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「時短コスメを買い足すほど、朝が短くなる」謎

——これ一本で五役、が三本ある


どういうわけか、時短コスメを買い足すほど、朝が短くなるんです。

こんな話を、育休明けの後輩にしてみたところ、「先輩、それ買いすぎなだけですよ」と即答されたので、なるほどと思って買うのをやめてみたら、今度は朝、鏡の前で腕を組んで何もせずに立っている時間が増えた。何もしないのにも時間はかかる。朝はさらに短くなった。これは新しい発見だった。

そもそもの始まりは、雑誌だったと思う。「これ一本で五役」という言葉が、見開きの真ん中に、堂々と、ほとんど宣言のように書いてあった。化粧下地と日焼け止めと美容液とファンデーションとコンシーラー。五つが一つになる。ということは、単純計算で五分の一の時間で済むということだ。私は算数が得意なほうではないけれど、これくらいの計算はできる。買った。

翌朝、私はそれを塗った。たしかに五役だった。五役だったのだが、塗り終わったあと、なんとなく顔が平坦に見えて、結局その上からいつものパウダーをはたいた。五役プラス一役である。役が増えた。

ちゃちゃっと済ませるはずだった。ちゃちゃっが、この数年の私の合言葉である。子どもを起こして、着替えさせて、朝ごはんを出して、洗い物を水に浸けて、自分の顔をちゃちゃっとやって、保育園に走る。調査によると、働く女性が一日の美容にかけたい理想の時間は「二十分から三十分未満」が最も多いのに、現実は「五分から十分未満」にとどまっているらしい。理想と現実に三倍近い差がある。三倍。私はその差の中に、毎朝、住んでいる。

しかも、である。同じ調査では、八割以上の女性が「忙しくて美容の時間が取れない」と答えている。別の調査では、「きれいになるためなら費やす時間は惜しまない」と答えた人は27.6%しかいないのに、「きれいになるために費やす時間をなるべく短縮したい」と答えた人は89.3%にのぼる。ほぼ全員である。ほぼ全員が、短くしたがっている。

そして、そのほぼ全員に向けて、五役が売られている。

一年後、私の洗面台には、五役が三本並んでいた。

念のため書いておくと、私はこれを一度に買ったわけではない。一本目は雑誌で、二本目はインフルエンサーの「本当に時短が叶うのはこっち」という動画で、三本目はドラッグストアの、レジ横の、あの、なんというか、あそこに置かれているものは買ってしまうという場所で買った。どれも五役だった。合わせて十五役。私の顔には、そんなに役がない。

問題はここからで、五役が三本あると、朝、どれを使うか選ぶという工程が発生する。今日は乾燥しているからこっちか、いや今日は会議があるからこっちか、と考える。この時間が、だいたい四十秒。四十秒というのは短いようだが、五分しかない人間にとっては十三パーセントである。時短のために買ったものが、私の朝の一割強を食べている。一本買うたびに、朝が四十秒ずつ短くなっていく計算になる。

さすがにこれはどうかと思い、私は夜、寝る前に「明日はこれ」と決めておくことにした。賢い。自分でも賢いと思った。ところがその夜、決めるにあたって念のためレビューを見はじめてしまい、気がついたら三十分が経っていた。翌朝、私は寝不足で、寝不足の顔に、前夜に決めた一本を塗った。
こうなるともう、これは時短ではなく、時間の移動である。朝から夜へ、五分が三十分になって引っ越していく。しかも増えている。

さらに言えば、女性の九十五パーセントがスキンケアとヘアケアに一日三十分以内しかかけていないというデータがあり、最も多いのは二十分だという。毎月の美容費も、六十七パーセントの人が五千円以内に収めている。つまり、みんな、少ない時間と少ないお金の中で、なんとかやりくりしている。やりくりしているはずなのに、なぜ私の洗面台には五役が三本あるのか。

先日、洗面台を拭きながら、ふと思ったことがある。

私は、時間を短くしたくてこれを買ったのだろうか。それとも、「時間を短くしたい」と思っている自分を、なんとかしたくて買ったのだろうか。

たとえば五役を買った日の夜、私は少しだけ機嫌が良かった。明日の朝が楽になると思ったからだ。実際には楽になっていない。でもあの夜、私は確かに、少し救われた気持ちで眠った。だとすると、私が五千円で買っていたのは五つの役ではなくて、「明日はもう少しなんとかなる」という気持ちのほうだったのかもしれない。

そう考えると、あれを三本買ったことにも、一応、筋は通る。通るのだが、それはそれとして、洗面台には今日も三本並んでいて、私は今朝もその前で四十秒ほど迷い、結局いちばん手前のものを取った。そのぶん、朝はまた短くなった。

時短というのは、いったい何を短くする行為だったのだろう。少なくとも私の場合、短くなっているのは、たしかに朝のほうである。

答えが出ないまま、明日もまた、五分より少し短い朝がやってくる。


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