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公認心理師が解説する、「車移動説」というデマはなぜ生まれ広がったのか

「まさか、そんな遠回りな疑いをかけられるなんて」——今年の24時間マラソンを見ながら、そう感じた方も多いのではないでしょうか。ゴールした直後から、SNS上には「途中で車移動していたのでは」という声が広がりました。けれど、その"疑惑"の中身を数字で確かめていくと、そこにあったのは不正でも隠し事でもなく、ただの数字の読み違いだったのです。今日は、公認心理師として、この出来事から見えてきた「デマがどうやって生まれ、広がっていくのか」という心の仕組みについて、一緒に考えてみたいと思います。


24時間マラソンで起きた"車移動説"


今年の「24時間テレビ」で24時間マラソンのランナーを務めた女優の星野真里さんに対して、放送後からXを中心に「途中で車移動していたのではないか」という言説が広がりました。根拠とされていたのは、19時台の時点で残りの距離が29キロもあったのに、番組終了までにゴールできるはずがない、というものでした。

数字が語っていた、本当の距離


けれど、実際の記録を見てみると、話は少し違います。18時49分の時点で表示されていたのは「71.8キロ地点」、つまり残りは8.2キロでした。この距離であれば、20時42分のゴールは決して不自然なものではありません。「29キロも残っていた」という誤解は、今回のコースが80キロだったにもかかわらず、多くの人が「100キロマラソン」だと思い込んでいたことから生まれたようです。

繰り返されてきた"車ワープ説"


実はこの手の"車移動説"、今回が初めてではありません。2002年に同じ大役を務めた女優の西村知美さんのときにも、同様の"ワープ説"が浮上したことがありました。年によっては同じような声が繰り返し上がる、いわば24時間マラソンの"風物詩"のようになってしまっている部分があるのです。

デマが生まれる、3つの心理


なぜ、こうした誤解は生まれ、しかも毎年のように繰り返されてしまうのでしょうか。私は、そこには大きく3つの心の仕組みが関わっていると考えています。

ひとつめは、数字を「文脈ごと」確認しないという癖です。71.8キロも29キロも、単体では意味を持ちません。全体が80キロなのか100キロなのかという前提とセットで初めて、正しい距離感が見えてきます。人は忙しいときほど数字の"大きさ"だけを見て、その前提を飛ばしてしまいがちなのです。

ふたつめは、「前例」が疑いのハードルを下げてしまうことです。2002年の"ワープ説"を記憶している人にとっては、「今年もまたか」という下地がすでに出来上がっています。一度できたその型に、新しい情報が半自動的にはめ込まれてしまう。まるで、折り目のついた紙が同じところで折れやすくなるのと、よく似た現象です。

みっつめは、疑いという感情がわいた瞬間に、確認より先に発信したくなってしまう心の動きです。「ズルをしているかもしれない」という思いは、正義感や好奇心と結びつきやすく、事実を確かめる前にシェアボタンを押させてしまいます。これは特別な人だけに起こることではなく、私たちの誰にでも起こりうる、ごく自然な反応だと私は考えています。

実際、臨床の現場でも似た構造を見ることがあります。ひとつの思い込みが生まれると、その後に入ってくる情報が、確かめられることなくその思い込みを補強する材料として扱われてしまう。これは弱さではなく、誰の頭の中にも備わっている、ごく普通の情報処理の癖なのです。だからこそ、今回の件で「疑ってしまった」「一緒に拡散してしまった」という方も、自分を責める必要はまったくありません。

疑う力を、味方につける


疑う力そのものは、悪いものではありません。むしろ、うまく使えば、自分自身や大切な人を守るための武器になります。大事なのは、疑いが生まれた瞬間に、その疑いを「すぐに広める」のではなく、「まず確かめる」方向へ、ほんの一呼吸だけ置くことです。

具体的には、次の3つを意識してみてください。ひとつ、数字が出てきたら、その数字が「全体のどこの部分か」を必ず確認すること。ふたつ、既視感のある話ほど、一呼吸置いて出どころを確かめること。みっつ、感情が大きく動いた瞬間こそ、シェアの前に一度立ち止まること。この3つさえ意識できれば、あなたはもう、数字に振り回されない側の人間です。

この出来事は、遠い誰かの話ではない


星野さんの件は、すでに完走後の発表で距離が明らかになり、疑惑そのものが自然に解けていく形になりました。けれど、こうした"見間違いから生まれるデマ"は、有名人の話に限りません。日々のニュースやSNSの投稿の中にも、同じ構造がいくつも隠れています。今回の出来事を、遠い誰かの話としてではなく、自分ごととして受け止めていただけたら、私としてはそれだけでうれしく思います。

まとめ


今回お伝えしたかったことを整理すると、次の3点になります。数字は前提とセットで見て初めて意味を持つこと。前例や既視感は、疑いのハードルを静かに下げてしまうこと。そして、感情が動いた瞬間こそ、実は一番の検証のチャンスだということです。

疑ってしまった自分を責める必要はありません。大切なのは、その疑いに気づいたときに、ほんの一呼吸だけ立ち止まる習慣を持てるかどうかです。その小さな習慣を積み重ねることで、あなたは確実に、デマに振り回されにくい自分へと変わっていけます。

もしこの記事が参考になりましたら、スキやフォローで教えていただけると励みになります。今後も同じテーマで発信を続けていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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