Ta-087:苦瓜排骨湯│ゴーヤとスペアリブのスープ
人生は甘いことばかりではありません。時には避けられない”苦”難や、飲み込まなければならない辛い現実があります。しかし、我々は知っています。その”苦”しみこそが、次の甘さを引き立てるためのスパイスにもなることを。今回の料理はは「苦瓜排骨湯」、日本語にするとゴーヤとスペアリブのスープ。多くの日本人はゴーヤといえばチャンプルー。ゴーヤの苦みを玉子でカバーして食べますが、台湾ではその苦味をスープに溶け込ませ、正面から飲み干します。この料理は、人生の苦味、ビターテイストを哲学として味わうための一杯であり、体の中に溜まった毒素と漢方でいう”熱”を洗い流す、食卓に上がる「解毒剤」なのです。
苦瓜排骨湯とは、つまり、大きくカットされた苦瓜と、脂の乗った豚のスペアリブ(排骨)を、生姜と共に透明なスープで煮込んだ料理。味付けは塩のみ、あるいは少量の酒だけと、ごくシンプル。豚肉のイノシン酸と脂の甘み、そして苦瓜から染み出す清涼感のある苦味(ククルビタシン)が融合し、不思議と後を引く「甘い余韻(中国語でいう「回甘」)」を生み出します。台湾の家庭では夏の定番であり、食堂でも必ずと言っていいほど見かける「湯(タン)」の王様です。
苦瓜の原産はインドを中心とした熱帯アジア。中国へは明の時代に伝来したと言われています。当初は観賞用でしたが、その解熱作用や解毒作用が漢方医学的に注目され、食材となりました。台湾においては、亜熱帯の湿熱な気候を乗り切るための「涼補(体を冷やして補う)」料理として定着。貧しい時代には、安価な苦瓜と、捨てられがちな豚の骨(と少し残った肉)を使い、肉体労働で体の内に溜まった熱を排出しつつ栄養を摂るための知恵の結晶ともいえる料理でした。
日本でも沖縄の地方料理から一躍全国区に躍り出たゴーヤですが、実は台湾と日本のゴーヤには、品種上の違いがあります。台湾でスープ料理に使われるのは、色が白く、大きく太った「白玉苦瓜」や「白苦瓜」という品種。日本の緑色のゴーヤに比べて苦味がマイルドで、果肉が厚く、煮込むとトロトロになります。対して日本のスーパーにある緑色のゴーヤは、苦味が強く、果肉が硬いため、炒め物には向きますが、スープにすると苦味成分が強すぎて「罰ゲーム」のような味になりがちです(そういう料理だと思えば、ちゃんと食べられます)。
苦瓜には「君子菜」という別名があります。これは「自分は苦くても、一緒に煮込んだ他の食材(肉など)に苦味を移さない」という性質から来ています。徳の高い君子のように、他者の個性を尊重しつつ、己の節操(苦味)を守る。このスープは、豚肉の甘みを邪魔せず、むしろ引き立てる素晴らしい相棒となります。
薬膳的にみると、ゴーヤの苦味成分「モモルデシン」や「チャランチン」は、胃液の分泌を促し、食欲を増進させる効果が期待できます。また、加熱することで苦味の一部が分解され、スープに他の食材では出せない、深みを与えます。苦味を消すのではなく、旨味で包み込むのが調理の極意です。
台湾の夏、35度を超えるような猛暑の中、人々はあえて熱々のこのスープを「清熱」のために飲みます。汗をかきながら苦いスープを飲むと、食後にスーッと体が涼しくなる感覚があります。いわゆる「ととのう」感覚です。また、ニキビや吹き出物が出たとき、親から「火気(体内の炎症)が溜まっているから苦瓜を食べなさい」と諭されるのは、台湾人の青春の通過儀礼です。もちろん、厳密にいえば、ゴーヤに含まれる特定の成分にそういった薬理学的作用も期待はできますが、おばあちゃんの知恵袋程度の認識でいるのが良いでしょう。
日本では依然として「ゴーヤ=チャンプルー」の壁が厚く、ゴーヤを使ったスープ料理の文化は浸透していません。前述したとおり、その最大の障壁は「品種」にあります。日本の緑色のゴーヤで作ると少々苦すぎるため、「やっぱりゴーヤは炒めるものだ」という結論に至ってしまうのでしょう。しかし、最近では直売所などで白い苦瓜を見かけることも増えました。日本における「苦瓜スープ元年」は、白いゴーヤの普及にかかっています。しろゴーヤを栽培している地域なら、町おこしなどに利用してみるのはいかがでしょうか?
今回は紹介しませんが、台湾には「苦瓜鳳梨鶏(ニガウリとパイナップルと鶏肉のスープ)」という、さらに進化した料理があります。この料理では「漬物にしたパイナップル(蔭鳳梨)」を使い、発酵した酸味と甘味を苦味にぶつけます。苦味、甘味、酸味、旨味が渾然一体となった味は、まさに人生の縮図です。唐辛子を振ったりして飲めば、まさに脳が震える味の洪水が味わえます。いつかレシピを紹介したいと思いますので、ご期待ください。
そうそう、日本のレシピ本などでは「苦味の元である白いワタを徹底的に取れ」などと書かれていますが、実はワタ自体にはそれほど苦味がありません。苦いのは緑のゴーヤの外皮部分で、台湾のスープでは、トロッとした食感を残すために、あえてワタを少し残すこともあります。
「良薬は口に苦し」と言いますが、美味しい料理の中にも、時に苦味をウリにするものがあります。このスープを一口飲み、その苦味の奥にある清涼感と甘みを感じ取れたなら、あなたはもう子供ではありません。人生の酸いも甘いも噛み分けた大人だけが辿り着ける境地。今夜は、自分の人生を煮込んだような、ほろ苦いスープを作ってみませんか?
それではレシピ行ってみましょう。白ゴーヤがなければ、緑のゴーヤでも…、作ってみて下さい。
【初級編】(緑ゴーヤで作る、苦くない(!?)魔法のスープ)

(難易度) ☆
(調理時間) 30分
材料:
緑色のゴーヤ:1/2本(なるべくイボが大きく、太いもの)
豚スペアリブ(または豚バラブロック):200g
生姜薄切り:3枚
水:600ml
調味料A:
塩:小さじ1
酒:大さじ1
鶏ガラスープの素:小さじ1(豚の出汁が弱い場合を補う)
調理方法:
下処理(苦味抜き): ゴーヤは縦半分に切り、スプーンでワタと種をこそげ取る。2cm幅に切り、塩少々(分量外)を振って10分置き、熱湯でさっと茹でこぼす(1分)。これで強烈な苦味が抜けます。
肉の処理: スペアリブは水から茹でて沸騰させ、アクと汚れを洗い流す。
煮る: 鍋に水、スペアリブ、生姜を入れて中火にかける。沸騰したら弱火にし、蓋をして20分煮る。
合わせる: ゴーヤと調味料Aを加え、さらに10分煮る。ゴーヤが少し柔らかくなれば完成。
注意点: 日本のゴーヤは崩れにくいので、少し長めに煮ても大丈夫です。苦味が苦手な人は、下茹でをしっかり行いましょう。
その他: 最後にゴマ油を垂らすと香りが良くなります。
#苦くないゴーヤ #夏バテ防止 #シンプルスープ #飲むサラダ
【中級編】(煮干し香る、台湾家庭の本格味)

(難易度) ☆☆
(調理時間) 50分
材料:
白い苦瓜(なければ薄緑の太いもの):1本
豚スペアリブ:300g
乾燥小魚(煮干しやジャコ):大さじ2(これが隠し味)
生姜:ひとかけ(叩き潰す)
水:800ml
調味料B:
米酒:大さじ2
塩:小さじ1〜1.5(味を見て調整)
白胡椒:少々
調理方法:
下準備: 苦瓜はワタを適度に取り、大きめの乱切りにする(一口大より大きく)。スペアリブは熱湯で霜降り(下茹で)して洗う。乾燥小魚は水でさっと洗う。
出汁を取る: 鍋に水、スペアリブ、生姜、乾燥小魚、酒を入れ、強火にかける。沸騰したらアクを丁寧に取る。
じっくり煮込む: 弱火にして蓋をし、30分煮込む。スープが白濁し、肉の旨味を引き出す。
苦瓜投入: 苦瓜を加え、さらに15分〜20分煮る。苦瓜が透き通ってきたら、塩と白胡椒で味を整える。
注意点: 乾燥小魚を入れることで、台湾の食堂特有の「海と山の合わせ出汁」になります。旨味の相乗効果を体感してください。
その他: お好みで「豆豉(トウチ)」を数粒入れると、さらに本場の風味に近づきます。
【上級編】(究極の清湯・苦瓜排骨蛤蜊湯)

(難易度) ☆☆☆
(調理時間) 1時間30分以上
材料:
白玉苦瓜(厳選):1本
豚軟骨(パイカ)または良質なスペアリブ:400g
殻付きアサリ(またはハマグリ):200g(砂抜き済み)
干し貝柱:2個(水で戻しておく)
生姜:スライス3枚
調味料C:
紹興酒:大さじ1
岩塩:適量(素材の塩分を考慮)
調理方法(蒸しスープ法):
極上の下処理: 豚肉は水から茹でて完全にアクを抜き、冷水で洗う。苦瓜はワタをスプーンではなく、包丁で綺麗に削ぎ落とし、美しい三日月型にカットし、さっと湯通しする。
配置: 耐熱の壺(または深めの陶器ボウル)に、豚肉、苦瓜、戻した干し貝柱(戻し汁ごと)、生姜を入れる。
注水: 材料がかぶるくらいの熱湯(水ではなく湯)を注ぎ、紹興酒を加える。
蒸す: 蒸し器(または電鍋)に入れ、弱火で1時間じっくりと蒸す。直接火にかけないことで、スープが濁らず、水晶のように澄んだ状態を保てる。
仕上げの旨味: 食べる直前にアサリを投入し、アサリの口が開くまでさらに10分ほど蒸す。
調味: アサリと干し貝柱から濃厚な塩味と旨味が出るので、最後に味を見て、足りなければ岩塩で微調整する。
注意点: 決して沸騰させてはいけません。静かに熱を通すことで、苦瓜の苦味が上品な甘み(回甘)へと昇華します。これは飲む宝石です。
その他: 電鍋(大同電鍋)があれば、外鍋にカップ2杯の水を入れてスイッチオンで放置できます。
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コーヒーが好きだ。とくにミルクコーヒー。外出の予定がない時は、これにハチミツ酒をひとさじ加えて飲む。これがまたすこぶるいい。それぞれの銘柄を変えると、がらりと味が変わる。どうだい?一杯おごってはくれないか?