公認心理師が解説、Googleも認めた「人は簡単に画像に騙される」という事実
その一枚の画像、思わず信じてしまったことはありませんか。SNSで流れてきた衝撃的な写真に胸がざわつき、確かめる前に誰かに伝えたくなった経験、きっと誰にでもあるはずです。先日、Googleが「Backstory」というAIツールでファクトチェックの現場を後押ししているというニュースが話題になりました。便利になっていく技術を前に、公認心理師として私が立ち止まって考えたいのは、最後に画像を信じるかどうかを決めているのは、結局のところ私たちの心そのものだ、ということです。今日はこの話題をきっかけに、情報とのつきあい方について、一緒に考えてみたいと思います。
https://www.niemanlab.org/2026/08/googles-new-ai-tool-helps-fact-checkers-investigate-ai-fakes/
Googleの新技術と、専門家がそれでも大切にしていること
Google DeepMindが開発した「Backstory」というAIツールをご存じでしょうか。画像と簡単な説明文を入力するだけで、その画像がAIで生成されたものかどうかを判定し、過去にどんな文脈でネット上に使われてきたかまで調べて、出典つきのレポートを自動でまとめてくれるというものです。透かし情報や改ざんの痕跡をチェックする機能も備わっていて、インドの大手報道機関のファクトチェックチームが実際に業務で使い、確認作業の初動が大幅に早くなったと報じられていました。
ここで私が興味を惹かれたのは、便利さそのものよりも、現場の専門家たちの姿勢でした。彼らはBackstoryが出したレポートを、そのまま記事に使うことはしないそうです。あくまで手がかりとして受け取り、最後は必ず自分の目と足で裏を取る。ツール自体にも「間違えることがあるので、必ず確認してください」という注意書きが添えられていて、開発に携わった記者本人の顔写真ですら、別人と誤認識されてしまった例もあったといいます。検索エンジンに載っていないSNSの非公開グループのような場所からの画像は、そもそも追いかけようがないという限界もあるそうです。
つまり、どれほど技術が賢くなっても、「これは信じてよいのか」という最後の一線を引くのは、結局のところ人の判断だということです。私はここに、心理を扱う専門家として、とても大事なメッセージが隠れていると感じています。
なぜ私たちは、“それらしい”ものを信じてしまうのか
ここからは私の考えになりますが、人が偽の情報を信じてしまうのは、決して頭が悪いからでも、注意が足りないからでもありません。むしろ、脳がとても効率よく働いている証拠だと、私は臨床の現場で人の心の動きに触れるたびに感じています。
私たちの脳は、日々ものすごい量の情報にさらされています。そのすべてを一つひとつ吟味していたら、とても生活が回りません。だからこそ脳は、「見慣れた感じがする」「話の筋が通っている」「多くの人が信じているらしい」といった手触りの良さを、真偽を判断する近道として使うようにできています。心理学では、この情報処理のスムーズさそのものが「本当らしさ」の感覚を生み出すことが、繰り返し確かめられてきました。加えて、驚きや怒り、不安といった感情が強く動いた瞬間ほど、立ち止まって考える力は弱まりやすいこともわかっています。衝撃的な画像ほど拡散されやすいのは、偶然ではないのです。
たとえるなら、私たちの心は忙しい道路を渡る歩行者のようなものだと思います。いちいち信号の仕組みや車の構造まで確認していては渡り切れません。だから「青なら進む」という単純なルールに頼る。それ自体はとても合理的な生き方であり、決して恥じることではありません。ただ、ときどきその信号が、誰かによって意図的に細工されていることがある。そこだけは、知っておく必要があると思うのです。
技術が進んでも、最後に踏みとどまるのは“あなた”
Backstoryのような技術は、これからますます私たちの助けになっていくはずです。けれども、あの技術に携わった専門家たちが最後まで人の目での確認を手放さなかったように、便利な道具を「答え」として丸ごと受け取るのではなく、「考えるための手がかり」として使うという姿勢は、私たち一人ひとりにも大いに役立つはずです。
私が日々の仕事のなかで感じるのは、情報に振り回されやすい人ほど、自分を責めがちだということです。「また信じてしまった」「自分は騙されやすい」と。けれど、それはあなたの心が弱いからではありません。むしろ、限られた時間とエネルギーの中で、なんとか毎日を回そうとしている、とても人間らしい働き方の結果です。まずはそのことを、自分自身に許してあげてほしいと思います。そのうえで、少しだけ習慣を変えてみる。それだけで、見える景色はずいぶん変わります。
今日からできる、3つの「立ちどまる」習慣
具体的に、私がおすすめしたいのは次の3つです。
一つ目は、心が大きく揺さぶられた瞬間ほど、あえて一呼吸おくことです。怒りや驚き、不安を強く感じたときは、拡散ボタンを押す指を少しだけ止めてみてください。その数秒が、冷静さを取り戻す時間になります。
二つ目は、「誰が、いつ、最初に発信したのか」という一次情報を辿るクセをつけることです。見出しやサムネイルだけで判断せず、元の出所までさかのぼる。それだけで、拡散の過程で歪められた情報かどうか、かなりの精度で見分けられるようになります。
三つ目は、便利なツールほど「最終判断者は自分だ」という意識を持ち続けることです。AIによる検出技術がどれほど進んでも、それはあくまで手がかりを与えてくれる存在です。専門家たちがそうしているように、最後の一歩は、私たち自身の頭で踏みしめる。この姿勢を持ち続けることこそが、これからの時代のリテラシーだと、私は思っています。
おわりに
今日は、Googleの新しいAIツールの話題をきっかけに、私たちがなぜ偽の情報を信じてしまうのか、そしてそれとどう向き合っていけばよいのかを一緒に考えてきました。技術がどれだけ進歩しても、心が揺さぶられた瞬間に一呼吸おくこと、一次情報にさかのぼる習慣を持つこと、便利な道具を答えではなく手がかりとして使うこと。この3つを意識するだけで、情報との向き合い方は確実に変わっていきます。
騙されやすいと感じているあなたは、弱いのではありません。忙しい毎日を懸命に生きている証拠です。そのうえで、今日お伝えした小さな習慣を一つでも取り入れていただければ、あなたの中の「疑う力」は、きっと着実に育っていきます。情報の海の中で流されるのではなく、自分の足で立って進んでいく。その一歩を、あなたはもう踏み出せるはずです。
長文にもかかわらず、最後までお付き合いくださりありがとうございます。これからも、いい意味で“ちょっとだけマニアックな”情報を届けていけたらと思います。
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