【シロクマ文芸部】天運のおこぼれ
水たまりの反射が見えてきた。ワタリは精いっぱい羽ばたき、眼下の白い反射を目指した。
しかし足を着いてみれば、それは水たまりではない。ソーラーパネルだ。
「くそ、また文明か。人間め」
もうずいぶん水を飲んでいない。早く水たまりを見つけなければ死んでしまう。ワタリは最後の力を振り絞り、羽ばたいた。
アメンボにとって水場は生死にかかわる。ワタリは高く飛び、揺れる水の反射を必死に探した。恐らくこの飛翔が最後の力、命がそう言っている。
羽が重くなり、だんだん体が沈む。遠くも見えなくなってきた。水ならどこでもいい。池でも田んぼでも、乾く寸前の水たまりでもいい。
水を下さい。ワタリは誰にというでもなくそう言って、落下していった。
*
「という経緯で助けていただいたアメンボです。名をワタリと言います」
「あ、うん。身に覚えはあるよ」
四、五十代ほどの壮年の男がアメンボを自称して家に尋ねて来た時は驚いた。25歳フリーターの禅介はコンビニバイトの面接の帰り、干からびかけのアメンボを見つけた。
少しでも徳を積もうと、アメンボを拾い上げて近くの公園の池に連れて行った。ちなみに面接は不採用だった。
天運のおこぼれにあやかる者同士、同じ屋根に集ったのである。
