ショートショート 「受付」 #せりふ三題噺
「昆布、宇宙、カレンダー」その人は言った。
私は男をじっと観察する。30代、ラフなスポーツブランドのTシャツにジーパン、サンダル。メガネをかけ、宝飾品の類はない。右手の手提げ袋からは、丸まった来年のカレンダーが覗いている。
——なるほど。身なりに無頓着というよりは、飾る必要のない生活圏にいるジョーク好き。もしくは、極端に滑舌の悪い独身男性。「昆布、宇宙、カレンダー」を翻訳すれば、十中八九「今度、府中から来ました」だろう。時期からして、秋の定期転勤による転入か。
「転入届ですね? それでしたら、あちらの窓口にある『住民異動届』に必要事項をご記入の上、ご提出ください」
私は淡々と案内した。
彼はコクリと会釈した。
——あぁ、そうだ。手提げ袋で来ているということは、車で来たのだろう。
「車でお越しでしたら駐車券をお手元にご用意くださいね。受付で待ってますね」
今度は笑顔を添えて付け加えた。
「∴グ=ラ⊿モゥ//=∽ティ・Ωラ」
男は聞き取りにくい声でごにょごにょと呟き、市役所を出ていった。
——もしかして、本当に異星の人だったりして。
一瞬そんな考えが脳裏をかすめたが、すぐに頭を振って気持ちを切り替える。次は、品の良さそうな身なりの老婦人がやってきた。
「こんにちは、本日はどのようなご用件でしょう?」
丁寧にあいさつすると、彼女はにこりと微笑んで言った。
「昆布、宇宙、カレンダー」
完
(本文596字)
あとがき
はらとけいさんの企画『せりふ三題噺』に参加させて頂きました。
■セリフ
「受付で待ってますね」
■三題
・宇宙・カレンダー・昆布
