【ショートショート】「「らしい」料理」
「こういうの、ユウらしいね」
そう言って、シュンスケが目を細めながら口に運んだのは、ツナときゅうりの混ぜそうめん。ごま油とめんつゆで和えただけの簡単レシピ。正直、手抜き。でも、暑くて何も作りたくなかった今日の夕飯としては、悪くない選択だった。
「らしいってどういう意味?」
私が首をかしげると、シュンスケは少し考えてから言った。
「うーん、なんか、無理してないっていうか、冷蔵庫にあるもので、ちゃんとおいしくする感じ。気取らなくて、優しい味。そういうの、ユウらしい」
何とも曖昧な答え。でも、悪い気はしなかった。
ただ、その「ユウらしい」という言葉が、心のどこかに小さな棘みたいに残った。
仕事が立て込んで、毎日くたくた。
気が付けば、スーパーにすら行かず、冷蔵庫にあるもので何とかやりくりしている。ツナ缶、卵、昨日のきんぴら。そういう組み合わせでなんとなく形になるのは、昔からの癖だった。
そういえば、母が夜遅くまで働いていた頃、私はよく一人で台所に立っていた。
冷やごはんにチーズをのせてレンジでチン、「チーズごはん」完成。
きゅうりとカニカマとマヨネーズで「なんちゃってサラダ」。
料理とは言えないような、でもちゃんと食べられるもの。
それを見た母が、笑いながら言った。
「あんた、本当「ユウらしい」料理作るね。手はかけないけど、ちゃんと温かいの」
「ユウらしい」という言葉、昔、母に言われたんだ。
ふいに思い出した。
でも「らしい」ってなんだろう。
節約? 手抜き? 生活の知恵?
それとも、それを選ばざるを得なかった私の人生そのもの?
次の週末、私はシュンスケの部屋に行った。
そして、一つだけ料理を作った。
スーパーで買ったのは、A5ランクの和牛と、ちゃんとした生わさび。
作ったのは、炙り牛のにぎり。
ネットでレシピを調べて、できるだけ本格的に仕上げた。
「これ、ユウが作ったの? すごいね。なんか、ユウらしくない」
驚いたシュンスケが、恐る恐る箸を伸ばしたとき、私は笑って言った。
「でも私が作ったんだから、これも「私らしい」でしょ?」
シュンスケはしばらく黙ってから、静かにうなずいた。
「そうだね。ユウは、自分の味を決められる人だよね」
「うん、そう。で、どっちが好み?」
シュンスケは少し考えてから、いたずらっぽく笑った。
「ごめん、やっぱ、そうめんのほうが好きかも」
「正直すぎ」
二人で笑った。
「らしい」って、案外もっと自由なものなのかもしれない。
(あかみね)
