プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第二章1 小林の噂
第二章
第一話「焼肉会1」 小林の噂
「いらっしゃいませー何名様ですか?」
「二人でーす。」
「二名様ですね!禁煙席と喫煙席ございますがどちらがご希望ですか?」
「喫煙席で。」
松本はイマイチ煙草が得意ではない。
しかし仲の良い須藤はおろか、社内のほぼ全員が喫煙者なのではないかと疑わしくなるほどにこの会社の喫煙率は高い。
炊飯に来ている派遣のお姉さんもよく野村さんと煙草を吸っており、正直可愛いと思っているあの子に声をかけるべきかを悩む材料になるほどには苦手意識がある。
「ではこちらのお席にどうぞー!ではご注文お決まりになりましたらそちらのベルでお知らせください!失礼します!」
「今の子可愛いじゃん。」
「あ、そうすかぁ?なんか気が強そうっていうかちょっと押し負けちゃうかなぁ?なんて。」
「おんまえほんっと気が弱ぇんだなぁ。あれだろ?よく野村さんと喋ってる女の子がかわいー!っつって野村さんに連絡先聞こうとしたんだろ?お前。」
「何で知ってんの!?っていうか野村さんも『俺がそんなわっけぇ姉ちゃんの連絡先聞けるわきゃねぇだろ!セクハラだセクハラ!』なんて言って知らなかったんすよー。」
「お・・おういやお前すげーわそれ。俺が女だったらその手で連絡先知ったやつと仲良くなりたくねーもん。とりあえず頼んどこうぜー、お前何にすんの?」
「ひっどいこと言うなぁー。僕コーラであとサンチュあれば後は須藤くんチョイスでいいよ!」
「まーた飲まねえのかぁ。すいませーん!生とコーラ一つずつに上ロースが3と壺漬けカルビが1でーコロホルモンの赤が2、あと大根サラダとサンチュ味噌あり。以上で。」
「お待たせ致しましたー!」
「はーいありがとー。おーしかんぱーい!」
キンッ
「とりあえず適当に焼いてくぞー。」
「ありがとう!あ!そうだ今日から新人さん来たじゃない?」
ジュウ、と小気味よい音を立てながら須藤が手際よく肉を並べていく。
「おー、俺まだ会ってねぇんだわ。大体初日って俺らもそうだったけどみんな出発してから出社だし結構早く上がりだからなかなか会わねーのよな。」
「僕会ったよ?なんていうか礼儀正しい!って雰囲気のちょっと背の高い人でね。」
「そらお前が小せぇんだからみんなデカくね?」
「ちーがうって!須藤くんより高かった!」
「まぁ俺もそんなタッパある方じゃねぇしそんなんいくらでもいるだろ。で、礼儀正しいのはわかったけどどんな奴?結構おっさんなの?」
「いやそれが僕より歳下でさ。」
「マジで!?20代の生贄はちょっとお兄さん心が痛むっていうかなぁ。お、焼けたぞ。」
「ありがとう!違くて、丁度30歳って言ってたからさ。
僕と須藤くんとで一個ずつ違う感じで。同期っぽいっていうか。」
「おー!歳近いってのはいいね!先月までいたメガネくんあれで38とか言ってたもんな。案外話合わねぇんだもん。烏丸にキレられて半泣きで辞めたって聞いたけどマジ?」
いつまでも肉を取ろうとしない松本に少し怪訝そうな顔をした須藤が焼けた肉を無言で皿に放り込む。
「流石に知らないよー。っていうか38歳が半泣きになるかなぁ?」
「いやお前はなるだろ。ぜってぇなる。」
「酷いなぁ!心外だよ!って違う新人さんの話!」
松本は慌ててサンチュに肉を包み頬張った。
「おう歳下はわかったけど他には?」
「元飲食だったって言ってたね。飲食の人も色々だからなぁ。」
須藤が喉を鳴らしながらビールを流し込む。
「あーわかる。まあまあ差が激しいよなあいつら。アホみてぇな窓口おったりするしピンキリ業界って感じ。すいませーん!生おかわりー!」
須藤が空いたスペースに手際よく次のホルモンを並べた。
「かしこまりましたー!少々おまちくださーい!」
「まあ新人さんは礼儀正しかったのとフレンドリーな感じだったよ?僕は仲良くなれそうだなって。」
「お前それ俺が仲良くなれねー的な話しとんのぉ?」
「だって須藤くん結構な勢いで新人さん嫌いじゃん?」
「まぁそれはなー。だって仲良くなってもなんもねーじゃん。どうせ一人で配送すんだし仕事中は同じ課っつっても接点ねぇしさ、あと大体すぐ辞めんだから仲良くなるだけ無駄だと思うけどね俺は。」
ホルモンがパチン、と跳ねて、松本は肩を揺らした。
「いやーでも仲良くなったら辞めずにいてくれるってこともあるじゃん?」
「いやそれ以前だって!ひっでぇじゃんうちの会社。おっさんだらけで早朝から深夜まで、早く帰れば烏丸がなんかぶつくさ言ってくるしよー。」
「でも須藤くんよくサボってんじゃんかー。」
「そらサボりもするだろぉ。なんだかんだ俺結構早く配送終わるし大体夕方から21時くらいまではパチ屋で過ごすって決めてんのよ。ぶっちゃけこんなクソ会社で働くより稼げるんだけどなー。」
「あー元々プロだったって言ってたね!僕やったことないけど野村さんもしょっちゅう行ってるって聞いてるけど会ったりするの?」
「いや流石に会わないよ!野村さんまあまあ遠いぜ?なっかなかそんな店で会うなんてことねぇってー。」
絶妙な焼き加減のホルモンの匂いが香ばしい。
「あ、新人さんは近いらしいよ?車で来てたけど徒歩でも10分なんだって!」
「ちっっっか!!!俺より近い奴初めてじゃね?」
「そういえばそうだね。近いんだったら今度焼肉会呼んでみようよ!たまに野村さんとか課長来るけど大体僕ら二人だし歳近いんならさ!」
「まぁ仲良くなればね?しっかしなーんでこんなとこ転職してきちゃうかねぇ?他に条件いいとこいっぱいあるでしょーに。」
「いやぁ?それは僕らも同じじゃないの?まあ僕は無理矢理だけどさぁ。」
「言うようになったなぁお前。まぁいいや、とりあえず次のオーダーしようぜ。噂の新人くんってのも会ってみねぇとわかんねぇし、なんかお前と仲良くなれそうーとか言われると辛気臭そうーとか思うじゃん?」
「ひっど!でも僕はなんとなく新人さんに辞めてほしくないなー。」
「いーや?どうせすぐ辞めるって。」
