【読書感想文】言葉を知ると、いつもの会話がちょっと面白くなる【言語沼】
私がよく見るYouTubeに「ゆる言語学ラジオ」というチャンネルがある。
言語学の話を、ゆるく、楽しく語ってくれるチャンネルだ。
移動中のラジオ代わりにしたり、何か作業をしながら聞いたりしているのだが、私が友人との会話で披露しているウンチクや面白知識の9割くらいは、このチャンネルがソースである。
あまり人に勧めすぎると、
「こいつ、聞いた話をそのまま話してるな」
と思われそうなので、個人的には有名になりすぎると少し困る。
とはいえ、それ以上に面白いので紹介したい。
今回読んだ『言語沼』は、このチャンネルの二人が出版した本で、そんな「ゆる言語学ラジオ」の面白さが、そのまま本になったような一冊だった。
全体的に軽い読み味なのに、情報量はかなり多い。
読書力を鍛えている途中の私にとっても、「スラスラ読めるのに、読んだ後には何かしら知識が増えている」という構成はありがたかった。
そして、この本の面白さは、単に「言語についての豆知識が増える」という点ではない。
普段なんとなく使っている言葉に、「なぜ?」という視点が生まれる。
ここが面白いのだと思う。
たとえば、日本語には「連濁」という現象がある。
「手+紙」が「てがみ」になるように、言葉が組み合わさることで後ろの音が濁る現象だ。
ところが、
「話に尾ひれがつく」
は「おびれ」にはならない。
なぜなのか。
これは「尾」と「ひれ」が並列関係だからだという。
一方で、修飾する関係では連濁が起こりやすい。
こういう話を知ると、今まで何も考えずに使っていた言葉が、急に観察対象になる。
本書にも書かれていることだが、言語学の面白さは、こういうところにある。
正解そのものは、なんとなくわかる。
でも、なぜそうなるのかは説明できない。
その「なんとなく」を理屈で説明してくれる。
これが気持ちいい。
英語の「spring」の話
本書に書かれている内容ではなく、YouTubeチャンネルで紹介されていた話だが、これも非常に面白かった。
springには「春」「バネ」「泉」という意味がある。
疑問に思ったことはないだろうか。
中学生の私はこの単語に対して、全然共通項のない意味を一つの単語に内包しすぎだと考えており、危うくイギリスを嫌いになるところだった。
だが、この疑問にもちゃんと答えがある。
一見すると、まったく関係のない三つの意味に見える。
ところが、「湧き上がる」「芽吹く」「跳ねる」といった、何かが下から勢いよく出てくるようなイメージを共通項として考えると、少しつながって見えてくる。
言葉は辞書の中でバラバラに存在しているわけではなく、人間が持っているイメージによって意味同士がつながっている。
そう考えると、単語を覚えることすら少し楽しくなる。
このことは中学の頃に知りたかった。
単語の音そのものにも意味がある
有名な心理学の実験に、「ブーバ/キキ効果」というものがある。
二つの絵を見せられて、「どちらがブーバで、どちらがキキか?」と聞かれたら、多くの人が、とがっている方を「キキ」、丸い方を「ブーバ」と答えるというものだ。

これに近い話も本書には出てくる。
「怪獣の名前には、なぜガギグゲゴのような音が使われるのか?」
という問いだ。
ガ行って、なんとなく強そうな印象はないだろうか?
これに対しても、本書は理屈をしっかりとつけてくれる。
濁らせることのできる「カ行」「サ行」「タ行」などの子音は「阻害音」と呼ばれ、強さや鋭さを感じさせやすい。
一方、「マ行」「ラ行」などの「共鳴音」は、比較的やわらかい印象を与える。
つまり私たちは、言葉を単なる記号として受け取っているわけではない。
音そのものから、無意識に大きさや形、雰囲気まで感じ取っている。
こういう話を知ってしまうと、漫画やゲームのキャラクター名を見る目まで変わってくる。
「えーっと」と「あのー」の違い
最後に、本書を読みたくなるような問いを一つ投げたい。
言葉の「えーっと」と「あのー」は「フィラー」と呼ばれ、言葉を紡ぐ間を稼ぐために使われるものだと言われている。
では、この二つに違いがあることは知っているだろうか。
どちらも言葉に詰まったときに使うものだと思っていたが、実は明確に使い方の違う言葉であることが、本書で語られている。
以下の使い方は、どちらが自然だと感じるだろうか。
「えーっと……。今お時間いいですか? 街頭インタビューなんですが」
「あのー……。今お時間いいですか? 街頭インタビューなんですが」
「売上金の合計はですね。えーっと……。合計100万円です。」
「売上金の合計はですね。あのー……。合計100万円です。」
明らかに「こっちの方が自然だ」と感じる組み合わせがあるのではないだろうか。
では、なぜそう感じるのか。
この理由は、本書の中でぜひ見つけてほしい。
こうして考えると、私たちは会話の中で、無意識にかなり細かい情報を使い分けている。
言語学というと、難しい文法や外国語の研究を想像してしまう。
しかし『言語沼』で扱われているのは、もっと身近なものだ。
「なぜこの言葉はこう聞こえるのか」
「なぜこの言い方になるのか」
「なぜ存在しない言葉なのに、なんとなく意味が分かるのか」
そんな、普段なら気にも留めない疑問を拾い上げてくれる。
本書を読んだ後は、日常会話の中で使う言葉が少しだけ気になるようになる。
「なんで今この言葉を使ったんだろう」
「この音だから、こういう印象になるのかな」
そんなことを考え始める。
言葉は毎日使っている。
だからこそ、その仕組みを知ると、毎日の会話そのものが少し面白くなる。
「言語沼」というタイトル通り、一度こういうことを考え始めると、身の回りの言葉が全部気になってくる。
この記事を読んで「ちょっと面白そう」と思った人には、ぜひ本書を読んでみてほしい。
読み終わった頃には、今まで何気なく使っていた言葉が、少し違って見えてくるはずだ。
