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『つなぎめの宿』 第二話:花びらのケーキと小さな羽

『つなぎ目の宿』のキッチンから、ほんのり甘い花の香りが漂ってきます。
女将のライラは、澄んだラベンダー色の瞳を細めながら、柔らかな指先でひとつひとつ丁寧に花びらを重ねていました。

彼女が作っているのは、淡いラベンダー色、清らかな白、そして深い紫色の薔薇で飾られた特別なフラワーケーキです。
 
実は彼女は、かつて天界の頂点に君臨していた、心を持たない「神の器」でした。
息が詰まるほど美しい天界でライラが目にしていた花は、寸分の狂いもない完璧な形をし、決して枯れることも傷つくこともありませんでした。
 
けれどいま、彼女が指先で一つ一つ形作る薔薇は、花びらの重ね方が少しずつ違っていて、どこか不揃いです。完璧な形ではないけれど、自分の心で生み出すその一輪一輪には、確かな温もりが宿っています。
 
「完璧すぎないからこそ、生きている実感が湧くの。・・・ねぇ、ブラン?」
 
最後の小さな薔薇をケーキの上にそっと添え終えると、頭上から天使の羽をパタパタと揺らして、真っ白な生き物・ブランが飛んできました。金魚に似た愛らしい姿をしたブランは、甘い花の蜜や聖水が大好きなライラのパートナーです。出来上がったフラワーケーキの周りを嬉しそうにくるりと泳ぎ、完成した花びらを愛おしそうにじっと見つめています。
 
その傍らでは、黒い作務衣を纏った主人のヘイルが、静かな眼差しで彼女の手仕事を見守っていました。不思議な光を宿す琥珀色の瞳が、ライラの作るいびつで優しい薔薇と、彼女の柔らかな笑顔に触れて少しだけ和らいでいます。
 
かつて息が詰まるほど眩しかった世界を抜け出し、手に入れた不完全で温かな時間。心を込めて作られた甘いお菓子と手仕事は、頑張りすぎて疲れてしまった誰かの心を、そっとほどくための小さな魔法です。
 
完璧じゃなくてもいい。あなたは、あなたのままで素晴らしいのだから。
 
~たどり着いたのが、ここでした。~
 

女将ライラ

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