プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第一章6
第一章 第六話「消失」
「5人です。」
「ゴニンネーアッチノセキイッテネー!」
少々身体の大きいママさんに案内された席には俺と小林と事務長で、奥の席に炊飯部長と野村さんが座るという形で分かれた。
事務長が完全に酔い潰れているからなぁ。
小林が介抱してくれているので助かっているが、本当は帰した方がいいだろうに。
事務長がまだ飲み足りないと騒ぐので、仕方なく連れてくるしかなかった。
「ハジメマシテーヨロシクネー!」
初々しさの残る子となんとなくベテランの風格のある女の子がついてくれ、ようやく俺もまともに酒にありつくことができた。
しばらくして俺は野村さんに用があったので席を離れたら初々しい方の子がついてきた。
少しぐらいなら席を外しても小林なら大丈夫だろう。
事務長は寝ているし。
「野村さん野村さん。」
「なんだぁー課長ー!んー!マイハニー愛してるー!」
楽しんでくれていて幹事冥利に尽きるが、いくらなんでも何の遠慮も無しにセクハラし過ぎだろう。
暗黙でそういう場所ではないわけではないが、いかんせん会社の飲み会である。
何か問題があれば幹事の俺が責任を問われる。
「野村さん!ちょっと羽目外し過ぎです!」
「なぁんだおまえ、こぉんな席でまじめぇーな話をすんのか?」
「そこまでじゃないですけど、さっきの続き!」
「あぁー小林か。確かに引き継ぎん時は暗いやっちゃなぁ、と思ったがさっきも今も楽しんどるみたいだしええんじゃないか?俺が嫌いなんかもしれんし、ただ真剣だっただけかもしれん。今日見とる限り簡単に辞めるタマでもねぇだろう。」
「確かにまあそうですね。」
「お前も幹事だかなんだか知らんがもうこんだけの人数しかおらんのだ!飲んで遊ばんと損だぞぅ?なぁんせここの金まで常務が出すって言うとんだろう!こんなことが今まであったか?明日雪でも降るんじゃないのか!はっはっは!」
「シャチョサーン?ジョムサーンオカネハラウノー?」
「おーぅ俺がシャッチョサーンだぁ!」
いつの間にか炊飯部長が小林の方に移動しておりなにやら話し込んでいるようだが、小林は小林でエバちゃんだったか?
となにやらベッタリでいい感じのように見えた。
日付も変わりしばらく経った頃に事務長が突然起き上がり、飲むぞー!
などと騒ぎ出したので慌ててお会計を済ませて二次会はお開きとなった。
野村さんはキャストの子に抱きついたりしており小林が事務長をタクシーに押し込んでいる。
「だれかぁーおれをぉーしかれぇー!」
などとわけのわからないことを喚いている事務長をうまいこと宥めすかしてタクシーに乗せた小林は流石飲食出身だと感心したものだ。
小林は野村さんとなにやら喋っているようなので一通りの締めの挨拶を済ませ、俺と炊飯部長は先に帰ることにしたのだ。
「事務長っていつもああなんすか?」
と小林が聞くのでいつものことだ、気にするな。
と伝えまた月曜にな、と夜の街を後にした。
今週は久々に土日返上がなかった。
まあ会社の大きめな飲み会の後は土日休んでいいぞ、ということになっているので小林様々というところだろう。
あいつの言う契約とやらの正体は未だにわからないが特段何も起きていない。
小林本人も飲み会を楽しんでいたように見えたので、あいつが週明けいきなり辞めるようなこともないだろう。
しかしシラフであれか・・・
うちの会社はとんでもない男を引き入れたのかもしれない、と思った。
「パパー!一緒にゲームやろー!!」
「おう!いいぞー!!」
久しぶりの家族は暖かかった。
あいつは契約とやらで俺をここに帰してくれるという。
否応なく期待と・・・同時に不安を感じたのである。
「あ、おはようございます!」
いつもと変わらぬ小林は自身のトラックに手際良く米を積み込んでいく。
「おうおはよう。あれからどうした?まあ無事に帰れたのは今ここにいるのだから間違いないか。」
「あれからしばらく野村さんと話し込んでましたねー。僕野村さんみたいな人結構好きなんすよ。」
ん?イマイチこのあいだ野村さんが言っていた小林の態度とは一致しない気がするのだが。
気分屋というか、そういう気難しさのあるやつなのか?
気づけば俺は小林のことをひたすらに観察しているじゃないか、と思い笑みが溢れた。
「どしたんすか?」
「はは!なんでもない。今日はお前が一人で回る初日だからコーヒーを奢ってやろうと思ってな。いつものでいいか?」
「はい、ブラックで!」
俺はいつものエメラルドマウンテンとブラックを購入し、小林の出発を見送った。
昼休みに会社近くにある行きつけの喫茶店でメシを食っていると、血相を変えた野村さんが飛び込んできた。
「お、おい課長!あいつはヤバいぞ!」
「あいつ?」
「小林だ小林!あいつあの後俺と一緒に残ったろう!」
「はい、そうですけど何かあったんですか?」
「フィリピンパブのお姉ちゃんであいつの隣についてた子がおったろう!その子連れて『野村さんお疲れ様ですー』ってどっかに消えてったんだ!」
「ははは!いくらなんでもそれはないでしょ!あいつ彼女いるんですよ?」
「じゃあ彼女がおるのにも関わらず手癖の悪いとんでもないやつだ!俺はあいつが怖いぞ!」
「えぇ?気のいい普通の若者じゃないですか。しかも気が利くし、お客さんのウケも相当いい感じがするので俺は期待してるんですが。
野村さん見間違えたんじゃないですか?」
「そんっなことはない!初めて行った店でお姉ちゃんをお持ち帰りするようなとんでもない奴なんだ!おっといかん!配達の途中だ!とりあえずお前はあの場におったから急いでいいにきた!またな!」
・・・・・・信じられん。
と思いつつも、あり得なくはない。
という気がした。
少なくとも俺はあり得なくはないという気持ちが勝ってしまった。
いわゆるチャラい人間というわけではないと思うのだが、小林観察を最近の趣味とする俺の元にとんでもない情報が舞い込んできたものだ。
と俺は野村さんの言うことを信じることにした。
