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新刊『めいめいのひかり』紹介(試し読みあり)

11/23(日)の文学フリマ東京41にて、個人サークル「夜灯舎」の新刊、『めいめいのひかり』が発行されます!

冊子の写真

文庫本/本文82p/¥500

Webカタログ:https://c.bunfree.net/c/tokyo41/50618

作品紹介

不登校の少女とギター弾きの青年の交流を描いた「春風のアルペジオ」、火星を舞台に少年少女の小さな冒険と淡い恋を描いた「惑わせ星の君」など、少年少女を主人公とした、やさしい世界観の青春掌編小説集。
Web掲載作品や書き下ろしなど、心温まる全8篇の小説を収録。

青春小説と銘打っていますが、雰囲気としてはかなり児童文学寄りです。
「孤独な夜を灯す」というサークルコンセプトをそのまま形にしたような、穏やかでやさしい作品集に仕上げました。

収録作品

春風のアルペジオ/ 惑わせ星の君/ 雨のち晴れ/ アクアリウムの街で/ あの日のぼくは/うさぎと団子とお月さま/ クリスマスの魔法使い/ わたしのひかり


Webにて一部または全文公開している作品のリンクを載せておきます。

「惑わせ星の君」(一部公開)

「雨のち晴れ」(一部無料・全文有料公開)

「アクアリウムの街で」(全文無料公開)

「うさぎと団子とお月さま」(全文無料公開)

「クリスマスの魔法使い」(全文無料公開)

こんな人におすすめ

  • 青春小説や児童文学の世界観が好き

  • やさしいお話が読みたい

  • 寝る前にゆったり読める本が欲しい

とにかく「やさしい」「穏やか」「読後感がいい」にこだわりました。
すっきり綺麗に終わるお話ばかりなので、寝る前のお供にもおすすめです。

既刊の『ゆめのかけらたち』がお好きな方には、特に自信を持っておすすめします。というのも、この本は『ゆめのかけらたち』に続く「名刺代わりの一冊」として制作したからです。
さらに磨き上げた藍沢作品の世界観をお楽しみいただけたら幸いです。

アピールポイント

ちょっと毛色の違う作品もありますが、基本的に「悩める少年少女と、光との出会い」を描いています。そして、そうであるがゆえに、例の如くあまりキラキラしていない青春です。青春小説はちょっと眩しい、という方でも読みやすい作品集になっているかと思います。

(毛色の違う作品……というのは「うさぎと団子とお月さま」を指しています。この作品はほのぼの童話です。)

試し読み

収録作品「春風のアルペジオ」冒頭部分です。


「はるかぜ、」
 それは、わたしが彼の前で初めて口にした言葉だった。
 どちらかといえば「陽だまり」とか「日向ぼっこ」とか、そういうもっと暖かくて穏やかな言葉の方が似合いそうな人だったけれど、わたしは彼を春風、と呼んだ。正確には、彼の奏でる旋律を。

 まだ肌寒さの残る公園の木漏れ日の下、ゴッホの向日葵のような底抜けに明るい黄色のアコースティックギターを指先でなぞっていた彼は、呆気に取られたような表情で固まった。

 それでようやく、初対面の相手におかしなことを口走ってしまったことに気が付いて、恥ずかしさで熱くなる頬を隠すように俯いた。
「それは、曲のリクエストですか?」
 彼は落ち着いた調子で、ゆったりとそう問いかけた。男性にしては少し高く、角の丸い積み木みたいに素朴で心地よい声だった。

 改めて顔を合わせてみると、垂れ目とやや丸っぽい輪郭の整った顔つきと、身に付けているシンプルな黒いコートが、なんだか都会の人っぽくて、余計にどぎまぎしてしまう。
 わたしは勢いよく首を横に振って、とっさに「褒め言葉です」と口走った。本当はただ、思ったことをそのまま口にしただけだったけれど、そう言ったほうがそれっぽく収まるような気がしたのだ。
 彼はそんなわたしに目を細め、穏やかに微笑んでくれた。
「初めて言われました。素敵な感性をお持ちなんですね」
 それは無難な返事だったけれど、予想外に褒め返されたわたしはなんだか浮かれて、つい調子に乗って話し続けてしまった。
「あの、素敵な演奏で、まだ冷える日もありますけど、なんだかこう、春を連れてきてくれるみたいな感じがして。
 でもちょっと強い風みたいな部分もあって、だから優しいだけじゃない春風みたいな、そういうイメージで……春風だなぁって思って」
 最初こそ勢いがよかったのに、喋れば喋るほどにぼろが出る気がしてきて、だんだんと声が小さくなってしまう。きっとわたしはとんでもなく奇妙な子供に見えているんだろうな、と思ったけれど、彼は顔を歪めることなくわたしの話に耳を傾け、それからこう言った。
「じゃあ、はるかぜ、と名乗ることにしようかな」
「えっ?」
 思いもよらない発言に、わたしの声は裏返る。今日だけで一生分の恥を掻いているのでは、と思うくらいに恥ずかしい。でも、彼は真剣だった。
「シンガーソングライターの、はるかぜです。うん、いい響きだ。ちょうど名前を探していたんですよ」
 満足げに頷いて、彼はギターをじゃらん、と軽く鳴らした。
 その瞬間、風が吹いた気がしたのは、今となっては本当か錯覚か、わからない。

 はるかぜさんは、音楽の道を目指しているらしかった。ここで弾いているのは一種の気分転換のようなもので、メインの活動は路上で演奏したり、ライブハウスで弾いたりするらしい。というよりも、していた、の方が正しいのだと彼は言った。
「元々はバンドを組んでいたんだけど、こう、方向性の不一致というか、価値観の違いで解散しちゃって、フリーになったんだ。まぁ、就活を選んだ彼らの方が、世間的には正しいんだけどね」
 世間的に正しい、という言葉に、わたしは胸がムカムカとして、気付けば唇を噛み締めていた。みんなの「正しい」は、わたしには少し、息苦しい。見えない線からはみ出さないように歩かされて、踏みたがえたら、とたんに異物になってしまう。学校でも、たぶん、社会でも。
 わたしは、世間的には正しくない子、というやつだ。いじめられたわけでもないのに学校に行けなくなって、そのくせ家にも居たくないからって、平日にこうしてふらふら歩き回っている。
 たぶん、はるかぜさんもそれはなんとなく察していて、でも疑問のひとつも口にしない。だから彼の隣は、とても心地がよかった。

 はるかぜさんは、いつもギターで何かを弾いていた。テレビでよく見るバンドのようにピックでジャカジャカと弾くんじゃなくって、何も持たない指先で弦をぽろぽろと撫でるようにして音を奏でる。
「アルペジオ、というんだよ。和音をこうやって、ばらして鳴らすんだ」
 わたしはその音色がいっとう好きだった。とびきり明るい黄色から、楽しげに溢れ出す音に耳を澄ませる。そのうちに彼は、鼻歌を乗せたり、時には歌ってくれることもあった。
「きみも、弾いたり歌ったりしてみたらいいんじゃないかな」
「わたしも?」
 不意の提案に、わたしはぱちぱちと瞬きをした。
「うん。きみは音楽が好きみたいだから」
「でも、音楽なんて、リコーダーくらいしかやったことないよ」
「僕だって、ギターを始めたのは十八歳の時だし、それより前はリコーダーくらいしかやったことなかったよ」
 だから、大丈夫、と彼はわたしの指を黄色のギターに触れさせて、いくつかの簡単なコードを教えてくれた。
「まぁ、ギターがなくたって歌えるけどね。なんとなく、きみ、このギターを気に入ってくれているんじゃないかと思って」
「あ、はい、ゴッホの向日葵みたいで気持ちのいい黄色だなって。はるかぜさんにぴったりです」
「あはは、ありがとう。いい色だよね。
 きみにもぴったりの楽器が見つかると思うよ。……もちろん強制はしないけれど。楽器屋さんとか、遊びに行ってみたらいいんじゃないかな」
 本当は、はるかぜさんと一緒に行きかった。あれこれと教えてもらいながら、一緒に選んで欲しかった。けれど、そう言ったら彼を困らせてしまうだろうな、とも思った。
 なんとなくそれは「世間的には正しくない」気がしたし、彼の言い方は、まるで全くの他人事だったから。
「今度、見に行ってきます。わたしもはるかぜさんみたいなアルペジオが弾いてみたいから」
 そっか、と彼は少し照れくさそうに頬を掻いた。

(続きは書籍にてお楽しみください)

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