スイスのシャンペリー、フィギュアスケートスクール、トリノ合宿レポ
2024年5月にシャンペリーのフィギュアスケート、3Sスクールの新シーズンをスタートする合宿が、トリノのパラヴェーラリンクで行われました。その合宿でランビエルコーチ、3Sスクール校長のクリスさん、デニス・ヴァシリエフス選手ににインタビューした、イタリア語の記事を訳しました。
5月のトリノ、パラッツォ・デッラ・ヴェーラリンクでは、ステファン・ランビエルさんが率いるスケーティング・スクール・オブ・スイスのキャンプが行われていました。2004年にヴァレー州のアルプスの村、シャンペリーに開設されたスクールです。
ArtOnIce.itはこのキャンプの見学と取材の許可をいただきましたので、キャンプの内容やコーチ、選手のコメントをお伝えします。

クリストファー・トレビザン氏は、スクールの校長であり、このキャンプの責任者として、トリノのキャンプに同行していましたので、キャンプについての説明をお願いしました。
AOI:クリストファーさん、今回のキャンプについて教えていただけますか?
クリス:もちろんです。キャンプの期間は5月9日から20日まで、年齢とスケートのスキルで参加者を2つのグループに分けています。スイス、イタリア、フランス、エストニア、ラトビア、ウクライナ、韓国から約40人の選手が参加していて、参加者の年齢は9歳から24歳までです。スイスではまだ学校が休暇に入っていない時期なので、全員の参加は無理でしたが、スケーティング・スクールに在籍している選手の多くがこのキャンプに参加しています。氷上指導はステファン、アンジェロ・ドルフィーニ、スイスのジュリア・イスチェリ(ヨガ指導も兼任)、元エストニア代表のゲルリ・リイナマエ、アリアンナ・ウロブレフスカ(元スイス代表のアイスダンサー)のコーチ陣が担当し、陸上トレーニングは、鳴海令那(コンテンポラリーダンス)、ベアトリーチェ・ベルスキ(バレエ) が指導しています。
AOI:とても国際色豊かなグループですね!氷上練習は1日何回ですか?
クリス:氷上練習が1日3回と、(ヨガやダンスなどの)オフアイストレーニングが1回、これを各グループが毎日行う、というスケジュールです。
AOI:ありがとうございます!
パラヴェーラの氷上では、カリスマに満ちたステファンさんの滑りをほんの少し見ることができました。コーチとしてだけではなく、日本のアイスショー・ツアーを控えて、プロスケーターとしてプログラムを準備していたためです。ステファンさんは、快く質問に答えてくださいました。
AOI: ステファンさん、パラヴェーラの氷上でまた滑る姿を見ることができて本当にうれしいです。このトリノで、ご自分のスクールの新シーズンをスタートするのはどんなお気持ちですか?
ステファン:スクールの昨シーズンは4月中に終わっていて、その後2週間氷から離れるはずでした。その2週間はバカンスのはずでしたが、最初の1週間はロンドンでデニスの新しいフリープログラムの振り付けをしたのです。休んだわけではなかったけれど、新鮮で刺激的な環境を体験できたのは良かったです。個人的に世界でも有数のバレエダンサーだと感じる、ワディム(・ムンタギロフ、ロイヤル・バレエ団のプリンシパルダンサー)さんに直接会うことができて、信じられないような思いでした!(デニス選手の新しいフリープログラムになる)バレエ『ラ・バヤデール』のソロル役をどのように表現すれば良いのか、プログラムのために編曲した部分が、バレエのどのシーンにあたり、どんなストーリを語るのかなど、ワディムさんは多くのインプットを授けてくれました。すべてが、プログラムでソロルを演じるデニスの役に立つディテールとなる貴重な情報です。ロンドンに滞在していた間に、氷上でも時間が取れたので、ワディムさんがスタジオで私たちに伝授したことを、氷の上で形にすることができました。
厳密には休暇とは言えませんでしたが、とても濃い時間を過ごしました。
そしてその後に、クリスと数日バカンスに行くことができました。

2週間の中断後に、ここパラヴェーラでキャンプをスタートしました。うちのスクールの生徒だけではなく、エストニア代表のマリア・エリーゼ(カルジュヴェレ)やマルタ・プランジェル、イタリア代表のマルティーナ・サンティア(PAT Torino)のように、外部の生徒も参加しています。(イタリアの)ラファエレ・ジックは学校の試験や自分のスケーティング・クラブ(Torino Ice Club)のトレーニングの関係であまり参加できませんでしたが、ヨガのレッスンや、氷上でも少し一緒に滑ることができました。今回はイタリア選手に振り付ける機会はなかったですが、また6月にでも、その機会があればお知らせします。
AOI:氷上練習で、特に若い選手の多くがヒップ・プロテクターを着用していることに気づきました。怪我を予防するための、あなたのアドバイスですか?
ステファン : プロテクターの使用について何か言ったことはないです。動きが制限されるように感じ、着用したくない選手もいますし。選択は完全に個人の自由で、自分で決めることだと感じています。この生徒たちは自分で決めて着用しているので、私が何かを言ったからではありません。
AOI:シャンペリーは氷の質がとても良いと聞きましたが、このリンクの氷の質はいかがですか?
ステファン:とても良い氷です。氷だけではなく、長い伝統を感じさせる建物や、この施設のスタッフのホスピタリティと歓迎されている感覚が、ここを特別な場所にしています。とても居心地が良いし、現役時代のキャリアで、思い出深い時間を過ごしたリンクですから。ここに戻ってくるたびに気持ちが高揚します。
AOI : お時間を取っていただき、心から感謝します。氷の上にいるあなたを見るたびに、それがほんの短いステップであったとしても、心が沸き立ちます!
最後に話を聞いたのは、キャンプ参加選手中で最年長のベテラン、ラトビア代表のデニス選手です。6月のISU総会でルールの変更が決定するまでは、様々な要素がまだ暫定な中で、コーチが明かしたように、振り付けたばかりの新しいフリープログラムの細部に磨きをかけているところです。
デニス選手は前のお二人より長く時間を割いてくださったので、一緒にカプチーノを飲みながらお話を聞きました。

AOI: デニス選手、ワディム・ムンタギロフさんとの振り付けはどうでしたか?
デニス:優しい穏やかな物腰の方で、踊るときだけではなく、普通に歩いているだけでも、その優雅な動きには目を引かれてしまいます。ワディムさんは振り付けの動きをどのように表現すべきかの、はっきりしたイメージを与えてくれました。それだけではなく、警備上の問題を克服して、ロムフォードのアイスリンクまで来てくれたのです。僕に自伝(From small steps to big leaps)を持ってきてくれました。ここまで彼がたどった道のりを読むのは、とても興味深いです。まだ途中までで、読み終えていませんが。
ワディムさんご本人に会うことで、そのビジョンにつながることができたし、あれだけの成功を収めたダンサーなのに、あまりにも謙虚な方だと驚くほどでした。長い間追い続け、敬愛してきた方にお会いできるのは、多くの人にとってただの夢でしかないものです。僕たちの場合はそれが実現したのです。だからこそ今は、これだけの期待に応え、彼の貴重で多忙な時間を捧げていただいたチャンスを活かさなければならないと、プレッシャーを感じています。
AOI:きっとワディムさんの期待に応えられると信じています。昨年11月にミラノで出演した、オリンピック関連イベント「Be Inspired」ショーについて、観客の私たちが見ることができなかった場面で、印象に残っていることや楽しかったり興味をひかれたことがあったら教えてください。
デニス : ミラノコルティナダンペッツォ イベントの「 Be Inspired」について、良い経験になると思い、高いモチベーションを持って参加していました。個性的な、これまであまり滑ったことがないような音楽を提案され、事前の準備なくそれを振り付けることになって滑ったのです。だから魅力的で創造性に満ちた、ちょっと違うことをやってみようかというような、あまり重圧を感じず滑れる感じのシチュエーションでした。オリンピック関係のイベントに出演できるのは、アスリートならだれでも大きな意味を持つと思うので、だからこそ少しプレッシャーになっていたかもしれないのですが、良い意味での気持ちの高揚でした。それと試合で良く会うイタリアの選手たちが出演していて、ショーという場で、イタリアンポップで彼らがどういう演技をするのかを見ることができたのが、興味深かったです。 初めて会場に入った時、イタリア選手が音楽をかけて練習していて、なぜかはわからないけれど、見ごたえを感じました。試合以外で彼らと話せたのも良かったです。イベント全体を心地よい短編映画のように感じていました。濃密な体験で、モチベーションが湧いてくるような。パラリンピックのアスリートたちも出演していたし、スポンサーがショーを見に来ていたり、ヴァレンティーナ・マルケイがコーディネーターとしてその場にいて、彼女と話すこともできました。本当に良い経験になりました。
自分の演技の前に、水が入っていないプールの裏手にウォーキングに行ったのですが、きれいな夜空を見ながら街の騒音を聞いていた時間が印象に残っています。オリンピックまでまっすぐ続く道程を初めて意識したというか、そういう象徴的で大切な時間でした。オリンピックはある意味キャリアの集大成になると思うと、過去の大会の経験、平昌や北京、コロナの思い出があふれるようによみがえって来ました。イベントそのものにそれほど大きな期待を持っていたわけではないのに、良い思い出も良くない思い出もひっくるめて回想する引き金になったのです。あとは、イタリアに行っていろいろな体験をしたり、ただイタリア語が聞こえてくるだけでも、いつも自然に笑顔になれます。意義深い充実感のある体験でした。機会があれば、ぜひまた出演したいです。
AOI : この夏いろいろなライブミュージックに合わせて滑る経験をされました。まず歌詞を理解できないJ-POPで滑り、ブレードの音だけを使ったプログラムがあり、一番最近ではピアノの生演奏に合わせて演技するショーがありました。そういった体験から何か得られましたか。そして生演奏と録音した音楽で滑るのとは、どれぐらい違いますか。
デニス : 様々な経験からの一番大きな気づきは自分の取り組みの違いです。「J-POP」で滑っていた時は、意味ではなく音に合わせて滑っていました。だからなのか、より激しく、むき出しの鋭い感情表現だったと思います。ブレードの音に合わせたプログラムは、何よりも流れを意識していました。非常に繊細でやさしい滑り、どう観えるかを理解することは完全に放棄して、カーブを描くときやただ滑っているときに奏でる美しいブレードの音や、逆に音がしないように滑るといったことに、完全に集中していたのです。自分たちがブレードに乗って滑るスキルや本来のスケートが何かを改めて感じるのはとてもワクワクする体験で、素晴らしい感覚でした。
ピアノの生演奏は、またかなり違いました。その瞬間の演奏者の感性によって聞こえてくる音が変化して、その中でも互いのつながりを大切にしなければいけないと感じ、聞こえる音にすぐ反応するのはそれほどやさしいことではなかったのですが、それでも素晴らしい経験でした。二人とも音楽を導くことができたときはこれほど満ち足りた感覚はないからです。ピアニストはピアノを演奏して音楽をリードし、僕は同じことを自分の動きでやって、それが一つになれたとき、本当に特別だったと思うし、少なくとも僕はそう感じていました。生演奏が与えてくれる満足感は格別で、イメージや感情、情熱は音に投影することでさらに高揚するし、滑る時ですら次に何が待っているのか予想できないという意味で、ミステリアスでもあります。シャンペリーで、僕の誕生日に開催されたイベントは本当に良い思い出になりました。ぜひまたライブミュージックで滑ってみたいです。
僕がただ演技するのではなく、アーティストとつながって演技をすることで、エネルギーや高揚感が増幅されます。どんな音楽を演奏するのか、その音楽を通じてどのように自身を表現するのか、アーティストを知り、つながることができたときにそれが起こります。ライブミュージックで滑るときには(録音した音楽とは違う)ことが沢山あります。演技者として本当に素晴らしい経験でした。観てくださるお客さんも同じように感じてくださっていれば良いなと思っています。
AOI : お忙しい中、ゆっくりお時間を取っていただき、ありがとうございました。新シーズンのご活躍を祈っています。
