Sh-003:四喜丸子│山東肉団子煮込み
大きな肉団子が、艶やかな琥珀色のあんをまとって器に並ぶ。
四つ。
肉汁の旨味と、慈姑のシャキシャキとした食感は、明らかな不協和音。
しかし、それが、心地よい。
山の幸で奏でるジャズ。
今回は四つの幸福という物語性を持つ伝統の銘菜「四喜丸子(スーシーワンズ)」を紹介します。
四喜丸子とは、細かく叩いた豚肉に調味料やクワイなどを練り込み、拳ほどの大きさに丸めて揚げた後、極上のスープでじっくりと煮込んで高湯のあんを絡めた、山東料理(魯菜)の伝統的な肉団子料理です。
うん、長い!
いわゆる肉団子煮込みですね。
この料理名にある「四喜(スーシー)」とは、中国の伝統文化において人生における「四つの大きな喜び(大きな幸せ)」を意味します。「丸子(ワンズ)」は肉団子を指すため、文字通り「四つの喜びを宿した肉団子」という意味になります。一皿に大ぶりの肉団子が「正確に四個」盛り付けられるのが絶対のルールであり、それぞれが人生の四つの大吉兆を象徴しています。文字の成り立ちや言葉の響きそのものが、食べる人への最大の祝福となっているのです。
四喜丸子の誕生には、唐代の宮廷や科挙制度にまつわる非常に美しい歴史的エピソードが残されています。
一説には、朝廷の重要な試験(科挙)に首席で合格した若き文人が、同日に長年離ればなれだった家族と再会し、さらに素晴らしい縁談が決まるという、人生の喜びが一時に重なる奇跡を経験しました。この尋常ならざる幸運を祝うため、家のお抱え料理人が考案したのが、四つの大きな喜びを四つの丸い肉団子に見立てたこの料理だったと伝えられています。この「人生の絶頂」を形にした料理は、やがて宮廷宴席から山東省の格式高い「孔府料理」へと受け継がれ、現代に至るまでお祝いの席の絶対的な主役として君臨し続けています。
山東省の豊かな大地で育まれた四喜丸子は、その圧倒的な縁起の良さと美味しさから、中国全土へと広がりました。北京の宮廷料理ではさらに洗練された味付けとなり、南方へ渡ると江南地方の「紅焼獅子頭(獅子頭肉団子)」という独自の進化を遂げました。そう、台湾でもおなじみの「獅子頭」の起源でもあるのです。南方ではスープで煮込むスタイルが多いのに対し、山東の四喜丸子は「揚げてから煮込み、濃厚なあんをかける」という、より力強い輪郭を持っています。現在では、世界のチャイナタウンでも新年の祝宴には欠かせないメニューとして、華僑の人々に故郷の味を伝えています。
もちろん!日本で食べる肉団子も、起源を尋ねればこの料理に行き当たるかもしれません。そのくらい歴史ある料理なのです。
さぁ、そろそろこの四つの喜びとは何か、気になってきましたね(笑)。ちゃんと紹介しておきましょう。
久旱逢甘霖(きゅうかんほうかんりん):長年続いた深刻な日照りのあとに、大地を潤す待望の恵みの雨(慈雨)が降ること。困難な状況が打破され、救いがもたらされる喜びを象徴します。
他郷遇故知(たきょうぐこち):住み慣れた故郷を遠く離れた異郷の地で、予期せず古くからの親友や気心の知れた知人に再会すること。孤独の中で人の温もりやつながりを感じる喜びを象徴します。
洞房花燭夜(どうぼうかしょくや):結婚式のきらびやかな蝋燭が灯る初夜を迎えること。最愛の伴侶と結ばれ、新たな家庭を築き上げる人生最大の至福と子孫繁栄の喜びを象徴します。
金榜題名時(きんぼうだいめいじ):国家最高峰の官吏登用試験である「科挙」に見事合格し、皇宮の前に張り出された金色の合格者名簿(金榜)に自分の名前が堂々と掲げられること。長年の努力が報われ、名声と地位を手にする栄誉の喜びを象徴します。
代表的なものは以上の四つですが、もちろん寓意は人それぞれ。出産や長寿、試験合格や就職など、様々な喜びを別に込めることも可能です。
そもそも、ほとんどすべての料理は、誰かを幸せにするために作られるもの。その意味で、今日もテーブルの上に乗る料理は、すべて四喜丸子の系譜であるとも捉えられます。
皆様もぜひ、大切な人と過ごす特別な日には、この四喜丸子を囲み、歴史の深みと四つの喜びを存分に噛み締めてみてください。
それではレシピ行ってみましょう。
【初級編】基本の四喜丸子

(難易度) ☆
(調理時間) 30分
・材料:
豚ひき肉 300g
玉ねぎ(クワイの代用) 1/4個
長ネギ 1/2本
生姜 1片
卵 1個
片栗粉 適量
揚げ油 適量
・調味料:
【肉だね用】
醤油 大さじ1
酒 大さじ1
塩 小さじ1/2
ごま油 小さじ1
【煮込みあん用】
鶏ガラスープ 200ml
醤油 大さじ2
砂糖 大さじ1
酒 大さじ1
水溶き片栗粉 適量
・調理方法:
玉ねぎ、長ネギ、生姜はすべて細かいみじん切りにします。
ボウルに豚ひき肉、1の野菜、卵、【肉だね用】の調味料をすべて入れ、粘り気が出るまで手でしっかりと練り合わせます。
肉だねを正確に4等分し、両手でキャッチボールをするようにして中の空気を抜き、きれいな球体に成形します。表面に薄く片栗粉をまぶします。
フライパンに多めの油を熱し、170度で肉団子を転がしながら、表面全体にきれいな揚げ色がつくまで揚げ焼きにして一度取り出します。
別の鍋に【煮込みあん用】のスープと調味料を入れて沸かし、揚げた肉団子を入れます。蓋をして弱火で約10分煮込み、肉団子を取り出してお皿に盛ります。残ったスープに水溶き片栗粉でとろみをつけ、肉団子の上からたっぷりとかけて完成。
・注意点:肉だねを丸める際、空気が残っていると油に入れたときに崩れやすくなるので、手のひらに叩きつけるようにしてしっかり空気を抜いてください。途中で気が変わったらハンバーグにしてもOK。
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【中級編】四喜丸子(紅焼スタイル)

(難易度) ☆☆
(調理時間) 50分
・材料:
豚バラ肉(または粗挽き豚ひき肉) 400g
クワイ(缶詰) 4個
長ネギ 1本
生姜 20g
卵 1個
チンゲン菜(付け合わせ) 2株
揚げ油 適量
・調味料:
【肉だね用】
紹興酒 大さじ1
塩 小さじ1/2
醤油 大さじ1
白コショウ 少々
濃いめのネギ生姜水 50ml
【中華あん用】
上質な鶏ガラスープ 300ml
醤油 大さじ2
老抽(中国たまり醤油、なければ普通の醤油で可) 小さじ1
砂糖 大さじ1
紹興酒 大さじ1
八角 1個
水溶き片栗粉 適量
・調理方法:
豚肉は包丁で細かく叩いて粗めのミンチにします。クワイは水気を切り、粗いみじん切りにします。長ネギと生姜はみじん切りにし、一部を水に浸して「ネギ生姜水」を作っておきます。
ボウルに叩いたお肉と塩を入れ、一方向に一気に練り込みます。粘りが出たら、ネギ生姜水を3回に分けて加え、その都度お肉に水分を完全に吸い込ませます(打水法)。
卵、紹興酒、醤油、白コショウ、長ネギ、生姜、そしてクワイを加えてさらに混ぜ、4つの大きな丸い塊に成形します。
180度のたっぷりの揚げ油に肉団子を静かに入れ、表面がしっかりとした固いキツネ色の殻になるまで約3〜4分揚げて旨味を閉じ込めます。
鍋に【中華あん用】のスープ、調味料、八角を入れて沸かし、揚げた肉団子を入れます。弱火で約20分、落とし蓋をしてじっくり煮込みます。
器に茹でたチンゲン菜を敷き、肉団子を盛ります。鍋に残った煮汁から八角を取り除き、水溶き片栗粉で艶やかなとろみをつけて、肉団子に回しかけます。
・注意点:お肉にネギ生姜水を吸い込ませる「打水」の工程では、必ず「同じ方向」に混ぜ続けてください。方向をバラバラにすると、肉のタンパク質の結合が壊れ、水分を保持できなくなってしまいます。
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【上級編】孔府伝来・四喜丸子
(難易度) ☆☆☆
(調理時間) 1時間半以上
・材料:
豚極上バラ肉(肥肉3:瘦肉7の黄金比率) 500g
新鮮な生クワイ 6個
山東大葱(または極太の白ネギ) 2本
極上生姜 30g
地卵の卵白 2個分
特製清湯(丸鶏から時間をかけて引いたスープ) 500ml
チンゲン菜の芯(御膳風飾り) 4個
揚げ油(純粋な豚脂:ラードを配合) 適量
・調味料:
【至高の肉だね用】
三年熟成紹興酒 30ml
天然岩塩 8g
極上淡口醤油 15ml
自家製ネギ生姜濃縮液 60ml
微粒白コショウ 少々
高級デンプン(太白粉) 20g
【極上あん用】
特製清湯 400ml
老抽 10ml
氷砂糖 15g
八角 1片
肉桂(シナモンスティック) 小さな破片1個
自家製葱油(ネギの香りを移した油) 20ml
水溶き太白粉 適量
・調理方法:
豚肉は冷凍庫で少し硬めにしてから、職人技である「切粗タダ細(粗く切ってから細かく叩く)」を実践します。まず3mm角の小さなサイコロ状に切り、その後、包丁の刃を斜めに入れてリズミカルに叩き、肉の粒子感を残した極上の肉ベースを作ります。生クワイは皮をむき、肉の大きさに合わせて正確に粗みじん切りにします。
銅製またはステンレスの深いボウルに肉をつめ、天然岩塩と三年熟成紹興酒を加えて、時計回りの一方向のみに超高速で攪拌します。肉がボウルの壁面から剥がれるほどの強い粘り(おき)が出るまで練り上げます。
この肉ベースに、自家製ネギ生姜濃縮液を4〜5回に分けて大さじ1ずつ投入。その都度、肉の組織が水分を完全に抱き込んで一体化するまで徹底的に練り込む「極限打水」を行います。水分を吸いきったら、卵白と高級デンプンを加えてコーティングし、最後にクワイと細かく刻んだ大葱を優しく混ぜ合わせます。
肉だねを正確に4等分(1個あたり約150g前後の圧倒的な存在感)にし、両手で交互に激しく叩きつけるようにして完全に空気を遮断し、滑らかな完璧な球体に仕上げます。
純粋なラードを混ぜた揚げ油を185度の超高温に熱します。丸子を静かに滑り込ませ、表面のタンパク質を一瞬で凝縮させて黄金色の美しい「鎧(殻)」を作ります。まわりがカリッとしたら引き上げ、余分な油を切ります。
深鍋に特製清湯、老抽、氷砂糖、八角、肉桂を沸かし、揚げた丸子をそっと沈めます。極弱火(スープの表面がわずかに揺れる程度の微沸状態)に保ち、蓋をして45分から1時間、アミノ酸の旨味を肉の芯まで還流させるように静かに煮込みます。
丸子を崩さないように細心の注意を払ってお皿の中央に四角形に配置し、周囲にサッと湯通ししたチンゲン菜の芯を飾ります。
鍋に残った気高き煮汁を一度漉し、火にかけて氷砂糖を完全に溶かします。水溶き太白粉を少しずつ加え、ベルベットのような滑らかさと透明感のある完璧な「琉璃あん」を作ります。仕上げに自家製の熱い「葱油」を回しかけて香りを爆発させ、丸子の上に一滴残らず注ぎ込みます。
・注意点:包丁でお肉を叩く際、完全にペースト状にしてしまうと、仕上がりが硬いハンバーグのようになってしまいます。肉の粒感が残るように叩く絶妙な加減(火候ならぬ刀候)が必要です。また、超高温での揚げ工程と、その後の極弱火での長時間の煮込みという「動と静」の火加減を完璧にコントロールしなければ、究極のホロホロ感は生まれません。
この上級編をマスターすれば、お皿を揺らしたときに肉団子がプルプルと震え、箸を当てただけで自重で崩れるような、本場山東省の最高級宴席(孔府宴)のクオリティを完全に再現することができます。
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コーヒーが好きだ。とくにミルクコーヒー。外出の予定がない時は、これにハチミツ酒をひとさじ加えて飲む。これがまたすこぶるいい。それぞれの銘柄を変えると、がらりと味が変わる。どうだい?一杯おごってはくれないか?