目を覚ませ僕らのCORONAはMEXICOじゃなくなっているぞ! 6
「マルコム・フリンク……!」
「随分と落ちぶれたな。その無様な姿を見れただけで貴重なトレーニング時間を割いた分の元がとれたと言えよう」
「マルコム、さっきの紫っぽいグリッドマン、まさかあんたっ」
「はいカット」
忽然ライトが一斉につき、マルコムの家を照らした。なんと、黒調の洒落たインテリアも、高級そうな家具も、窓から見えるシアトルの夜景が全部撮影のセットだった。ここはスタジオで、これまでの内容は全部ドラマの撮影だった。いわば劇中劇オチなのだ!
「いや〜熱演中にごめんね!」
申し訳なさそうに掌を合わせながら、プロデュース兼ディレクター兼シナリオライターのアクズメさんがエントリーした。
「ほんっっとうにごめんね!けれどもう撮影する必要がなくなったので、これで解散となります。お疲れでした!」
「「『えええーーーっ!!?」」』
突如の出来ことに、役者ふたりと離れた別室でレコーディングしている声優のU氏まで驚きを禁じ得ない!
「それじゃ僕がこれからサムに説教をかますシーンも」
「俺が筋トレしてシックスパックを取り戻してマルコムと新生チーム・サムライを再結成する場面も」
『アーケインが新しいサムライアタックビークの可変戦艦アルダーゼノンになってのちにグリッドベインと合体する展開も』
「「『全部不発に終わるってこと〜〜〜!!?」」』
「そういうこと。もはや撮影を続ける意味が無くなった。グリッドマンがすべて救ったんだ……」
アクズメさんは斜め上の方向に顔を向け、宇宙の何処かに在る夢のヒーローを思い馳せた。その顔はきれいなジャイアンじみた不気味なまでに爽やかであった。
「待ってくれ、こんなの納得できるか」マルコムを役のグレン・ボーディンが不平そうに言った。「ちゃんと説明してくれるよな?」長い間ヴィランを演じるだけあって、彼の表情と言葉に凄みが帯びていた。
「オレだって受け入れてないぜ!」サム役のマシュー・ローレンスがTシャツを脱ぎ、さらにデブを演じるために纏っていた肉襦袢を脱いで鍛えられた裸体をアピール、大量の汗が滴る!「見ろよこの防弾腹筋!ラストシーンのために半年前から週4でジムに通って絞ったんだぜ。オレのセクシーボディを渇望するレディに失望させるとでもいうのか!?」
「すまない。でももう決まったことで、考えを覆すことはない」アクズメさんはきれいなジャイアンじみた不気味なまでに爽やかな表情のままで言った。「では話そう。撮影が打ち切りになった理由を。2023年の3月24日、すべてはそこから始まったーー」
⚡ S u p e r h u m a n S a m u r a i ⚡
2023年3月24日、それはグリッドマンユニバースが公開する日であった。
「うわああああああああああ!!!」
かわいそうな私は当然映画を観れなかった。日本の映画はみなみの国でリアルタイム上映するためしはなかった。
「うわああああああああああ!!!」
映画を観れなくても、感想やネタバレ情報がSNSに介して流れてくる。この時代における最大の弊害。ましてや私は相互フォローにグリッドマンに関心を持つアカウントは多数存在しており、回避は最早無理の話であった。
「うわああああああああああ!!!」
グリッドマンユニバースを観れない怒りと悔しさのあまりに、私は狂乱に陥ってしまった。よくあることだ。
「うわああああああああああ!!!」
この日もまた暗い部屋の中で叫び声をあげてやり場のない憤怒に苛まれていた。
「おのれグリッドマン……BANDAIとつるんだかッ!うわあああああああああ!!!」
思えばグリッドマンは赤と銀色のBANDAI配色だったし、最近は青も追加してBANDAI SPIRITSを意識させた。そこに気づいたBANDAIアンチである私は初期アンチ君のごとくグリッドマンへの憎悪が煮立っていた。
「うわああああああ……がっはぁっ」
叫ぶと喉が渇いた。私は暗い部屋から這い出て、スーパーマーケットへ向かった。そしてビールコーナーでCORONAがアジアビールの棚に陳列されているのを見た。
「CORONAはMEXICO産だろバカがよ……ウッ!?」
ふとラベルを見ると、表示されている製造国はメキシコではなかった。
「あうあっ」
私は狼狽えた。詳細の理由は伏せるが、CORONAは彼にとってメキシコの荒野を生きる真の男が飲む真の飲料だった。それがメキシコ製ではなくなった。これはおそらく公正な商業的やり取りの結果だろ。しかしマイナス思考に支配されている私からすれば許すまじき背信行為であった。
グリッドマンを観れない、CORONAも信用におけない、二重のショックを受けた私の脳の中にビッグバンの如く破壊と再生が起きた。その時、一抹光が私のコーテックスを照らした。
「そうかぁ……創っちゃえばいいんだ、新しい現実……!」
こうして新たな宇宙が生まれた。それが此処、スーパーヒューマンサムライサイバースクワッド新作次元であった。意のままに扱えるキャラクター、心情を代弁する展開、過去のメカの噛ませにしてオリジナルヒーロー、オリジナルメカなどやり放題。夢のような世界だった。
「つまり、ここはあんたが創った世界で、ボクたちはそこに住んでいるNPCだということ?」
「イグザクトリー。さすがグレン、飲み込みが早い。ちなみに元ネタのほうのグレンは随分前から芸能界の仕事をしていないらしく、マシューは辛うじて役者を続けているが、ちんけなキャラしかやれてないそうだ」
「マジか……それは知りたくなかった」
『SSSS.GRIDMANで観た展開ですね。打ち切りの説明にはなってませんが』
「それについてですがーー」
私は憤怒を燃料にしてこのシリーズを書き続けた。評判はよくなかった。展開に無理があると自覚している。いいんだ。少なくとも暗い部屋で叫ぶよりはずっと健康的だ。
時が進み、同年6月下旬。私はシネマでグリッドマンユニバースのポスターを目にした。7月中旬に上映始まったのだ。
いまさら何してきたんだ……もう遅いんだよグリッドマンッッ!と私はポスター中のグリッドマンに向かってで声なき声で叫んだ。当然映画は観に行った。凄かった。フィクサービームを浴びたかのように胸に溜まっていた靄が掃かれた。シアターを出た私の心には怒りも憎しみもなく、グリッドマンに対する感謝でいっぱいだった。ありがとうグリッドマン……オルウェイズビーマイヒーロー……私はいつも君にBABY KYUN KYUNだ。
「グリッドマンを憎む気持ちが消えて、このシリーズを続ける必要もなくなった、といったところか」
「イグザクトリー。さすがグレンは飲み込みが早い」
「なんて身勝手な……でも動機が消えたら無理して続けても碌なこと長いのも確かだ」
「これで納得してもらえたかな?」
「説明にはなった。もうボクから言うことはないよ」
グレンはやれやれと肩をすくめた。
「はぁー、グレンがそう言うのなら……」
マシューも打ち切りに同意した。
『じゃもう私にようがないそうなので、先に失礼しますね。お疲れさまでした』
「おう、声優さんもお疲れさま」
「お疲れした」
「しゃしたー」
声優さんが退室、スタジオ内は男3人になった。
「で、これからどうなるんだ?オレたち、そしてこの世界が」
「そうだね。とりあえず予備のCORONA(もちろんMADE IN CHINA)がまた残ってるんで皆で飲まない?」
「いいね」
3人はCORONAを開けて、ライムを瓶に詰め込んだ。
「それじゃ、グリッドマンに敬意を表して、乾杯!」
「「乾杯!」」
キャリーンとガラス瓶と瓶がぶつかった。男たちが一斉に瓶を呷った。
「ぷはっ」
「ライムが効くな」
「やっぱうめぇや」
こうしてグリッドマン本人は知らない間にひとりの男とひとつの世界を救った。ありがとうグリッドマン。君は最高のヒーローだ。公式は六花とアカネだけでなくもっとグリッドマンにフォーカスしたグッズを出せ。そしていつかまた新しい映像作品が出ることを祈る。
創造主がCORONAで酔っ払っているのでスーパーヒューマンサムライサイバースクワッド新作次元は存続が危ういが、もしかしたらまたこの世界を覗ける機会が来るかもしれない。またアクズメさんの怒りトリガーを引き起こすきっかけがあれば。
それでは皆さんの心に平穏があらんことを。
(おわり)
いいなと思ったら応援しよう!
当アカウントは軽率送金をお勧めします。