新刊『ふたりの自画像』紹介(試し読みあり)
5/11の文学フリマ東京40にて、個人サークル「夜灯舎」の新刊、『ふたりの自画像』が発行されます!

文庫本/本文72p/¥500
絵を通して交流する高校生ふたりの、自己価値感をめぐる非恋愛ボーイ・ミーツ・ガール。
本編「ふたりの自画像」に加えて、二人のその後を描いた短編小説「私の未来図」、掌編小説「新しい線を継ぐ」を新たに書き下ろし、製本しました。
Webカタログ:https://c.bunfree.net/p/tokyo40/46312
通販(架空ストア)
あらすじ
空虚な日々を送っていた「顔だけはいい」女子高校生・宮戸波瑠名は、同い年の美術科高校生・小鳥遊亜都に突然、絵のモデルを頼まれた。
初めはモデル代目当てで引き受けた宮戸だったが、小鳥遊が自分を容姿で判断しないことや、自分に価値を見出したことに感情を動かされ、次第に小鳥遊が自分を通して表現しようとしていることに関心を持ち、自身の意味や価値を見つけてくれる糸口として縋るようになる。
一方で小鳥遊は、思うように自分の表現したいものを見つけることができず、苦戦していた。
人物紹介
宮戸波瑠名

「それでも、心のどこかでは、生きてて良かったって思える日が来るんじゃないか、って、期待している自分がいる。浅はかだ。日々を生きるだけで、何の努力もしてないくせに。」
生きる意味を見出せないまま、消費するように日々を過ごしている。やや厭世的で、感情の起伏はほとんどない。よくナンパやスカウトをされるほどの美人だが、生育環境が悪く両親を嫌っており、自身の容姿に対しても複雑な思いを抱えている。
小鳥遊亜都

「描いても描いても、本当に描きたいものに辿り着けないんです」
スランプに陥っている美術科高校生。上流階級の家庭で暮らしており、家には自身のアトリエも持っている。宮戸とは異なり、表情豊かで素直な性格。世間知らずで、やや天然っぽいズレたところがある。
こんな人におすすめ
キラキラしていない青春小説が読みたい
深層部分での共鳴や心の交流に惹かれる
自分の存在意義や価値を気にしてしまう
ちなみに公開中の本編には、「前を向こうと思えた」「希望を感じられた」などのご感想をいただきました。悩める青少年の方はもちろん、何かの拍子で自分を見失ってしまうような大人の方にもおすすめです。
製本版の魅力
本編「ふたりの自画像」に加えて、2人の未来の姿を描いた「私の未来図」、その後日談である「新しい線を継ぐ」を収録しています。ほぼ半分が書き下ろしです!
「私の未来図」は、2人が悩み苦しみながら糸口を探す姿を描いた「ふたりの自画像」とは大きく異なり、終始穏やかな雰囲気で心地よく読めるように工夫しました。ほっと一息つけるような仕上がりになったかと思います。
「新しい線を継ぐ」は、タイトルの通り、2人の繋がりから発展して、新しい繋がりを描いた小作品です。「私の未来図」の後日談であり、その登場人物の深掘りでもあります。本当はフリーペーパーに入れようかと考えていたのですが、本編の後日談ということもあり、収録することにしました。ちょっとしたエピローグのような感じで読んでいただけたら嬉しいです。
本編試し読み
リンク先から全文読むことができます。(その他、小説家になろう、ノベルアップ+、クロスフォリオにも掲載しています)
こちらのnoteにも、序盤の文章を載せておきます。
なんで生きてるんだろ、と思うことがときどきある。例えば、遅刻しているのに一向に連絡を寄越さない恋人を待ち続けて、二十分経った時だとか。
秋も更けてきた今日この頃、駅前のベンチに腰掛け、やや悴んできた指先でアプリのフィード更新を繰り返しながら意味もなくぼうっと眺めていると、ようやくやってきた恋人の祥哉に、開口一番こう言われた。
「他に好きな人ができた。別れてほしい」
散々待たせて用はそれだけか。しかも、こんな人の多い場所で別れ話。
「そうなんだ。おめでとう」
でも、私にはそれでいいと思ったのだろう。彼には、私がすぐにこう応えることが、わかりきっていたはずだ。
淡々と応じた私に、彼は顔を歪める。そこにある感情が、呆れなのか、怒りなのか、それとも哀れみなのか、私にはわからなかった。
「波瑠名、本当に少しも俺のこと、好きにならなかったんだね」
俺は本当に好きだったのに、とぼやく彼に、私は曖昧な笑みを浮かべた。
「ごめん。お幸せに」
ナンパされて、付き合ったら好きになることもある、なんて言われて、流されて付き合って三ヶ月。結局私は、最後まで恋愛がわからないまま、去っていく彼を見送る。
そもそも、恋愛だけじゃない。私は、何にも夢中になれたことがない。喜怒哀楽の感情が抜け落ちたような無味乾燥の日々を、消費するように生きている。いつ終わるのだろう。何の意味があるのだろう。
彼の背中が見えなくなって、そろそろ私も行くか、と立ち上がろうとしたとき、見知らぬ少年がこちらに駆け寄ってきていることに気付いた。思わずのけぞる。ナンパにしては、勢いがおかしい。何だあれ。
とにかく早くここを去ろう、と思って鞄を抱えた矢先に、声を掛けられた。
「あ、あのっ」
中学生くらいだろうか。やや高めの声と、くりっとした茶色掛かった瞳。猫毛のようなふわふわの髪は、お世辞にもあまり整えられていない。頬は紅潮して、息も上がっているようだった。それだけ必死で走ってきたのだろう。
「……なんですか」
威嚇するように低い声でそう尋ねて睨みつけると、彼はぎゅっと目を瞑って、絞り出すように声を上げた。
「ぼ、僕のモデルになってくれませんか!」
「……は?」
思わず素っ頓狂な声が出た。何のスカウト? 名刺を渡されたことなら何度かあるけれど、流石に中学生にスカウトされた経験はない。
「あっ、すみません、僕、こういうものです」
やけに中身の詰まった大きな鞄から、彼は財布を引っ張り出し、その中から学生証を手に取って私に差し出して見せた。
「……タカナシアト。変な名前」
「えっと、よく、言われます」
小鳥遊亜都。見た目通りにふわふわとした名前。まるで漫画の登場人物のようだ、などと思いながら、学生証を眺める。
「……美術科? てか高校二年って同い年じゃん、中学生かと思った」
「……成長が遅いだけで、まだ背は伸びてるんで」
あ、そ、と学生証を突き返すと、小鳥遊は不服そうにそれを仕舞い込んでから、私を真っ直ぐに見て、やけに真面目な顔でこう言った。
「どうしても、あなたの絵を描きたいんです。モデル代、出すので、描かせてもらえませんか」
「ふうん。お金くれるんだ」
「一応、お時間もらうので」
一種のバイトみたいなもの、か。何をさせられるのか分からないけれど、それなら、まあ、いいか。
いつもお金は足りていない。貰えるものなら、いくらでも欲しいくらいには。
「わかった。いいよ」
私が答えると、小鳥遊はぱぁっと顔を輝かせた。表情豊かだな、と思う。愛想のない私とは正反対だ。
「その、じゃあ、連絡先渡します! また空いてる日にでも連絡してください」
そう言って電話番号を書いて渡そうとする小鳥遊に、私は思わず突っ込んだ。
「いや、普通アプリでしょそこは」
「えっ」
小鳥遊が固まる。まさか、使ったことがないのだろうか。
どうやらこいつは世間知らずらしい。美術なんかをやってるやつって、大概そうなのかも知れない。私は、はぁ、と小さく息を吐いた。
「……やっぱいい、電話番号で。メモとペン貸して」
小鳥遊が困惑しながら差し出したメモに、私は自分の携帯番号を記す。
「私から電話するの面倒だから。掛けてきて」
「あ、はい」
でも一応僕のも、と彼はメモを手にして、丁寧な字で番号が書かれたそれを手渡してきた。
「よければ持っててください」
わかった、と私は頷いて、メモをポケットに仕舞い込んだ。
「それじゃ、また、連絡します」
では、と小鳥遊が去っていくのを、ぼうっと見つめる。変なやつだったな。見ず知らずの女に急に声を掛けてきて、絵を描かせて欲しいなんて。新手のナンパだったのだろうか。
まあ、どうでもいい。結局、私が興味のあるものは、金だけだ。
私は立ち上がって、行くあてもなく歩き始めた。肌寒いけれど、駅ビルに入る気にはなれない。ギラギラしていて、眩しくて、目が潰れそうになる。楽しそうな人々を見るのも嫌だった。いっそのこと隕石でも落ちてきて、滅びてしまえばいいのに。
風俗嬢だった母親譲りの整った顔が、駅ビルのショーウィンドウに映る。
昔から、顔だけはいい、とよく言われたものだった。ナンパはよくされるし、特に振る理由もないので付き合ってはみるけれど、大概すぐに「思っていたのと違う」と振られる。そりゃあそうだ。感情の機敏すらない可愛げのない女と付き合ったところで、楽しいわけがない。
十歳足らずの頃、実の父親にも、顔だけが取り柄の子供だと言われて捨てられた。学も生活能力もなかった母親に日に日に似ていくこの顔が、憎たらしかったのだろう。それも仕方ない。結局のところ、彼女にあったのは、恵まれた容姿と、男を落とす技術だけだったのだから。
祥哉も、顔が好き、と言ってナンパしてきたのは同じだった。でも、愛想を尽かされずに三ヶ月も付き合ったのは初めてだった。それが容姿だけだとしても、本当に好きだった、というのは、嘘ではないのだろう。そんな人に苦い思いをさせたことに、少し罪悪感を覚える。好きになれなくて、ごめん、と呟く。新しい好きな人と、今度は幸せになれますように。
狭いアパートの一室に帰宅する。机の上には、今週の生活費として、五千円が置かれている。自分でもバイトはしているけれど、どちらにせよ、自分のバイト代だけではやっていけないのだから、貰うに越したことはない。
母親はいつも通り、男のところにいるらしい。いい歳して馬鹿じゃないの、と思うけれど、あの人にはそれしかなかったのかと考えると、哀れにも思う。でも私には、そんな風に世渡りをする技術はないし、誇れるものも何一つない。本当に顔だけなのは、たぶん、私の方だ。
遅くとも、二十代のうちには死のう、と漠然と思っている。望まれて生まれてきたわけでもなければ、誰かに必要とされることもない。死んだところで誰も見向きもしない。
それでも、心のどこかでは、生きてて良かったって思える日が来るんじゃないか、って、期待している自分がいる。浅はかだ。日々を生きるだけで、何の努力もしてないくせに。
台所で、買い込んでいるインスタント麺から夕食を選んでいると、不意にスマホが鳴り出した。見知らぬ電話番号、と思ったが、ふと小鳥遊に番号を教えたことを思い出して、電話に出る。
『あ、もしもし! えっと、小鳥遊です』
「宮戸です。……よく考えたら、名乗ってすらなかったね、私」
『あ、そうですね。昼は僕ばっかり喋っててすみませんでした』
電話先でぺこぺことする小鳥遊が目に浮かぶようで、可笑しくてふっと笑みが溢れた。
「いいよ。それで? 日程調整だっけ?」
『あ、はい。いつ空いてますか?』
「直近だと、明日の放課後。今週はそれ以外バイト」
『じゃあ明日、迎えに行きます。あの駅、最寄りですか?』
「全然違うけど」
『え、えっと、じゃあ、どうしよう』
あわあわとする彼に、私は呆れながらこう言った。
「あんたのとこの最寄りまで行くよ。どこ?」
『あ、ありがとうございます……』
指定された駅名をメモして、それじゃあ明日、と電話を切った。
(続きはWebまたは書籍にてお楽しみください)
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