仕事を辞めたい。でも次にやりたいことがない―「とりあえず事務」で決める前に考えたいこと
「今の仕事は辞めたいです」
そう話してくれる人に、
「では、次はどんな仕事がしたいですか?」
と聞くと、急に言葉が止まってしまうことがあります。
今の仕事が嫌な理由なら、いくつも出てくる。
思っていた仕事と違った。
人間関係がうまくいかない。
売上を追うのがつらい。
休みが合わない。
この働き方をずっと続けるのは難しい気がする。
でも、
「じゃあ、次は?」
と聞かれると分からない。
そして、こんな言葉が出てくることがあります。
「もう、どんな仕事でもいいです」
「給料は多少下がってもいいです」
「事務とかでいいかなと思っています」
今日は、そんな「辞めたい。でも次にやりたいことがない」という状態について考えてみたいと思います。
就活のときは見なかった「事務職」が、急に魅力的に見える
学生時代の就職活動では、美容やブライダル、ジュエリーなど、華やかに見える仕事に惹かれていた。
そのころは、事務職にはあまり興味がなかった。
「なんとなく地味そう」
そんなイメージで、選択肢に入れていなかった人もいます。
ところが、実際に働き始めてみる。
接客に疲れた。
売上を求められるのがつらい。
土日に休めない。
人間関係に悩んでいる。
すると今度は、
「事務職がいいです」
となることがあります。
もちろん、事務職を選ぶことが悪いわけではありません。
実際に働いてみた結果、自分には事務の仕事が合っていると分かることもあるでしょう。
ただ、私はそんなとき、一度確認したくなります。
「事務の仕事って、どんな仕事だと思っていますか?」
「事務なら楽そう」も、一つのイメージかもしれない
たとえば、
「事務なら人とあまり話さなくてよさそう」
「事務ならノルマがなさそう」
「事務なら落ち着いて働けそう」
そんなイメージを持っているかもしれません。
でも、「事務職」と一言でいっても、仕事内容や求められることは会社や職場によって違います。
人との調整が多い仕事もある。
電話対応が多い職場もある。
スピードや正確さを求められる仕事もある。
周囲の人を見ながら、先回りして動くことを期待される場合もあるでしょう。
だから大切なのは、
「事務職に転職したい」
で止めずに、
「私は、事務職の何に惹かれているんだろう?」
まで考えてみることだと思います。
「憧れ」で選んだ次に、「楽そう」で選ばない
この話は、この「憧れの仕事、そのあと。」でこれまで書いてきたことともつながっています。
美容が好きだから、美容の仕事。
結婚式が好きだから、ブライダルの仕事。
ジュエリーが好きだから、ジュエリーの仕事。
もちろん、それが仕事を選ぶきっかけになってもいい。
でも、働いてみたら、
「好きなもの」と「自分に合う仕事」は、必ずしも同じではなかった。
そんなこともあります。
そこで今度は、
「接客がつらかったから事務」
「売上が嫌だったから事務」
「土日勤務が嫌だったから事務」
と選ぶ。
方向は正反対に見えます。
でも、少し厳しい見方をすれば、
「仕事の中身をよく見る前に、イメージで選ぶ」
という仕事の選び方そのものは、あまり変わっていないのかもしれません。
だから、一度目の就職で「思っていたのと違った」と感じたのなら、その経験を二度目の仕事選びに使いたい。
「今の仕事の反対側」を探すだけではなく、
次はもう少し、仕事の中身を見てみる。
それだけでも、仕事の選び方は変わってくると思います。
やりたいことがないなら、無理に作らなくてもいい
とはいえ、
「じゃあ、本当にやりたい仕事を見つけましょう」
と言われても、困ってしまう人もいると思います。
今の仕事で疲れている。
早く環境を変えたい。
そんなときに、
「あなたが本当にやりたいことは?」
と聞かれても、分からない。
私は、それなら無理に答えを作らなくてもいいと思っています。
代わりに、一度こう考えてみます。
「私は、今までの仕事で何をしてきたんだろう?」
ここに、次を考えるヒントが隠れていることがあります。
本人は「大したことじゃない」と思っていた
以前、ブライダルの仕事をしている若い人から、こんな話を聞いたことがあります。
結婚式までの間、新郎新婦とは何度も打ち合わせをします。
まだ若く、担当しているお客様の数もそれほど多くありませんでした。
それでも、
「せっかくなら、何でも話してもらえるような関係になりたい」
と思っていたそうです。
そこで、その人は自分なりの工夫をしていました。
新郎新婦との打ち合わせで話したことを、できるだけメモしておく。
結婚式に直接関係することだけではありません。
好きなもの。
旅行に行った話。
前回の打ち合わせで出たちょっとした雑談。
そういうことも書いておく。
担当するお客様が増えると、一冊の手帳では分からなくなってしまう。
そこで、お客様ごとに手帳を用意したそうです。
いわば、自分なりのカルテのようなものです。
次の予約が入ったら、その手帳を少し読み返してから打ち合わせに臨む。
本人にとっては、
「別に、そんなに大したことではないんです」
という感覚だったのだと思います。
でも、式が終わったあとも会いに来てくれるお客様がいた。
新婚旅行のお土産を持ってきてくれた人もいた。
手紙をくれた人もいた。
もちろん、それが手帳を作っていたからだとは言い切れません。
ただ本人にとって、自分なりにお客様との関係を大切にして仕事をした結果、そんな反応をもらえたことは、とてもうれしい経験だったようです。
それ、本当に「何もない」でしょうか
この人が転職活動で、
「私はブライダルの仕事をしていました」
だけで自分の経験を説明したら、この話は見えてきません。
でも、行動を一つずつ見てみると、
相手が話したことに関心を持つ。
必要な情報を記録する。
複数のお客様の情報が混ざらないよう整理する。
次に会う前に確認する。
前回の会話を次のコミュニケーションに生かす。
より良い関係をつくるために、自分なりの方法を考える。
そんな仕事の仕方が見えてきます。
これを全部、
「コミュニケーション能力があります」
という一言にしてしまうのは、少しもったいない。
むしろ、
「私は仕事をするとき、こういう工夫をする人間なんだ」
と考えてみる。
それなら、ブライダル以外の仕事にも持っていけるかもしれません。
営業でも生かせるかもしれない。
お客様を継続的に担当する仕事でも生かせるかもしれない。
周囲との調整が必要な仕事でも生かせるかもしれない。
そして、事務職の中にも、そうした力を生かせる仕事があるかもしれません。
大事なのは、
「あなたにはこの仕事が向いている」
とすぐに職種名を決めることではありません。
自分がすでに持っているものを知ったうえで、それをどこで生かせそうか考えること。
そこから仕事を探す方法もあります。
転職は、自分が入りたいだけでは決まらない
転職活動を始めると、もう一つ現実的なことも考える必要があります。
「私はこの会社に入りたい」
だけでは、転職は成立しません。
企業側にも、
「この人と一緒に働きたい」
「これまでの経験を、うちでも生かしてもらえそうだ」
と思ってもらう必要があります。
中途採用では、これまでどんな仕事をして、そこでどんな経験や能力を身につけたのかが、採用を考える材料になります。
だから、
「今の会社が嫌なので、違う仕事がしたいです」
だけではなく、
「今までの経験から、私は何を次の会社に持っていけるだろう」
を考えておく。
これは、面接をうまく切り抜けるためだけの作業ではないと思っています。
自分自身が、
「私は何もできない」
から、
「意外と、これなら次にも持っていけるかもしれない」
と気づくための作業でもあります。
「やりたいこと」と「できること」、両方から探してみる
転職を考えると、
「次に何がしたい?」
という問いばかりが大きくなりがちです。
もちろん、やりたいことがあるなら大切にしたい。
でも、今は分からないのなら、別の入り口から考えてもいいと思います。
たとえば、
今の仕事で、嫌ではなかったことは何だろう。
周りから頼まれることは何だっただろう。
自分なりに工夫していたことは何だろう。
うまくできたとき、少しうれしかったことは何だろう。
お客様や同僚から、喜んでもらえたことは何だろう。
こういう小さなことを拾っていく。
資格でなくてもいい。
表彰された経験でなくてもいい。
大きな売上をつくった経験でなくてもいい。
毎日の仕事の中で、自分が当たり前のようにやっていたことに、その人らしさが出ていることがあります。
次の仕事は、「逃げないため」に選ぶものでもない
ここまで書くと、
「今の仕事が嫌だから転職するのはダメなの?」
と思う人もいるかもしれません。
そんなことはありません。
今いる環境から離れたい。
それも十分、転職を考えるきっかけになります。
無理に今の仕事のいいところを探して、好きになる必要もありません。
ただ、
せっかく一度働いたのなら、その経験を何も持たずに置いていかなくてもいい。
つらかったことからは、
「次は何を変えたいか」
が分かる。
嫌ではなかったことからは、
「次にも何を残したいか」
が分かる。
自分なりに工夫したことからは、
「私はどんなふうに仕事をする人なのか」
が見えてくる。
そうやって、今の仕事で得た材料を少しずつ次に持っていく。
それができれば、
「憧れて選んだけれど、思っていたのと違った」
という経験も、次の仕事選びに生かせるのではないでしょうか。
「次に何がしたい?」に答えられなくても
今の仕事は辞めたい。
でも、次に何をしたいのか分からない。
そんなとき、焦って「やりたい仕事」を作らなくてもいいと思います。
そして、
「とりあえず事務」
と決める前に、一度だけ立ち止まってみる。
私は、事務職の何に惹かれているんだろう。
それは実際の仕事内容と合っているだろうか。
そしてもう一つ。
今までの仕事で、私はどんな工夫をしてきただろう。
そこに、次の仕事へ持っていけるものが見つかるかもしれません。
転職は、自分が会社を選ぶ場でもあり、会社から自分を選んでもらう場でもあります。
だからこそ、
「次に何がしたいか」だけではなく、
「私は次の会社に、何を持っていけるだろう」
という問いも、一緒に持っておきたい。
次にやりたいことが、まだはっきりしていなくても大丈夫です。
仕事を探す前に、まずこれまでの自分の仕事を、少し丁寧に振り返ってみる。
次の選択肢は、そこから見えてくることもあります。
