いまも稼働する15の偽ニュースサイト、公認心理師が教える見抜き方
最近、SNSで流れてきたニュース、それは本当に「報道機関」が書いたものだったでしょうか。実は今、報道機関を思わせる名前を掲げながら、特定の主張を広めるためだけに作られたサイトが、静かに増え続けています。他社の記事や写真とみられるものを大量に並べ、その合間に出どころのはっきりしない「オリジナル記事」をこっそり忍ばせる。そんな手口が、日本国内でも確認されています。公認心理師としてこころの仕組みと向き合ってきた立場から、なぜ私たちはこうした情報に足をすくわれてしまうのか、そしてどう向き合えばいいのかを、今日は一緒に考えてみたいと思います。
報道機関そっくりの顔をした、もう一つの発信源
沖縄タイムスが報じたところによると、ある偽サイトは、いかにも報道機関を思わせるサイト名を掲げながら、他社の記事や写真とみられるものを大量に転載し、その合間に、出どころのはっきりしない「オリジナル記事」を紛れ込ませていたといいます。これは特殊な一例ではありません。
カナダの調査機関シチズン・ラボは2024年、世界30カ国で地元メディアを装うサイトが少なくとも123件確認されたと報告しました。この作戦は「ペーパーウォール」と呼ばれ、日本向けにも15のサイトが見つかっています。ドメイン名には、いかにも新聞社らしい響きのものや、県名をそのまま使ったものが選ばれていました。サイトの中身は、無害に見える商用のプレスリリース、大手メディアから複製されたとみられる記事、そして特定の立場を攻撃する目的で作られたオリジナルコンテンツが、同じ棚に並んでいる構造になっています。
さらに驚くのは、その後の展開です。報告書が公表されてから2年以上が経った今も、日本向けの15サイトはすべて稼働を続けていると報じられています。一橋大学の研究者は、生成AIがこうした偽サイトの内容を学習し、将来的に偏った回答をユーザーに返してしまう懸念を指摘しています。笹川平和財団の分析では、こうしたサイトが韓国メディアの記事を多く引用することで発信元を分かりにくくし、福島第一原発の処理水放出のような、日本国内で意見が割れやすい話題を選んで分断を煽っていたことも明らかになっています。
つまり、私たちが日々目にしている情報の棚には、本物と見分けのつかない顔をした「偽物」が、すでに静かに紛れ込んでいるということです。
なぜ、まじめで賢い人ほど信じてしまうのか
ここからは、心理の専門家として、私が臨床の周辺――企業研修や地域講座での相談の場――で感じてきたことも交えながら、なぜ人はこうした情報に足をすくわれてしまうのかを整理してみます。理由は大きく3つあると、私は考えています。
ひとつ目は、見た目を信頼の代わりにしてしまう心の癖です。私たちは、情報の中身を一つひとつ検証する時間もエネルギーもないまま日々を過ごしています。だからこそ、「新聞社らしいサイト名」「見慣れたレイアウト」といった外側の情報を、中身の正しさの代わりに使ってしまう。これは怠けているのではなく、限られた時間の中で判断を下すための、人間にそなわった省エネの仕組みです。
ふたつ目は、繰り返し目にした情報を、いつのまにか本当だと感じてしまう働きです。心理学では「単純接触効果」や「虚偽の真実効果」と呼ばれています。本物の記事と偽の記事が同じ画面の中に並んでいると、本物の信頼感が偽物にもうっすらと分けあたえられてしまう。まるで、本物のブランド品の隣に置かれた模造品が、なんとなく高級に見えてしまうのと同じ現象です。
みっつ目は、感情が理性より先に動いてしまうことです。不安や怒りを刺激する内容ほど、確かめる前に「共有」ボタンを押させる力を持っています。1938年、アメリカのラジオドラマ「宇宙戦争」が本物のニュース速報のような形式で放送され、多くのリスナーが本当に侵略が起きていると信じてしまった、という出来事が語り継がれています。内容そのものよりも、「ニュースらしい形式」が人の感情と行動を動かしたという意味で、今回のペーパーウォール問題と重なる部分が大きいと私は感じています。
こうした心の働きは、誰にでも起こりうる、ごく自然な反応です。だまされたことを恥じる必要はまったくありません。私たちに必要なのは、この仕組みを知ったうえで、ほんの少しだけ立ち止まる習慣を持つことだと思います。
今日からできる、3つの「確かめる習慣」
では、具体的に何をすればいいのか。私が研修や講座の場でいつもお伝えしている、3つの視点を紹介します。
ひとつ目は、サイト名だけでなく「誰が発信しているか」を見る習慣です。記者の名前が書かれているか、運営会社の情報が明記されているか。これらが曖昧なサイトには、少し慎重になっていいと思います。
ふたつ目は、気になったニュースを、一つのサイトだけで完結させず、別の複数の報道機関でも探してみることです。同じ出来事を複数の独立した組織が報じているかどうかは、今も昔も変わらない、信頼性を測るもっとも基本的な物差しです。
みっつ目は、心が大きく揺れた瞬間こそ、共有ボタンから一度手を離すことです。これは「我慢する」というより、「自分の心の動きを観察してみる、ちょっとしたチャレンジ」だと捉えてみてください。強い感情が湧いたときほど、その情報は誰かにとって都合よく設計されている可能性が高い、というサインでもあるからです。
おわりに
今日お伝えしたことをまとめます。報道機関を装う偽サイトは、世界30カ国、日本国内だけでも15件が確認され、今なお稼働を続けていること。人がこうした情報を信じてしまうのは、見た目への信頼、繰り返しによる刷り込み、感情の先行という、誰にでもそなわった自然な心の働きによるものであること。そして、発信者の確認、複数メディアでの照合、感情が動いた瞬間に一呼吸置くこと、この3つの習慣が、私たちを守る具体的な武器になるということです。
情報を見抜く力は、生まれつきの才能ではなく、日々の小さな習慣の積み重ねで育っていくものです。今日この記事を読んでくださったあなたは、すでにその一歩を踏み出しています。次にタイムラインで気になるニュースを見かけたとき、ほんの数秒だけ立ち止まってみる。その積み重ねが、あなた自身と、あなたの大切な人を守る力になっていくはずです。
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