触れずに奏でる、世界最古の電子楽器「テルミン」の不思議な魅力
テルミンという楽器をご存じでしょうか? 1920年にロシアの発明家、レフ・セルゲーエビッチ・テルミンが発明した、世界最古の電子楽器といわれています。この楽器の最大の特徴は、本体に一切触れることなく、音程と音量をコントロールできるという不思議な仕組みにあります。
YouTubeなどで検索すると演奏動画がいくつか出てくるので、それを見ていただくとイメージしやすいかもしれません。楽器に向かって右側(演奏者の右手側)には垂直に伸びたアンテナがあり、ここに右手を近づけたり、握った拳から指を広げたりすることで音程が変化します。音域はおよそ4オクターブほど出すことが可能です。
一方、左手側には楕円形にループした水平のアンテナがあります。こちらには左手のひらを近づけると音が消え、遠ざけると音量が上がります。このように、左右の手の距離感だけで音を操るのです。
私がテルミンに興味を持ったきっかけは、中学生の頃に触れたパソコンでの音楽制作(DTM)でした。当時は乱数を使って自動作曲を試みたり、流行し始めていたFM音源のデジタルシンセサイザーで音作りを楽しんだりしていました。
高校生になり、ヤマハの「DX7II」というシンセサイザーを使い始めた頃、愛読していた『キーボード・マガジン』という雑誌の記事でアナログシンセサイザーの歴史に触れ、テルミンの存在を知ったのです。
社会人になって間もない頃、大阪の中古楽器店で「Etherwave Theremin」の中古品を見つけました。店主と交渉したところ、「音が出るか確認できていないので」という条件で、格安で譲ってもらうことに成功。意気揚々と持ち帰り、テーブルの上に置いて電源を入れてみたのですが……全く音が鳴りません。
「やはり壊れていたのか」と落胆しつつ、ふと本体を持ち上げてみたところ、突然音が鳴り出したのです。実は、置いていたテーブルの中に鉄板が入っていたことが原因でした。テルミンは周囲の静電容量の変化を検知する楽器であるため、金属が近くにあると正しく動作しません。底面にマイクスタンドを取り付ける穴が開いているのは、周囲の影響を受けないよう空中に設置するためだったのです。マイクスタンドに設置するのが、音量と音程をコントロールする上で最も確実な方法だと思い知らされました。
ようやく音が出るようになっても、メロディを奏でるための正確なピッチ(音高)を保つのは至難の業です。右手の指を曲げ伸ばしして1オクターブ内を制御し、それ以上の音域は腕を動かして距離を調整するという、非常に繊細な技術が求められます。
フレットのないバイオリンやトロンボーンのように、音と音の間が滑らかにつながるため、狙った音を出すには慣れが必要です。音色は初期のアナログシンセサイザーの正弦波に近く、設定次第で多少明るくすることもできます。どこか不安定で浮遊感のある音は、ホラー映画やSF映画の効果音としても重宝されてきました。
かつて学研の『大人の科学マガジン』でも、音程を制御できる付録のテルミンが発売されていたので、それで知った方もいらっしゃるかもしれません。非常にマイナーな楽器ではありますが、一度触れてみるとその奥深さに魅了される、実に面白い楽器です。
