プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第五章13
第五章 第十三話「Fantasista」
「お疲れ様です小林です。・・はい。あーはい。・・・・・・えーと社長?これ社用電話です会社のお金かかってます。・・・はい。では本題なんですが基本給是正の会議以来・・・はい・・・
いや長い話であれば直接じゃないとお金かかります。・・・はい。
・・・えーとあれ以来とにかく社内からの期待や相談を多数いただいてまして・・・いえそうではなく、私としては研修中の新入社員の身ではなにぶん権限がありませんのでやれることがほとんどありません。
・・・いえそれはたまたま・・・ですので例えば業務改善プロジェクトリーダーとか名前はなんでもいいので臨時役職を『是非お願いしたいわ!!』」
・・・耳が痛ぇ。
「つきましては生々しい話ではありますが責任に応じた手当の支給をお願いしたいのですが・・・はい。わかりました専務ですね。はい失礼します。」
なんなんだこのばぁさん本当にただのおばあちゃんじゃないか!!
正直なところもう割とどっちでもよくなってきている自分がいるのはわかっている。
占い師だか救世主だか知らないが、道行く人々に声をかけられ『救いの手を』みたいな顔されるのはものすごーく気に入らない。
それ以上にプロの占い師、救世主の玄人みたいな扱いでもないのがもーっと気に入らない。
アマチュア占い師でいいなら適当にネットでタロットカードの一つでも買えばいい。
「手当は出せない。」
即答だった。
当たり前だ、研修中の新入社員によくわからない臨時役職をくっつけて、どうにかしてくれーなんて会社がそうそうあってたまるか。
「お前の提示した業務改善案が恐ろしいほどの速さで現場も経営も変えていることに対しては、俺も評価しているのだ。
実際試算したコスト低減効果も社会保険料の増加をも上回る効果があるとわかったしな。
しかし、新入社員の身分で役職の要求は厚かましいと思わないのか?大体お前、あそこまでのことをやっておいてなんだがまだ研修中扱いだろう。」
ごもっともである。
専務の立場を考えれば当然だし、なんならこんなとこに来ているのも社長が世間知らずの善人だからに他ならない。
とりあえずヤケクソを投げつけることにした。
「専務の言いたいこともわかります。正直自分としても入社してたったの二ヶ月、研修中の身で一体何をやってるの感はありますしね。
ただ現状単なる研修中の新入社員ではないレベルの期待とプレッシャーが発生しているということはご理解いただきたいですし、実際他部署の改善項目の洗い出しが必要そうなら僕を動かすつもりでいらっしゃるのは専務も社長と同じお考えでは?」
「それは確かにそうだ、俺は工場全体の統括をしているから工場長と話をして我々も業務の効率化をはかろうという動きはあるし、その際お前にしばらく工場の方に参加してもらうという提案は工場長からも出ている。
しかし研修中の新入社員に、臨時とはいえ役職をつけて手当まで出すということがどういうことかわかるか?」
ふーん。
手当うんぬんより先に、工場長があっちこっちに話を勝手に通そうとしてることが気に入らない。
「・・・えーと。僕が好きに動けてお金ももらえてハッピーっすね。」
ふはは、これが今の俺に出来る精一杯の強がりだ。
・・・もうどうにでもなれ。
それなりの沈黙の後、専務が重い口を開いた。
思いの外ヤケクソがメンタルに効いたらしい。
「・・・まあそれはそうなんだが、お前は会社の例外人材になるんだぞ?いわば特別扱いだ。
今まで以上に常務との軋轢も増えるかもしれん、年代の近い同僚からは嫉妬されるかもしれん、事情をよく知らない社員からしたら羨望の的になるかもしれん。
あとうちの母親がベタベタするかもしれんぞ。」
え?なんて?社長?
「いや最後のが意味がわからないんですが。社長がベタベタするんですか?」
・・・なんでこんな会話で空気重いの!
「あー・・・いや・・・なんというか・・・社長が一番今回の件で舞い上がっていて、会う度常にお前の話題を出すんだ。
俺はあの人の息子だから別に構わんが、どうせあの人のことだからなあ。
社内はおろか、取引先にもお前を褒めるようなことをペラペラ喋り続けるかもしれんという話だ。」
・・・・よし終わり!俺頑張った!
思えば長い戦いだった・・・
っていうかじゃあ俺死ぬほどミスってんじゃん!
「うわぁ・・・それはマジで嫌ですね。
それが一番嫌です。というか他の三つはマジでどうでもいいんですが、それだけは本当に嫌ですねえ。」
「だろう?でもあの人はああいう人だからそうなっちゃうんだよ。」
俺は親戚のおっさんにでも話をされているのだろうか?
「それは本当に困りますねえ・・・俺の進退考えておいた方がいい感じですか?」
まあ、もう答えは出ているけど。
どうあれ『イキり元店長くん』のレッテルとは、俺は付き合えない。
飲食の人たちにまでそんな風に見られてたまるか。
・・・戻りたくても戻れなくなる。
「あ・・・いや・・・そういう話ではなくだなぁ・・・いや・・・そういう話かぁ。」
と、こうして親戚のおっさんに身の危険を心配されるみたいな話を経て、なんやかんやで試用期間最後の日に猶予一月の退職願を提出した。
