僕の旅は、コース料理。最後を締めくくるプリミティブな余韻、セーシェルへ。
僕の旅は、コース料理と似ている。
まずはトランジットの街で、少しずつ海外の空気に身体を慣らしていく。例えば、そこから、遺跡などの世界遺産、文化レベルの高い都市、圧倒的な大自然を巡り、最後は「何もしなくていい」極上のビーチリゾートで締めくくる。
とりわけ、僕は自他共に認める飽き性だ。 一回の旅で、一つの国を隅々まで極めようなんて微塵も思わない。スタンプラリーのように、ひたすら行ったことのない国を巡るということにも興味がない。そもそも、旅先を「国」という枠組みで選んでさえいない。ただ、気に入ればまた来ればいい。僕のスタンスはいつもそれくらいシンプルだ。
旅の行き先を決めるきっかけは、いつも一枚の写真や動画、あるいは映画や本だ。「この景色を自分の目で見てみたい」「この地に自分の足で立ってみたい」。その純粋な欲求だけが、僕を次の旅へと突き動かす。
今回の旅もまさにそうだった。野生のケニア、世界遺産の島ザンジバルを経て、僕の旅路はついに最後の地へ。
そもそもなぜセーシェルを選んだのか。ザンジバルから日本へ帰る便の経由地となるアブダビ、ドバイ、カタール。その中間あたりでどこか良いリゾートはないかと、Google Mapと航空券検索サイトを眺めていて偶然見つけたのが、この国だった。ラ・ディーグ島にある奇岩のビーチの写真に一目惚れし、ここを今回の旅の「最後の一皿」に決めた。

セーシェルへと向かう道中、経由地であるエチオピアのアディスアベバでのトランジット。当時の僕は「安全ではないのでは」という勝手な思い込みから、夕方に到着して翌朝が早かったこともあり、ホテルから一歩も出ずに夕食を済ませた。アフリカを何度も旅をしてきた今の自分からすれば「ありえない」選択だ。事実、2025年の年末年始に再訪したアディスアベバは、驚くほどクリーンで安全な街になっていた。8年前、土埃の立つ道路を何十頭ものヤギを従えた人が堂々と横断していたあの土臭い景色は、今や山奥でしか見られない。当時のエチオピアの記憶といえば、空港で飲んだ一杯のコーヒーの味くらいだ。コーヒーの名産地だからと期待して飲んだものの、拍子抜けするほど普通だったのを覚えている。

マヘ島に降り立ち、まずはフェリー乗り場へ。 セーシェル国際空港からタクシーで15分ほどの距離なのだが、初めての国や都市で船に乗る時、正しい乗り場を探し当てるのは本当に骨が折れる。案内サインも少なく、道行く人たちに尋ねながらようやく辿り着いたのも、今となってはいい思い出だ。

そこからラ・ディーグ島まではフェリーで約90分。香港〜マカオ間や小笠原丸のタフな航海を経験してきた僕にとっては、どうってことのない揺れで到着した。

僕にとって初のアフリカの島国、セーシェル。ザンジバルとはまた違う、完全なる島国だ。
ラ・ディーグ島の港からホテルまでは歩いてたった10分。でも、目の前に停まっていた「自転車+リヤカー」のタクシーを見たら、利用しない手はない。自分が乗るのではなく、スーツケースを運んでもらうためのものだ。手ぶらで身軽になりながら歩く。

島に到着したのが夕方だったこともあり、滞在したブティックホテル「Le Repaire」にチェックインする頃には、もうすっかり夜になっていた。その日は無理に外へは出ず、ホテル併設の島で人気のイタリアンで夕食を済ませた。移動日の夜は、これくらい肩の力が抜けているほうがちょうどいい。

翌朝。心地よい目覚めとともに自転車を借りて、いよいよ島を繰り出す。
目的の絶景のビーチへ向かう道中、かつてのココナッツ農園の面影を残す「リュニオン・エステート(L'Union Estate Farm)」を通り抜ける。そこで出会ったのが、セーシェル固有種のアルダブラゾウガメだ。平均寿命は150年とも言われ、その巨大な甲羅と長く伸びる首は、亀というよりは恐竜に近い。モーリシャスやレユニオンなどにも移入されているようだが、この島で悠久の時を生きる彼らの姿には、どこか神々しさすら漂っていた。

そして、自転車を停めて、少し歩いた先で、僕はあの「一目惚れした絶景」と対面した。


アンス・スース・ダルジャン。ここはもう、圧巻の一言だった。 写真では見ていたはずなのに、いざ目の前にすると言葉を失った。どこまでも透き通るエメラルドの海。世界中の美しいビーチを巡ってきた今振り返っても、ここは間違いなくTOP3に入る絶景だ。そして、このビーチを他にはない唯一無二の場所たらしめているのは、海辺に鎮座する巨大な花崗岩の群れだ。
この島は、かつて地球上に存在した巨大な「ゴンドワナ大陸」が分裂して海に取り残された、大陸の欠片なのだという。約6,500万年もの歳月をかけ、波と風が削り出した地球のアートだ。


何より、これほどまでに個性的で、地球の鼓動と歴史をむき出しにしたようなプリミティブな風景には、そう滅多に出会えるものではない。僕はただ、奇岩が連なる浜辺で、この圧倒的な空間を静かに堪能した。
この島へはまた必ず戻ってくる。その時は自転車で島を一周してみるのも悪くない。
残すは、旅の終着点である、セーシェル最大の島「マヘ島」。強烈なデザートにあとに待つ、極上の食後酒のような時間へと旅は続く。
