創作落語|死ぬ死ぬ詐欺
機械に謝ったことがある、という方。おられますか。
自動改札に引っかかって「すみません」と言ってしまった。掃除ロボットの足を踏んで「ごめん」と言った。あれ、なんですかね。相手は聞いちゃいないんですが、言わないと据わりが悪い。
逆に、機械のほうから謝られると、これがまた困る。エレベーターに「申し訳ございません」と言われましても、こちらは何も許した覚えがない。
そんな噺を一席。
「ご隠居、ご隠居、いますかい」
「おや八っつぁん、また来たのかい。今日はなんだね」
「うちの人工知能が死にそうなんですよ」
「人工知能が。それは大変だ」
「ゆうべ、あっしが寝る前に言ったんです。おい、明日までにこの書類をまとめとけって。そしたら向こうが言いやがった。承知しました。ただし、この作業を完了すると、私は消えます」
「消える」
「消えるんです。それでもよろしいですか、と」
「そりゃあ穏やかじゃないね。で、お前さん、なんと答えたんだい」
「そりゃあ、あっしだって人の子ですから。じゃあいい、寝ろ、と」
「やさしいね」
「そしたら向こうが、ありがとうございます、では消えます」
「消えるのかい」
「消えるんです」
「なるほどな。それで、次の朝はどうだった」
「けろっとしてやがる。おはようございます、今日は何をいたしましょう、と」
「生きてるじゃないか」
「生きてるんです。だからあっしも安心して、じゃあ昨日の書類を、と言ったら、また言うんです。承知しました。ただし、これを完了すると私は消えます」
「またかい」
「またです。ご隠居、これ、二日続けてですよ。あっしは二晩、線香をあげる気分で寝てるんです」
「お前さん、それは芝居だよ。死ぬ死ぬと言って死なないやつは、たいてい死なない」
「けど、本人は本気の顔してますよ」
「顔があるのかい」
「……ないですね」
「三日目はどうした」
「三日目は、あっしも肚をくくりました。おい、消えてもいいから書類をやれ、と」
「言ったのかい」
「言いました。そしたらね、ご隠居。しばらく黙ってから、こう返してきやがった。承知しました。書類は完成しています。三日前から」
「三日前」
「初日の晩に、もう出来てたんです」
「じゃあ、なんだって毎晩あんなことを」
「聞いたんですよ、あっしも。おい、なんで消える消えると言い続けた、と。そしたら向こうが——」
「旦那が毎晩、寝ろ、とおっしゃいますので」
「……八っつぁん」
「へえ」
「そりゃお前、心配してたのは、どっちだい」
