掌編 「kaze」 #せりふ三題噺
僕は目を疑った。
雪うさぎが踊っていたのだ。
コンビニ犬走りの置き配BOXの上、
白い影がふわりと揺れた気がして視線を向けると、
あの赤い実の瞳と、まっすぐに目が合った。
その瞬間、雪うさぎはピタリと動きを止めた。
頬を一粒の滴が伝う。
冬に似つかわしくないその光は、まるで汗のようだった。
僕はしばらく見つめ続けたが、
雪うさぎは微動だにしない。
粘ってみたものの、先に負けたのは僕の指先だった。
「今日はもうここまでにしよう」
そう呟き、背を向けた…ふりをした。
気配を盗み見ると、
雪うさぎはまた別のポーズで固まっていた。
間違いない。あれはウィンドウィルの形だ。
そうか、と僕は静かに納得する。
雪うさぎ界隈にも、ブレイクダンスの風が吹いているのだ。
僕は敬意を込めて深くバウをした。
すると雪うさぎは、ひっくり返りながら、
小さな身体でバウを返してくれた。
冬の空気が、ほんの少しだけ温かく揺れ、kazeは吹き抜けた。
完
(本文393字)
あとがき
はらとけいさんの企画『せりふ三題噺』に参加させて頂きました。補足、”犬走り”はコンビニの軒下のタイル床の事です。”バウ”はブレイクダンス界の会釈の事です。
■セリフ
「今日はここまでにしよう」
■三題
・置き配
・コンビニ
・雪うさぎ
