賢いチャレンジだと私は思っています。
ふたつめは、一次情報にあたるという姿勢です。今回の成田悠輔さんのケースのように、話題の中心となっている本人の発言や、信頼できる報道機関の発表を、直接確認する習慣を持つことです。伝聞に伝聞を重ねた情報ほど、途中で形が変わってしまいます。
みっつめは、「今すぐ」という言葉に立ち止まることです。緊急性や希少性を強く訴えかけてくる情報ほど、一度時間を置いて考えてみる価値があります。本当に重要な情報であれば、一晩置いても、その価値は変わりません。
おわりに
今回は、AIによってつくられたフェイクニュースと、それに私たちが心を動かされてしまう理由についてお伝えしてきました。
大切なポイントを、あらためて整理します。フェイクニュースは、権威・緊急性・感情という3つの心理的な仕掛けを巧みに利用してつくられていること。だまされてしまうのは、あなたの弱さではなく、人間として自然な反応であること。そして、感情が動いた瞬間に一呼吸置き、一次情報にあたり、「今すぐ」に流されない、この3つの視点を持つことで、私たちは少しずつ、情報に振り回されない心をつくっていけるということです。
情報の海の中で、疑うことに疲れてしまう日もあるかもしれません。それでも、あなたが今日この記事を読んで、ひとつでも「気をつけてみよう」と思えたなら、それはもう、大きな一歩です。あなたの中には、フェイクニュースに揺さぶられない心を育てていく力が、ちゃんと備わっています。
ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。「おもしろかった」「役に立った」と感じていただけたら、そっとスキを押していただけると、とても励みになります。
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