8月11日「山の日」の裏で起きていた、もう一つの“山”をめぐる話(№105)
8月11日は「山の日」。1995年の「海の日」制定をきっかけに山岳団体や国会議員が動き、紆余曲折を経て2016年に始まった国民の祝日です。
しかし、この国家レベルで勝ち取った記念日に、驚くべき速さで便乗した者がいました。そう、明治の「きのこの山」です。
民意の「たけのこ」、制度の「きのこ」という深刻な「ねじれ菓子」構造の中、2026年、AIという恐ろしい仲裁者が現れました。両陣営を粉砕して一つにする力技の平和解決法とは——?
「山の日」の裏で繰り広げられた歴史と戦争、そしてチョコを脱いだ山を愛する男のエッセイです。
今日は2026年8月11日、火曜日です。
「海があるなら山も」から始まった長い道
この日は「山の日」。
2014年に法律が成立し、2016年から始まった、比較的新しい国民の祝日です。
しかし、この祝日が誕生するまでには、なかなかの紆余曲折がありました。
大きなきっかけの一つとなったのが、1995年に「海の日」が国民の祝日として制定されたことです。
日本は国土の7割近くを山地が占める「山の国」。
ならば、
「海の日があるのなら、山の日もあっていいではないか」
という声が、山岳関係者の間で高まっていきました。
実際、国の祝日になる以前から、各地では独自の「山の日」が生まれています。
山梨県では1997年に8月8日を「やまなし山の日」と制定。その後も広島県、大阪府、岐阜県、群馬県などへと広がり、2012年の時点では「山の日」という名称の記念日を持つ府県が13もあったそうです。
やがて山岳団体がまとまり、国会議員への働きかけが始まり、2013年には超党派の「山の日」制定議員連盟まで発足。
いよいよ国民の祝日へ――。
ところが、そこで問題になったのが、
「何月何日にするのか」
でした。
山の日なのだから登山に適した時期がいい。
祝日のない6月はどうか。
海の日と近づけてはどうか。
いっそ、お盆休みにつなげてしまえば休みやすいではないか。
さまざまな案が検討され、最終候補として浮上したのが8月12日でした。
ところが8月12日は、1985年に日本航空123便が御巣鷹の尾根へ墜落した日です。
毎年、慰霊が行われる日に「山の日」という祝日を重ねることへの懸念が示され、結局、一日前の8月11日に落ち着きました。
こうして2014年に法律が成立し、2016年8月11日、初めての「山の日」を迎えます。
祝日にサッと登頂した「きのこの山」
ところが…
国家レベルで長い年月をかけてようやく誕生したこの祝日に、驚くべき速さで便乗した者がいました。
明治の「きのこの山」です。
国民の祝日「山の日」が初めて施行された2016年、その同じ8月11日を、明治は日本記念日協会へ申請。
見事、
「きのこの山の日」
として正式認定を勝ち取ってしまいました。
この抜け目のなさ。
国家が苦労して作った「山」に、お菓子がサッと登頂してしまったのです。
当然、面白くないのが「たけのこの里」。
カレンダーをどれだけ探しても、「里の日」という国民の祝日はありません。
しかも、過去に明治自身が行った三度の公式「きのこたけのこ国民総選挙」を振り返ると、
2001年 たけのこの里
2018年 たけのこの里
2019年 きのこの山
で、戦績はたけのこ側の2勝1敗。
さらに明治が後に行った全国調査では、47都道府県中46都道府県で「たけのこ愛」が「きのこ愛」を上回ったという結果まで出ています。
民意では、たけのこ。
制度では、きのこ。
これはもう、深刻な「ねじれ国会」ならぬ「ねじれ菓子」です。
チョコを脱いでも「山」である潔さ
……と、偉そうに民意を語っておりますが。
実は私自身は「きのこの山」派です。
しかも、もっと正確に申しますと、私が忘れられないのは2023年夏に期間限定発売された、
「チョコぬいじゃった!きのこの山」。

なんと、本来なら傘にあたるチョコレート部分を全部取っ払い、クラッカーの軸だけを約60本詰め込んだ商品でした。

「それは、もはやきのこの山なのか?」
という根源的な問いを投げかける一品です。
しかし私は、あのサクサクしたクラッカーが好きなのです。
チョコレートがなくなってもなお、
「私は、きのこの山である」と
言い張る潔さ。
立派ではありませんか。
AIがもたらした「両軍粉砕」の平和
ところが今年2026年、長年続いてきた「きのこ・たけのこ戦争」に、ついに恐ろしい仲裁者が現れました。
AIです。
明治が4月に発売した、その名も、
「きたきたのこのこの山里」。
AIとの対話から生まれた、史上初の両者合体商品です。
どのように和解したのかと思ったら、
きのこのクラッカーを砕く。
たけのこのクッキーも砕く。
そこへチョコレートなどを加え、まとめてバー状に固める。
……。
対立をなくすために、
両陣営を粉砕して一つにする。
なんという力技でしょう。
人間なら、
「双方の個性を尊重しながら共存の道を……」
などと会議を始めるところを、
AIは容赦がありません。山も
も一度粉々にしてしまえば、派閥争いそのものが存在しなくなる。
確かに平和です。
もっとも、「きのこの山」も「たけのこの里」も、もはや原形をとどめていませんが。
今夜、好みの「山」を買って帰ろう
8月11日。
大人たちが長い年月をかけ、あれこれ知恵を絞って誕生させた「山の日」。
その山へちゃっかり登頂した「きのこの山の日」。
そして長年の「きのこ・たけのこ戦争」を、両方粉砕することで強制終結させようとするAI。
今日はそんな歴史に思いを馳せながら、お菓子売り場で好みの「山」か「里」を一つ、買って帰ることにしましょう。
もっとも私は――。
やっぱり、チョコを脱いだ「山」にもう一度会いたいのです。
