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マツキヨ創業者は、店名を選挙に使った。その「二役」の発想が、今も値札に生きている

最寄り駅のそば、いつも何気なく寄っていたマツモトキヨシがあった。

飲み物を買ったり、絆創膏を買ったり、特に理由もなく立ち寄る。よくある光景だと思う。ある日ふと、この「マツモトキヨシ」という店名は誰がつけたんだろうと気になって、由来を調べてみた。そうしたら、思っていたよりずっと面白い話が出てきた。

「マツモトキヨシ」は、松本清という実在の人物の名前だった。この会社の創業者が、自分のフルネームをそのままカタカナにして、店の看板にしたのだ。最初にそれを知ったときは「自分の名前を店につけるなんて、おかしな人だな」と思った。よほど自己顕示欲が強いのか、くらいにしか思っていなかった。

ところが、それは自己顕示ではなかった。計算だった。松本清は、店の名前を、自分の選挙の宣伝道具として使っていた。名前という一つの看板に、二役を演じさせていたのだ。

一つの名前に、二つの仕事をさせた人

松本清は、薬局経営のかたわら政治家でもあった。千葉県議会議員を経て、のちに松戸市長になる。屋号を「松本薬舗」から自分のフルネームの「マツモトキヨシ」に変えたのは1951年、県議2期目に挑む頃のことだ。店名を自分の名前と同じにしておけば、選挙活動がそのまま店の宣伝になる。そう考えて改称した¹。

実際、その後の7回の選挙で名前を連呼するたびに、それは薬局の宣伝を兼ねた。逆に、街のあちこちに「マツモトキヨシ」の看板が立っていることは、政治家としての知名度の地盤にもなった¹。一つの「マツモトキヨシ」という固有名詞に、政治家の知名度向上と、薬局の集客という、二つの仕事を同時にやらせたのだ。

この人は、とにかくそういう発想の人だった。開業当初、仕入れが乏しくて陳列棚が寂しかったときは、空き箱を並べて棚を埋めた。この「箱ごと陳列」は、今の多くのドラッグストアに受け継がれている。客寄せのために店先でサルを飼ったこともある。繁盛しているように見せるため、2号店をあえて「22号店」と名乗ったという話も残っている²。松戸市長になってからは、給料を返上したうえで、日本初の「すぐやる課」を作った。市民の困りごとに縦割りを廃してすぐ対応する部署で、この発想は全国300以上の自治体に広がった³。

松本清は生前、こう語っていたという。「アイデアとは、やりくりだ」³。

「おかしな人」という第一印象は、半分だけ当たっていた。ただしそれは自己顕示の変人ではなく、一つの手で二つ以上の得を取る、やりくりの天才だったのだ。

そして、この「一つの資産に、二役をやらせる」という発想は、松本清が去ったあとのマツモトキヨシにも、形を変えて生き続けている。あなたが何気なく買っている、あの安い食品の値札の中に。

ドラッグストアの卵は、なぜスーパーより安いのか

ドラッグストアで、卵やカップ麺や飲み物が、スーパーやコンビニより安いことがある。多くの人が一度は「なぜ薬屋なのに、食品がこんなに安いんだ」と思ったことがあるはずだ。

隣で商売をしているコンビニからすれば、たまったものではない。ダイヤモンドの取材で、大規模なドラッグストアが近くにあるコンビニのオーナーが、大手メーカーのカップ麺を78円で売られてはかなわない、と嘆いている⁴。

ここで一つ、数字を出したい。ドラッグストアにおける食品の粗利率は、わずか15%ほどしかない。粗利が30%台あるコンビニの、およそ半分だ。人件費まで考えれば、食品で手元に残る利益は2〜3%程度という超薄利になる⁴。

つまり、ドラッグストアにとって食品は、それ単体ではほとんど儲からない商品なのだ。では、なぜわざわざ安く売るのか。

「粗利ミックス」という機械

答えは、食品が「客を呼ぶための撒き餌」だからだ。

食品を安くすれば、人は来店する。しかも食品は毎日必要だから、来店の頻度が上がる。そうして店に来た客が、ついでに利益率の高い商品を買っていく。その利益率の高い商品というのが、医薬品と化粧品だ。ダイヤモンドの記事は、この構造をはっきりこう書いている。医薬品などで出た利益が、食品を安く売るための源泉になっている、と⁴。

これが、ドラッグストアという業態の正体だ。私はこれを「粗利ミックスで人を呼ぶ機械」だと考えている。薄利の食品で人を集め、高利益の薬と化粧品で回収する。一つの店の中で、儲からない商品と儲かる商品を混ぜ合わせ、全体として利益を出す。

ドラッグストアの「粗利ミックス」の仕組みを示す図。第1段は「安い食品で、客を呼ぶ(粗利は約14%でほぼ儲からない撒き餌)」、第2段は「化粧品・薬で、稼ぐ(粗利は33〜42%で、ここが利益の源泉)」、第3段は「その利益が、食品の安さを支える」。結論として「安い食品の値引きは、隣の棚の化粧品が肩代わりしている」と示している。

だから、冒頭の問いに答えるとこうなる。あなたがドラッグストアで卵を安く買えるのは、あなた自身か、あるいは横のレジに並んでいる誰かが、その店で口紅や風邪薬を買っているからだ。安い食品の値引きは、隣の棚の化粧品が肩代わりしている。

マツキヨの数字が、それを証明している

この「肩代わり」を、マツモトキヨシの数字はきれいに見せてくれる。

マツキヨココカラのカテゴリー別の粗利率を見ると、医薬品が42.5%、調剤が40.1%、化粧品が33.1%と高く、食品は14.2%と極端に低い⁵。化粧品と食品では、粗利率が2倍以上ちがう。

マツキヨココカラのカテゴリー別粗利率を示す棒グラフ(2022年3月期)。医薬品42.5%、調剤40.1%、化粧品33.1%と高いのに対し、食品は14.2%と極端に低い。化粧品と食品で粗利が2倍以上ちがい、この差が「肩代わり」を生むことを示している。

しかもマツモトキヨシは、化粧品の売上が全体の約4割を占める、大手で唯一の化粧品強化型だ。他社の化粧品構成比が1〜2割であるのに対して、圧倒的に高い。逆に、他社が力を入れる食品の構成比は1割に満たない⁶。結果として、マツキヨココカラの全体の粗利率は35.1%と、ドラッグストア業界でトップの水準にある⁶。

つまりマツモトキヨシは、「化粧品という高粗利の商品が、店全体を支える」という構造の、最も純粋な形なのだ。高い粗利の化粧品があるからこそ、食品や日用品を安い値札で並べる余力が生まれる。松本清が「名前」でやった一粒で二度おいしいを、今のマツキヨは「粗利」でやっている。

同じ機械なのに、燃料が正反対の会社がある

ただ、話はここで終わらない。この「粗利ミックス」という機械には、正反対の使い方をする流派がある。それを見ると、構造の面白さが一段深くなる。

その代表が、コスモス薬品だ。

コスモス薬品の売上構成比は、一般食品が61.2%と過半を超え、化粧品はわずか9%ほど、医薬品も13.9%にとどまる⁷。調剤の併設もほとんどしていない⁷。マツモトキヨシが化粧品の会社なら、コスモスは限りなく食品スーパーに近いドラッグストアだ。実際、節約志向が強まるなか、スーパーの利用客がコスモスに流れているという⁷。

同じドラッグストアで、片方は化粧品構成比4割、片方は食品構成比6割。まるで逆を向いている。

マツモトキヨシとコスモス薬品を比較した図。マツキヨは化粧品の構成比が約4割、食品は1割未満、全体粗利率35.1%で「化粧品で稼ぐ」。コスモスは化粧品の構成比が約9%、食品が61.2%、全体粗利率21.09%で「食品で客を呼ぶ」。同じ「粗利ミックス」でも、入れる燃料が正反対であることを示している。

面白いのは、それでいて両社の営業利益率は、どちらも4%前後で並ぶことだ⁷。稼ぐ金額の効率はほぼ同じなのに、稼ぎ方が正反対なのだ。マツモトキヨシは、化粧品を接客でていねいに売って、高い粗利で稼ぐ。コスモスは、低い粗利の食品を、人手をかけないローコストな店で大量に回して稼ぐ⁸。コスモスの全体粗利率は21.09%と、マツキヨの35.1%よりかなり低い⁷。低い粗利を、圧倒的な安さと効率でひっくり返している。

言い換えれば、マツモトキヨシは「化粧品を買いに来た客が、ついでに食品を買う」店であり、コスモスは「食品を買いに来た客が、ついでに薬を買う」店だ。同じ「粗利ミックス」という機械を使いながら、入れる燃料と、動かす向きが真逆になっている。

名前で二役、粗利で二役

最寄り駅のマツモトキヨシに、話を戻したい。

自分の名前を店の看板にした、おかしな人。そう思っていた松本清は、たしかにおかしな人だった。ただしそれは、一つの名前に政治家と薬局の二役をやらせた、やりくりの人という意味でだ。

そして彼が名前を刻んだその店は、彼が去ったあと、今度は粗利で二役をやる機械になっていた。高い粗利の化粧品が、安い食品の値引きを肩代わりする。一つの店の中で、儲かる商品が儲からない商品を支える。松本清が残した「アイデアとは、やりくりだ」という言葉は、店名の付け方だけでなく、いまの値札の付け方そのものを言い当てているように思う。

次にドラッグストアで安い卵を手に取ったら、少しだけ横の棚を見てみてほしい。そこに並んでいる化粧品が、その卵の安さを、静かに肩代わりしている。


出典

  1. 松本清による1951年の屋号「マツモトキヨシ」への改称と、選挙活動・店舗宣伝の相乗効果(店名を自分の名前と同一にすることで、選挙運動が店の宣伝を兼ねる意図があったこと)。Wikipedia「松本清」、ブランド・社名由来辞典「マツモトキヨシ」、社長のミカタ「マツモトキヨシ」

  2. 松本清の創業期エピソード(1932年「松本薬舗」開業、空き箱による陳列、店先でのサル飼育、目立つための片仮名フルネーム改称、繁盛を演出した店番号)。ダイヤモンド・オンライン「マツキヨ会長・松本清が松戸市長時代に開設した“すぐやる課”始末記」(2025年)

  3. 松戸市長時代の給料返上と日本初「すぐやる課」の設置(1969年)、全国300超の自治体への波及、および「アイデアとはやりくりだ」の発言。松戸市公式サイト「すぐやる課の誕生」、ダイヤモンド・オンライン、雑学ネタ帳(2023年)

  4. ドラッグストアの食品粗利率(約15%、コンビニの約半分、実質利益2〜3%)、カップ麺78円の事例、医薬品等の利益が食品安売りの源泉であること。ダイヤモンド・オンライン「食品の粗利率はコンビニの半分以下 ドラッグストアのもうけの秘密」(2019年)

  5. マツキヨココカラのカテゴリー別粗利率(医薬品42.5%、調剤40.1%、化粧品33.1%、食品14.2%)。山形県立産業技術短期大学校庄内校紀要 No.19(2023年、マツキヨココカラ2022年3月期決算説明資料に基づく作表)

  6. マツモトキヨシの化粧品構成比(約4割、大手唯一の化粧品強化型、食品構成比1割未満)および全体粗利率(35.1%、業界トップ水準)。食品産業新聞社(2022年)、MD-NEXT『ドラッグストア白書2025』(2025年)

  7. コスモス薬品の商品区分別構成比(2025年5月期:一般食品61.2%、雑貨14.9%、医薬品13.9%、化粧品約9%)、売上高1兆113億円、全体粗利率21.09%、調剤併設の少なさ、スーパー客の流入。ダイヤモンド・チェーンストアオンライン(2025年)、流通ニュース

  8. ドラッグストアの収益構造の二極化(高粗利・高販管費型と低粗利・低販管費型、化粧品の接客販売と食品のローコスト販売の対比)。MD-NEXT(2018年)、新潟県内経済ニュース(2021年)

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