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AIファクトチェックが「本物の写真」を「デマ」と断定した衝撃の話

「AIに聞けば、答えはすぐに、しかも正しく返ってくる」。そう思ったことはありませんか。私は公認心理師として、日々SNSでの情報の広がり方や、人がなぜ、何を、どう信じてしまうのかを見つめています。そんな私が、令和8年熊本地震のニュースを追いながら、背筋が冷たくなる出来事に出会いました。ファクトチェックのために使われたはずのAIが、本物の写真を堂々と「デマだ」と断定していたのです。なぜ、こんなことが起きたのでしょうか。そして私たちは、次に災害が起きたとき、情報とどう向き合えばいいのでしょうか。今日は、この出来事を入り口に、専門家としての視点と、一人の生活者としての実感を交えながら、一緒に考えていきたいと思います。


発災から3分、拡散が始まる「空白の時間」


2026年7月28日午後4時27分、熊本県を震源とする令和8年熊本地震が発生しました。その3分後には、X(旧Twitter)への関連投稿が急増し、投稿数は一瞬で6万件を超えたといいます。

行政や報道が被害の全体像をつかむには、どうしても時間がかかります。その「情報の空白」を埋めるように、人々の不安と知りたい気持ちが一気にSNSへ流れ込む。この最初の数時間こそが、デマがもっとも生まれやすく、広がりやすい時間帯なのだと、災害情報を分析する専門家は指摘しています。

災害心理の視点から見ても、これは自然な反応です。不確実な状況に置かれた人間の脳は、少しでも早く「答えらしきもの」を探そうとします。それ自体は、命を守るための本能に近いものです。ただしその本能が、検証されていない情報にまで飛びついてしまう引き金にもなるのです。

10年で変わった、デマの「顔」


2016年の熊本地震では、「動物園からライオンが逃げた」というデマが2万回以上拡散し、動植物園には100件を超える問い合わせが殺到しました。このデマは、事実をまったく含まない、ゼロからの作り話でした。

一方、今回の令和8年熊本地震で目立ったのは、まったく違うタイプのデマです。たとえば「イオンモール熊本が地震で爆発した」という投稿。イオンモール熊本が被災地に実在することは事実ですが、添付されていた映像は、まったく別の災害で撮影された、別の施設のものでした。

事実と嘘が混ざり合っているからこそ、人は「本物だ」と信じ込みやすくなる。私はここに、10年間で最も本質的な変化があると感じています。

まったくの作り話であれば、どこかに違和感を覚えられます。けれど半分が本当のことだと、その"本当"の部分が、残り半分の嘘の信頼性まで底上げしてしまう。心理学では、これに近い現象を「アンカリング」と呼びます。最初に触れた確かな情報が、その後に続く情報全体の"錨"となり、判断を歪めてしまうのです。

AIさえも、間違えることがある


今回、私が最も衝撃を受けたのは、ファクトチェックのために使われたAIそのものが、誤った判定を下した出来事です。

被災した「コストコ熊本御船倉庫」の写真について、あるユーザーが対話型AI「Grok」に真偽の検証を依頼しました。Grokは、その画像を「過去の別の地震のものだ」と、断定的な口調で回答しました。この回答は「デマを見破った」として、多くの善意のユーザーによって拡散されました。

ところが、コストコ熊本御船倉庫が開業したのは2021年。10年前の地震のときには、そもそもその建物自体が存在していません。つまり画像は本物で、AIの回答こそが誤りだったのです。

なぜ、こんなことが起こるのでしょうか。生成AIは、事実をひとつひとつ照合しているのではなく、「文脈的にそれらしい言葉」をつなげて文章を作る仕組みを持っています。災害直後のように、参照できる情報がまだ少ない局面では、AIは「分からない」を「それらしい答え」に置き換えてしまうことがあるのです。

私たち人間にも、似たクセがあります。自信たっぷりに話す人や、権威ある立場の言葉を、つい無条件に信じてしまう。心理学ではこれを「自動化バイアス」「権威バイアス」と呼びますが、AIに対してもまったく同じことが起きてしまうのだと、この出来事は教えてくれました。「AIが言うなら正しいはず」という安心感こそが、実は一番の落とし穴なのです。

善意すら、お金に変えられてしまう時代


もうひとつ、10年前にはなかった動きがあります。それは、個人間送金を利用した、直接的な金銭詐欺です。

「家族が地震で亡くなった」という悲痛な投稿とともに、QRコードによる送金を呼びかける投稿が確認されました。多くの人が善意で送金しましたが、のちにこの投稿は虚偽であり、投稿の動機は閲覧数稼ぎだったことが明らかになっています。

10年前であれば、送金を騙し取るには銀行口座の開設という手間が必要でした。今は、QRコードひとつで、善意が一瞬でお金に変わってしまいます。技術的なハードルが下がったぶん、人の心理的なハードルまで一緒に下げられてしまった。私はここに、強い危うさを感じています。

そしてこの背景には、SNSの閲覧数に応じて収益が発生する仕組みもありました。誰かを助けたいという純粋な気持ちが、他人の収益のために利用される。これほど悲しいことはないと、私は思います。

なぜ、私たちは拡散してしまうのか


ここまでの出来事を振り返ると、人が誤情報を拡散してしまう理由は、大きく3つに整理できると私は考えています。

ひとつ目は、不安なときほど、人は「速い思考」に頼ってしまうということ。心理学者ダニエル・カーネマンが示したように、私たちの思考には、直感的で素早い「システム1」と、じっくり検証する「システム2」があります。災害時のような緊張状態では、どうしてもシステム1が優位になり、立ち止まって確認する余裕が失われます。

ふたつ目は、善意が強いほど、検証というブレーキが利きにくくなるということ。「誰かの命が助かるかもしれない」という思いの前では、真偽の確認は、どうしても後回しにされがちです。

みっつ目は、AIやテクノロジーへの過信です。「AIが判定したから」「専門家らしき人が言っているから」という理由だけで、私たちは思考を止めてしまうことがあります。

どれも、責められるべき弱さではありません。むしろ、人間らしい、あたたかい心の働きです。だからこそ、その心の働きを知ったうえで、ひと呼吸置く工夫が必要なのだと、私は思うのです。

たった一つ、私たちにできること


情報分析会社スペクティの根来諭COOは、災害時にもっとも大切にすべきこととして「真偽が不確かな情報は拡散しない、という選択肢を頭の片隅に持っておくこと」だと語っています。

私はこの言葉に、深く共感しています。そしてこれを、公認心理師の視点から、もう少し具体的な習慣に落とし込んでみたいと思います。

名づけて、「3秒チャレンジ」です。

情報を目にした瞬間、シェアボタンを押す前に、3つだけ自分に問いかけてみてください。これは誰が発信した情報か。この画像や映像は、本当にこの出来事のものか。今、拡散することで、自分は何を得たいのか。

3秒あれば、すべてに答えられなくても構いません。大切なのは、答えることではなく、立ち止まる習慣そのものです。「がまんしてシェアしない」のではなく、「立ち止まって考えるチャレンジをする」。そう捉え直すだけで、この習慣はずっと続けやすくなります。

おわりに


今回お伝えしたかったことを、あらためて整理します。

災害直後の「情報の空白」は、デマがもっとも生まれやすい危険な時間帯であること。事実と嘘が混ざったデマほど見破るのが難しく、拡散しやすいこと。AIも、権威ある存在も、間違えることがあるということ。善意は尊いからこそ、時に悪用されやすいということ。そして、シェアの前の3秒が、その善意を正しい場所に届けるための、たったひとつの防波堤になるということ。

技術がどれだけ進化しても、最後に情報空間を守るのは、私たち一人ひとりの心です。あなたが今日、この記事を読んで得た「3秒立ち止まる」という小さな習慣は、次の災害のとき、誰かの命を守る力になるかもしれません。

あなたには、その力があります。どうか、自分を信じて、今日からできることを、一つずつ始めてみてください。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。

#情報リテラシー #デマ対策 #ファクトチェック #生成AI #防災心理学


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