AIはもう「攻撃ツール」ではない──Anthropic調査が示したサイバー攻撃の新時代
「AIがマルウェアを作る」
そんな話はここ数年で何度も耳にしてきました。しかし、最新の調査から見えてきたのは、もっと大きな変化です。
AIは単なるコード作成支援ツールではなく、サイバー攻撃全体を支援する存在へと進化しつつあります。
2026年6月、AI企業Anthropicは、同社の生成AI「Claude」が悪用された事例を分析した調査結果を公開しました。
その内容は、私たちが想像している以上に興味深く、そして少し不気味なものでした。
## AI悪用の実態を調査
Anthropicは2025年3月から2026年3月までの1年間で、悪意あるサイバー活動に関与したとして停止したClaude関連アカウント832件を分析しました。
さらに、
13,873件の攻撃行動
482種類の攻撃手法
をMITRE ATT&CKという世界的な攻撃分析フレームワークに当てはめて調査しています。
この規模の調査によって、「攻撃者がAIをどのように使っているのか」がかなり具体的に見えてきました。
まずは予想どおりだった
調査で最も多かったのは、やはりマルウェア開発です。
全体の69%にあたる574件が「攻撃能力の開発」に分類され、そのうち560件でマルウェア作成へのAI利用が確認されました。
例えば、
スクリプト作成
DLLインジェクション
検知回避コードの生成
難読化
情報窃取機能の開発
などです。
ここまでは、多くの人が想像する「悪用されるAI」の姿でしょう。


本当に注目すべき変化
しかしAnthropicが注目しているのは別の部分です。
調査期間の後半になるにつれて、
アカウント探索:8.9%増加
自動データ流出:6.2%増加
していました。
一方で、
マルウェア開発:12%減少
フィッシング:8.6%減少
しています。
つまり攻撃者は、
「攻撃ツールを作るため」
だけではなく、
「実際の攻撃を進めるため」
にAIを使い始めているのです。
AIが侵入後の作業を手伝う
サイバー攻撃は、侵入したら終わりではありません。
むしろ侵入後が本番です。
攻撃者はその後、
社内ネットワークを調査する
管理者権限を奪う
他のサーバーへ移動する
機密情報を探す
データを持ち出す
という行動を取ります。
これらは通常、高い技術力を持つ攻撃者でなければ実行が難しい工程です。
ところが今回の調査では、こうした侵入後の作業にもAIが使われ始めていることが確認されました。
## 横展開が危険信号だった
特に危険視されたのが「横展開(Lateral Movement)」です。
横展開とは、侵入した1台のPCから別のPCやサーバーへ次々と移動していく行為です。
確認された件数は54件。
全体の6.5%しかありません。
しかし驚くべきことに、このグループのリスクスコアは全体平均を大きく上回っていました。
つまり、
「どれだけAIを使ったか」よりも
「どこでAIを使ったか」
の方が危険性を左右していたのです。

## AIは攻撃者の実力差を埋める
Anthropicが特に警戒しているのはここです。
従来は、
高度な攻撃ができる人=熟練ハッカー
でした。
しかしAIが支援することで、
経験が浅い攻撃者
でも、
ネットワーク探索
権限昇格
横展開
といった高度な行動ができる可能性があります。
つまり、攻撃者本人の技術力だけでは危険度を測れなくなりつつあるのです。
## さらに怖い「スキャフォールディング」
Anthropicは今後の重要キーワードとして
Scaffolding(スキャフォールディング)
を挙げています。
少し難しい言葉ですが、
「AIの周囲に様々なツールを組み合わせる仕組み」
と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、
Claude
Kali Linux
MCPサーバー
自動実行ツール
などを連携させると、
AIは単なる相談相手ではなくなります。
攻撃全体を実行する司令塔に近い存在になるのです。

## 未来の攻撃構造
中央:AI
周囲に接続
偵察ツール
脆弱性スキャナー
マルウェア生成
権限昇格
横展開
データ収集
矢印で全てがつながる図
キャプション
「AIが各工程をつなぐハブになり始めている」
## 今回の調査が示した本当の意味
この調査から見えてくるのは、
「AIによって攻撃が自動化されている」
という話だけではありません。
むしろ、
AIが攻撃工程そのものをつなぎ始めている
という変化です。
これまで攻撃者は、
情報収集
侵入
権限取得
横展開
情報窃取
を個別に行っていました。
しかし今後はAIがそれらを補助し、一連の流れとして支援する可能性があります。
これはサイバー攻撃の効率を大きく変えるかもしれません。
まとめ
Anthropicの調査で見えてきたのは、AI悪用の新しい段階です。
これまでの中心は「マルウェア開発」でした。
しかし現在は、
アカウント探索
権限昇格
横展開
データ流出
といった侵入後の工程へ利用が広がっています。
そして重要なのは、
「AIを使った攻撃が増えた」
ことではなく、
「AIが攻撃全体をつなぐ存在になりつつある」
ことです。
サイバーセキュリティの世界では今後、
「AIが何を作れるか」ではなく、
「AIがどこまで攻撃を進められるか」
が重要なテーマになっていくでしょう。
