【第17章】夫の前で“女”に戻る妻|許されざる視線と揺れる夫婦関係
1、妻の前で誘われる夫、夫の前で揺れる妻|交錯する夫婦の夜
静かな食卓に、グラスの触れ合う小さな音が響いた。歩の左に座る薫は、正面のユウジと目を合わせることを恐れながらも、視線が泳いでしまう。
久しぶりに唇を許した記憶が、胸にまだ生々しく残っていた。隣には夫……その矛盾が、薫の心を締め付け、同時に熱を煽る。
ユウジはその揺らぎを見逃さない。グラスを傾けながら、テーブル越しにまっすぐ視線を送る。その熱を孕んだ強さに、薫は思わず呼吸をのみ込んだ。
*どうして……私、あの視線から目を逸らせられないの?
一方、歩の正面にはレイがいる。レイは挑むように微笑み、ゆっくりと足を組み替えた。テーブルの下で触れたかもしれない、と錯覚させるほどの仕草。
(歩さん……さっきのこと、忘れてないわよね?)
歩は返す言葉を見つけられないまま、正面のレイから目を逸らせなくなる。隣で薫が息を詰めるのを感じながらも、その誘惑に囚われていった。
「次は……ソファに移りませんか?」
レイの声が、ふっと場の空気を揺らした。
「テーブルの上、少し片付けるから。歩さん、ユウジはソファで待ってて。ね? 薫さん」
薫は小さく頷き、すぐに声を添えた。
「私も手伝うわ……」
グラスを手に取り、立ち上がる薫。その動きを追うようにレイも皿を重ね、二人は並んでキッチンへ向かった。
残されたソファには、歩とユウジ。互いに言葉を探すものの、すぐには出てこない。片付けの音が遠くに響く中、二人の間には、さっきまでの視線の記憶が静かに漂っていた。
キッチンでは、皿を流しに置くレイが薫に微笑む。
「ねえ、薫さん……ひさしぶりに、ユウジ、どうだった?」
薫は手を止め、小さく息を吸った。
「ユウジったら……急に、重ねてくるんだもの」
レイは唇の端を上げ、囁くように重ねた。
「でも……よかったでしょう?」
しばしの沈黙。皿を持つ薫の指先が、わずかに震えている。
「……うん……よかった」
声に滲む熱を、レイは逃さなかった。レイは、薫の横顔をじっと見つめながら、さらりと言葉を落とした。
「歩さんも……前よりは、自然に重ねてきたわよ」
その一言に、薫の胸は小さく揺れた。自分の知らない夫の顔を、レイだけが見た……そんな感覚が、甘くも苦い熱となって広がっていった。
薫とレイは、チーズとクラッカー、サラミを小さな皿に盛り付けて、リビングへ戻ってきた。ソファでは歩とユウジが向かい合うように座り、互いに言葉少なげにグラスを手にしていた。
「はい、どうぞ」
レイがテーブルに皿を置き、そのまま歩の横へと腰を下ろす。自然な流れのようでいて、あまりに迷いがない。
薫は一瞬、足を止めた。少し戸惑ったあと、ユウジの横へ静かに腰を下ろした。その瞬間、ソファの上には新しい並びができあがった。歩の隣にレイ、ユウジの隣に薫。四人がひとつの空間を共有しながら、まるで二組の“違う夫婦”が並んでいるかのようだった。
レイは歩の腰に触れるほど近く腰を下ろすと、グラスを手に微笑んだ。
「それじゃ……改めてカンパイしましょうよ」
軽く身を乗り出し、前かがみになりながら差し出すグラス。その視線は、甘い熱を宿してまっすぐ歩へ注がれていた。
歩は思わず視線を逸らす。だが、落とした先には……レイのワンピースの胸元。わずかに開いた隙間から、黒のレースが艶めき、意識を奪っていった。
レイの言葉に導かれるように、歩はグラスを持ち上げる。カチン、と澄んだ音が響く。四人のグラスが揃った瞬間、場の空気は新しい緊張に包まれた。
その光景を、薫とユウジは黙って見ていた。ただし二人の間には、他の二人とは対照的に、どこかよそよそしい空白が残っていた。
レイが仕事中の出来事を楽しげに語りながら、軽く身体を揺らす。そのたびにワンピースの胸元が揺れ、深い谷間からさらに黒いレースが覗いた。
一瞬、歩の視線がそこに吸い寄せられる。そのわずかな反応を、レイは見逃さなかった。笑みを浮かべたまま、右手をそっと歩の太ももの上に置く。
*夫が他の女に触れられているのを、止められない私は変ですか?
途端に歩の身体に力が入り、肩がわずかに震える。拒む言葉は出ない。ただ熱が内側で膨らんでいく。
その光景を正面で見ていたユウジが、タイミングを見計らうように声をかけた。
「薫さん……もう一度、乾杯しましょう」
差し出されたグラスと同時に、ユウジの身体が寄り、腰が薫に触れる。ふいに重なる温もり……薫は、さっき廊下で感じた体温を思い出し、胸の奥に甘い痺れが走った。
2、夫婦の境界が揺らぐ夜|互いが別の相手に触れる瞬間
レイは笑いながらグラスを傾け、歩の肩にふわりと寄りかかった。
「ねぇ……歩さんって、こんなにお酒強かったかしら?」
冗談めかす声に、歩は苦笑しつつも身体を固くする。だが、肩先に触れる柔らかな感触を拒むことはできなかった。
薫はその様子を横目に捉え、胸の奥に小さな棘が刺さるのを覚える。……見てはいけない。そう思いながらも視線が逸らせない。
そんな薫の迷いを、ユウジは逃さなかった。
「薫さん……僕のことも」
囁くように言いながら、そっと彼女の手元に触れる。グラスを持つ薫の指先に、自分の指先を重ねて。薫は一瞬、夫の存在を思い出し、息を詰める。だが、触れた温度に心臓が跳ね、胸の内に広がる熱を抑えきれなかった。
ユウジは薫の方へと身体を向け、そっと手を伸ばした。指先が触れるのは、薫の太もも。軽く置かれたその手のひらの温もりに、薫の身体はびくりと反応した。
「……あの頃を思い出しちゃいました」
ユウジが耳元に落とす小さな声。薫の胸の奥に熱が走る。太ももに広がる感触が、かつてベッドの上で彼を“大人の男”にしようと導いた夜を蘇らせる。
導かれるだけだった彼が、今は自分を攻めるように迫ってくる……その変化に、薫は抗えない。
正面では、レイが歩にさらに身体を寄せ、低く囁いていた。
「歩さん……さっきより、顔が赤いわね」
そう言いながら、彼の太ももに自分の指を滑らせる。夫と妻が、それぞれ違う相手に触れられ、囁かれている。その歪な光景は、夫婦の境界線を静かに揺らしていった。
レイは静かに足を組み替えた。ワンピースの間から滑らかな足が現れ、柔らかな肌がランプの灯りに艶めいて見える。
レイはそのまま歩の手を取り、自分の太ももへと重ねた。歩は一瞬、息を呑んだが、振り払うことはできない。
レイは顔を寄せ、耳元で囁いた。何を言っているのか、薫には聞こえない。けれど、少し緊張しながらも笑みを浮かべる歩の表情が……“秘密を共有する二人”を物語っていた。
その光景に、薫の胸は締めつけられる。夫が、目の前で他の女に心を許している。堪えてきた境界が、音を立てて崩れそうになる。薫は、ユウジの手のひらの感触を、もう我慢できなかった。
ユウジがソファの背もたれに右手を広げる。その腕に包み込まれるように、薫はゆっくりと身を委ねた。押し当てられた胸元が、彼の胸板をかすかに揺らす。薫の両手は膝の上でぎゅっと握られていたが、やがて力を失い、緩やかにほどけていった。
……受け入れた。その仕草が、まるで合図のようにレイの目に映った。歩の隣で彼の手を太ももに乗せたままのレイは、甘い微笑みを浮かべる。妻が夫の目の前で別の男に身体を預ける……その光景を、レイは確かに“サイン”として読み取っていた。
レイが先ほど歩の耳元で囁いた言葉が、蘇る。
「ねぇ、歩さん……もし、薫さんがユウジに身体を許したら……見たい?」
その挑発めいた声は、甘い吐息に溶けて、誰にも聞かれなかったはず。だが今、まさにその光景が目の前で繰り広げられていた。
ユウジの肩に身を預け、胸元を押し当てる薫。握りしめていた両手をほどき、全身を委ねていく……その瞬間。歩の視線は釘付けになった。
妻が、他の男に“身体を許した”瞬間。そして、そのことを誰よりも分かっているのが、隣にいるレイだった。レイは太ももに置いた歩みの手の上に、わずかに力を込める。
「ね……言ったでしょう?」
ここから先、薫はもう“妻”には戻れない。
夫の前で、妻が他の男に身を委ねる瞬間……。
あなたは、その続きを覗き見ますか?」
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【本作は成人向けです。18歳未満の方はご遠慮ください】 「もう一度、夫の前で女でありたい」――その願いの裏側に潜むのは、純粋な愛か、それ…
読者様からの温かいお気持ちは、38歳の普通の主婦が背徳感を感じながら覚醒していくプロセスに是非使わせて頂き、その結果を文字としてお届けいたします。
