ロイターも報じたロシアの偽情報工作、公認心理師が読み解く心の防御術
最近、ニュースを見ていて「これ、本当に事実なんだろうか」と、ふと手を止めた経験はありませんか。
実は今、ドイツでは9月に予定される州議会選挙を前に、ロシアが関与しているとみられる偽情報が急速に広まっていると、ロイター通信が報じました。本物そっくりの放送局のロゴを使った偽動画まで出回っているというから、正直、他人事とは思えませんでした。
今日は心理の専門家として、こうした情報とどう付き合えばいいのか、私なりの考えをお話しさせてください。
何が起きているのか
ロイターの報道によれば、ドイツでは今年9月、ベルリン、ザクセン・アンハルト州、メクレンブルク・フォアポンメルン州で州議会選挙が予定されています。世論調査では、ロシアとの関係修復を掲げる政党が議席を伸ばす見通しだと伝えられています。
そうしたなか、独当局の見立てでは、ロシアとの関係修復を掲げる政党「ドイツのための選択肢 (AfD)」と対立する候補者たちを主な標的に、ロシアが一元的に仕掛けているとみられる偽情報が広がっているとのことです。ドイツの公共放送やイギリスの放送局のロゴを使った偽動画がSNS上に流れ、横領やハラスメントといった、いわば「黒い噂」が主に英語で拡散されているといいます。
独内務省の担当者は、動画の削除といった対応はまだ取っていないとしながらも、「深刻な偽情報であることには変わりはない」とコメントしたそうです。独外務省の担当者も、ロシアによる継続的な攻撃は現実の脅威だという趣旨の発言をしています。なお、ロシア側はこうした関与を一貫して否定しています。
なぜ人は偽情報に心を動かされるのか、3つの理由
こうしたニュースを聞くと、「自分は騙されない」と思いたくなりますよね。でも、心理の仕組みを知れば知るほど、これは意志の強さや賢さの問題ではないと感じます。人の心には、もともと「信じやすくなる仕組み」が備わっているからです。
1つ目は、権威という衣です。有名な放送局のロゴがついているだけで、私たちは無意識のうちに「きちんと取材された情報だ」と感じてしまいます。1938年、アメリカでオーソン・ウェルズがラジオドラマ「宇宙戦争」をニュース速報のような形式で放送した際、一部のリスナーが本当に侵略が起きていると信じてしまったという出来事がありました。その規模には諸説あるものの、中身よりも「形式」が判断に影響することを示す、象徴的な出来事だと思います。
2つ目は、感情への訴求力です。横領やハラスメントといった、怒りや不安を呼び起こすテーマは、冷静な情報よりも記憶に残りやすく、拡散されやすいことが知られています。強い感情を感じているとき、人は立ち止まって「本当かな」と考える余裕を失いやすいのです。
3つ目は、確証バイアスです。もともと苦手意識のある相手についての悪い噂は、「やっぱりそうだったか」とすんなり心に入り込みます。逆に、支持している対象への悪い情報は、無意識のうちに疑ってかかってしまう。これは誰にでもある、ごく自然な心の癖です。
つまり、偽情報にひっかかってしまうのは、あなたが弱いからでも、愚かだからでもありません。人間の脳が持つ「効率よく判断するための仕組み」が、逆手に取られているだけなのです。まずはそのことを、自分に対して否定せずに認めてあげてほしいと思います。
情報の波にのまれないための3つの視点
とはいえ、「知らなくていい」というわけにはいきません。ここからは、日々の暮らしのなかで実践できる、心の守り方を3つお伝えします。
1つ目は、感情が大きく動いたときこそ一度立ち止まる習慣です。怒りや不安で「すぐにシェアしたい」と感じた瞬間ほど、実は情報操作が狙っているタイミングかもしれません。深呼吸をひとつして、「これは事実の報道か、それとも誰かの主張か」を分けて考えてみてください。
2つ目は、ひとつの情報源だけで判断しないことです。同じ出来事について、性質の異なる複数のメディアがどう報じているかを見比べてみる。これは面倒な作業というより、自分の「情報の免疫力」を鍛えるトレーニングだと捉えると、少し気が楽になります。
3つ目は、答えを急いで出さない練習です。真偽がはっきりしない情報に出会ったとき、「わからない」という状態のまま、いったん保留にしておく。これができるようになると、不確かな情報に振り回される時間が、驚くほど減っていきます。
情報を見極める力は、生まれつきの才能ではなく、筋力のようなものだと私は思っています。最初から重いバーベルを持ち上げられる人がいないのと同じで、「立ち止まる」「比べてみる」という小さな積み重ねが、少しずつ判断力という筋肉を強くしてくれます。
おわりに
今日お伝えしたかったことをまとめると、次の3つです。偽情報に心を動かされてしまうのは、意志が弱いからではなく、人の心の自然な仕組みであるということ。感情が大きく動いた瞬間こそ、一呼吸おいて立ち止まってみること。そして、判断力は筋力のように、日々の小さな実践で少しずつ鍛えられるということです。
9月のドイツの選挙は、遠い国の出来事のように感じるかもしれません。けれど、同じような情報操作は、私たちの身近なSNSのタイムラインにも、形を変えて入り込んでいます。だからこそ、今日お伝えした3つの視点を、ぜひご自身の暮らしのなかでも試してみてください。
あなたには、情報の波にのまれずに、自分の頭で考え続ける力があります。私はそう信じています。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。
※本記事は、ロイター「ロシア、独で偽情報工作強化か 9月州議会選の候補者標的=関係筋」(2026年8月5日配信・6日更新)の報道内容を参考に、心理学的な視点から考察を加えたものです。
出典:https://jp.reuters.com/world/security/E5LEUQFOY5JX5NL7EJNYOYF2ZY-2026-08-05/
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