7月になれば彼を
サイモンアンドガーファンクルの名曲に4月になれば彼女はがあるけれど
大好きな一曲だけれど
7月になればこれからも私は思い出す
尾木さんのことを
祥月命日が近づいて
去年の今頃はと4月の桜の咲くころから思い続けて
ついに7月がやって来てしまった
この間3年目の職員さんたちに向けた研修で
アイスブレーク的に好きな給食の献立の話になり
意図的に尾木さんが亡くなって1年になりますねと話題にした
すると、職員さんたちがああ、と遠くを見るような目つきになり
もうそんなに経つんですねとか
やっぱり栄養士さんが変わると給食も変わりましたねとか
僕は、尾木さんのお魚のメニューが好きでした
特にタルタル乗ってるやつが、と男性の職員が言うと
尾木さんに、あんまり美味しいからこのタルタルソースのレシピ教えてって言ったんですよ、そしたら尾木さんやーだよって笑っていったんです意地悪ですよねえって事務方から参加した職員さんが笑って、
ああそんなやり取りがあったのかと尾木さんの悪戯っぽい笑顔が浮かんで
みんなの目が少し潤んだ
尾木さんのメニューはオーソドックスというか
ザ給食という献立でしたね、
新しい栄養士さんになってそれがよくわかりました
その時は目新しいものが食べたいと思ったことがないわけじゃないですけど
おふくろの味っていうか母親が作ってくれたものに近い毎日食べても食べ飽きることのない味だったんだなあって
改めて思いますと
お若い職員さんの記憶の味が語られて
尾木さーん聞こえたー?とお空に向かって呟いてから
それではと
昼に食べた給食もこなれて、グルルと鳴りそうなお腹にぐっと力を入れて
研修の司会を始めたけれど
一つ大きな心残りがあって
一つの後悔もない関係なんてないと思うけど
1年経とうとしている今だから書いて尾木さんに聞いてみたいのだけれど
土曜日に ロイヤルホストで仕事の愚痴大会を開催
尾木さんはよく例え話をする人だったけれど
ねえ赤毛さん、どう思う?
僕のうちの近くにまあ、環八としましょうか環七でもいいんですけどね
街道沿い角地にラーメン屋があってね
すごくおいしいんです、繁盛もしていて、
いつもお客さんがひっきりなしなんです
で、そのラーメン屋さんがですね、2号店を隣に出したんです
ところがですね、ラーメン屋さんの2号店なのに
カレー屋さんで出店したんです
いやあ、僕は迷ってしまうんです
あなたは、ラーメン屋さんじゃなかったの?
カレー屋さんなの?
ラーメン屋さんだと思うから、美味しいと思うけれど
カレー屋さんなんだとしたら、僕はそのラーメンをどんな気持ちで食べたらいいのか分からなくなってしまうんです
赤毛さんだったらどうしますかどう思いますか?
と聞かれた。
何か意図があると思った
何の意図もなく例え話をする人ではない
その例えばなしに託して何かを私に聞きたいんだと思った
けれど私はたとえ話の向こう側に出ていかなかった
ラーメン屋さんがカレー屋さんを2号店に選んで出店して
美味しかったら食べるし、ありだと思うと
なんの節操も拘りもポリシーもない答えをした
その答えを聞いて
尾木さんは少し悲しそうな顔をして
そうですか、とだけ言って話を終わりにした
私が意図に踏み込んで返さなかったことが分かったんだと思うし
尾木さんには同じ職場で働いていたころ
自分は10年前にとてもつらい別れをしたので
誰とも近しくなることは2度としないんですと
多分私が懐に入ろうとするのに気づいて
ばちいいんと尾木さんが張った予防線を
赤毛は覚えていたから
その線に触れるのかと怖くて一線を越えて質問の本当の意図を
琴線に触れるようなことを聞けなかった
あの時のラーメン屋とカレー屋に何を託して聞いたのか
結局一度も聞けずじまいで
元同僚としてもう辞めてやるうとか、やってられるかとか
サイゼリアやロイヤルホストで安酒飲んでクダを巻いてばかりだったけれど
時を戻すことが出来たら
ああできないのは分かっている
だから聞けなかった質問に言えなかったアンサーを抱えて
7月の夜を一人かも寝む
