【洋書・要約】「国家の考え方」を小学生でも分かるように説明します。なぜ国家は“失敗しても合理的”なのか?――戦争・外交を感情論で見誤らないための国際政治入門
国家の考え方
外交政策の合理性
著者ジョン・J・ミアシャイマー セバスチャン・ロザート
はじめに
このnote記事は、無料部分の「小学生でもわかる解説」だけでも十分にご理解いただけます。
有料エリアには「音声考察(日本語版・英語版)」と本のエッセンスをより深く理解するための「大人向けの解説」を用意しております。
なお、この記事は無料・有料・音声考察のすべてにおいて、原著の引用は一切使用しておりません。すべて、私自身の言葉のみで構成したものです。


世界の大国やリーダーは本当に「頭がおかしい」のでしょうか?
テレビのニュースなどで大きな戦争や国際的な争いのニュースを見ていると、
「どうしてあんな恐ろしいことをするのだろう」「相手の国のリーダーは頭がおかしくなってしまったのではないか」と感じることがあるかもしれません。
実際に、アメリカやヨーロッパの政治家や専門家たちも、大きな事件が起きるたびに相手の国のリーダーをそのように批判してきました。
たとえば、2022年にロシアがウクライナに攻撃(侵攻)を開始したとき、イギリスのボリス・ジョンソン首相やアメリカのミット・ロムニー議員などは、
「プーチン大統領はまともな考え方ができなくなっている」「自分勝手で無意味な失敗をする愚かな行動だ」と発言しました。
過去にも、アメリカと対立したイラクのサダム・フセイン大統領や、北朝鮮の指導者なども、同じように「考え方が狂っている」「理屈が通らない」と非難されてきました。
世の中の多くの人々や政治学者たちは、「危険な戦争を始めたり、最終的に大失敗に終わったりするような決断をするリーダーは、頭がおかしく非合理的(ひごうりてき:まともな考えに基づかないこと)だ」と思い込んでいます。
しかし、国際政治学の有名なお医者さんのような学者であるジョン・ミアシャイマー教授とセバスチャン・ロザート教授は、この本の中で「それは大きな間違いです」と強く主張しています。
筆者たちは歴史上のさまざまな大きな事件を徹底的に調べ上げた結果、
「世界の大国やそのリーダーたちは、ほとんどの場合、自分たちなりにとても筋の通った考え方(合理的なプロセス)に基づいて真面目に判断し、行動している」という驚くべき結論を導き出しました。
なぜ、世界から「愚かで狂っている」に見える行動が、実は「筋が通った考え(合理的な行動)」と言えるのでしょうか?その秘密を順番に解き明かしていきましょう。
「合理的」ってどういう意味?成功や失敗だけで決めてはいけない理由。
まず、「合理的(ごうりてき)」という言葉の本当の意味をしっかり理解することが大切です。
多くの人は、「作戦が成功して得をしたら合理的」「作戦が大失敗して損をしたら非合理的(愚か)」というように、「結果(成功か失敗か)」だけで判断してしまいがちです。
また、「世界平和を守るような良い行いは合理的」「ルールを破るひどい行いは非合理的」というように、「道徳や善悪」と結びつけて考えてしまうこともよくあります。
しかし、筆者たちは「結果の成功・失敗や、善悪の基準で合理性を決めるのは間違っている」と説明します。
なぜなら、国際政治の世界は、まるで「濃い霧の中」を歩くような「不確実(ふかくじつ:未来がどうなるか分からない)な世界」だからです。
大昔の偉大な軍事学者クラウゼヴィッツが「戦争の霧」と呼んだように、国のリーダーたちが大きな決断を下すとき、手元には完璧な情報が揃っていません。
相手の国がどれくらい本気なのか、どんな秘密兵器を持っているのか、国民がどれくらい耐えられるのかといった情報は、隠されていたり、偽の情報が混ざっていたりします。
また、思わぬ偶然やハプニングが起きることもあります。
そのため、どれほど頭の良い人が完璧に筋道を立てて準備しても、運悪く失敗してしまうことがあります。
逆に、深く考えずに適当に決めた作戦が、たまたま運良く大成功してしまうことだってあります。
だからこそ、政治の世界で「考え方が合理的かどうか」を確かめるためには、結果を見るのではなく、「決断を下すまでに、どのような考え方の手順(プロセス)を踏んだか」を見なければなりません。
筆者たちによれば、国際政治における「合理的な考え方」とは、「不確実で情報が足りない世界の中で、自分たちの目的を達成するために、筋の通った説明を使って世界を理解し、真剣に作戦を選ぶこと」なのです。
個人と国の「正しい考え方」のルール:信頼できる理論と自由な話し合い。
では、具体的にどのような手順を踏めば「合理的」と言えるのでしょうか?筆者たちは、リーダー個人のレベルと、国というチームのレベルの2つに分けて、ハッキリとしたルールを示しています。
① リーダー個人のレベル:「信頼できる理論(Credible Theory)」で考えること人間が複雑で不確実な世界を理解しようとするとき、ただの勘や感情で考えてもうまくいきません。
合理的で賢い指導者は、「信頼できる理論(しんらいできるりろん)」というレンズを通して世界を見ます。
これを専門用語で「理論で動く人間(ホモ・テオレティクス:Homo Theoreticus)」と呼びます。
「信頼できる理論」とは、次の3つの条件をすべて満たしている考え方のことです。
現実的な前提(ぜんてい)に基づいていること:現実の世の中の仕組みから大きく離れていないこと。
筋の通ったストーリー(因果関係の論理)があること:「Aという原因があるから、Bという結果が起きる」という説明に矛盾(むじゅん)がないこと。
歴史的な証拠(実績)があること:過去の歴史の中で、その考え方を裏付ける十分な事実やデータが存在すること。
例えば、国際政治で有名な「勢力均衡論(バランス・オブ・パワー理論)」は、「周りの国が急に強力な武器を持ったり脅威になったりしたら、自分の国を守るために仲間を増やしたり武器を準備したりして立ち向かう」という考え方です。
これは現実的で筋が通っており、過去の歴史でも何度も確かめられているため「信頼できる理論」です。
一方で、単なる「数学の計算(期待効用最大化)」に頼ろうとする考え方(ホモ・エコノミクス)は、情報が足りない現実の国際政治では計算自体が不可能なので使えません。
また、「昔の似た出来事の思い出」や「思いつきの近道(ヒューリスティクス)」だけに頼る考え方(ホモ・ヒューリスティクス)も、なぜそうなるのかという原因と結果の説明がないため「信頼できる理論」とは言えません。
② 国というチームのレベル:「自由で活発な話し合い(熟慮:Deliberation)」を行うこと国の大きな決定は、リーダー一人の思いつきではなく、外交や軍事の専門家たちがあつまるチームで行われます。
国として合理的であるためには、このチームの中で「熟慮(じゅくりょ:じっくりと考え深める話し合いのプロセス)」が行われていなければなりません。
「熟慮(熟慮のプロセス)」には、以下の重要なポイントがあります。
参加者が自分の意見やアイデアを自由に出し合い、お互いの作戦の良い点・悪い点を徹底的に議論すること。
誰も嘘をついたり、大切な情報を隠したり、相手を脅かして黙らせたりしないこと。
最後に、一番えらい決断者(大統領や首相など)が、話し合いの結果を踏まえて作戦を1つに決定すること。
全員の意見が最初から一致していなくても構いません。
激しく意見がぶつかり合ったとしても、隠し事なく真剣に話し合い、最後にリーダーが決断を下したのであれば、それは「集団として合理的なプロセス」なのです。
つまり、「信頼できる理論に基づいていること」と「隠し事のない自由な話し合い(熟慮)を経て決めたこと」の2つが揃ったとき、その国の行動は「合理的」であると認められます。
国が一番大切にしている目的とは?:「生き残ること(生存)」の絶対ルール。
考え方や話し合いのルール(戦略の合理性)だけでなく、国が何を目指すかという「目的(ゴール)」にも合理性があります。
国には、お金持ちになること(経済の繁栄)、世界を平和にすること、自分たちの国の正しい考え方(民主主義など)を世界に広めることなど、たくさんの目的があります。
しかし、筆者たちは「すべての国にとって、絶対に一番最優先しなければならないゴールは『国の生き残り(生存:Survival)』である」という鉄のルールを強調しています。
なぜなら、もし戦争に負けて国が滅びてしまったり、他国の思い通りに支配されて自由を奪われてしまったりしたら、お金持ちになることも、平和を楽しむことも、絶対にできなくなってしまうからです。
歴史を振り返っても、どんなに平和や貿易を大切にしている国であっても、自国の生き残りが危なくなったときには、お金や約束、ルールよりも「生き残ること」を最優先にして戦ってきました。
自分の国の生存を一番に考えて行動することは、国としてもっとも当然で合理的な目的なのです。
歴史の事件から見る「一見恐ろしい・失敗した決定」が合理的だった理由。
ここからは、実際に歴史上で起きた有名な事件を取り上げてみましょう。
世間からは「無謀だ」「愚かな失敗だ」と思われている事件の多くが、実は上記の「信頼できる理論」と「自由な話し合い(熟慮)」のルールを満たした「合理的な行動」だったことを筆者たちは証明しています。
① 2022年のロシアによるウクライナ侵攻
冒頭でも触れたように、西側諸国は「プーチン大統領は昔のロシア帝国を取り戻したいという個人的な野心に狂わされ、無意味な戦争を始めた非合理的な独裁者だ」と非難しました。
しかし、ロシアの指導者たちの記録や発言を詳しく調べると、全く違う姿が見えてきます。
ロシア側は、「アメリカやヨーロッパの軍事同盟であるNATO(ナト・北大西洋条約機構)が東へ拡大し、隣国のウクライナまで仲間に入れようとしていること」を、自国の安全と生存を脅かす「絶対に許せない危険(レッドライン)」だと捉えていました。
これは国際政治学の基本である「勢力均衡論(バランス・オブ・パワー)」という信頼できる理論そのものです。
ロシア側は事前に外交で解決しようと交渉を重ねましたがうまくいかず、「このまま放置すれば自国が危なくなる」と考え、防衛のための戦争を選びました。
また、プーチン大統領一人で勝手に決めたわけではなく、軍や外交の幹部たちと事前に何度も話し合いを重ねて決定していました。
作戦自体は途中で難航し、大きな犠牲を出していますが、「信頼できる理論に基づき、話し合いを経て決めた」という意味で、この決断は間違いなく合理的でした。
② 1941年の日本による真珠湾攻撃(太平洋戦争の開始)
第二次世界大戦の際、日本がアメリカのハワイにある真珠湾を攻撃した事件も、アメリカからは「勝ち目のない巨大な国に襲いかかるなんて、日本の指導者は狂っていた」と言われることがあります。
しかし、当時の日本の状況は切羽詰まっていました。
アメリカから石油の輸出を完全に止められ(石油 embargo)、このまま何もしなければ数年で石油が底をつき、軍隊も経済も動かなくなって大国としての生存ができなくなるという恐怖に直面していました。
日本の指導者たちは「アメリカと長く戦えば負ける確率が非常に高い」という厳しい現実を十分に分かっていました。
その上で、「このまま何もしないでジリ貧になって降伏するよりは、最初にハワイのアメリカ艦隊に大打撃を与えて太平洋に強い防衛線を築き、アメリカの戦う気力をくじいて有利な条件で話し合い(和解)に持ち込む作戦にかけるしかない」という、自国を守るための厳しい理論を立てました。
政府と軍のトップが集まる「連絡会議」や「御前会議」などで、何十回も何時間も激しい議論と分析を重ねた上で決断されたものであり、これもプロセスとして完璧に合理的だったのです。
③ 1962年のキューバ危機
アメリカとソ連が核兵器を使って世界滅亡の寸前まで行ったキューバ危機でも、アメリカのケネディ大統領たちはパニックにならず、連日「国家安全保障会議(ExComm)」を開いて深夜まで激しい議論を戦わせました。
「すぐに空から爆撃してミサイル基地を破壊すべきだ」という軍の意見と、「海をふさいで交渉の場に引っ張り出すべきだ」という外交の意見がぶつかり合い、最終的にケネディ大統領が「海をふさぎ、裏でソ連と交渉して、お互いにミサイルを撤去する」という解決策を選びました。
理論と熟慮がしっかり機能した、合理的な危機管理の代表例です。
④ 冷戦後のアメリカによるNATO拡大
冷戦が終わった後、アメリカのクリントン政権が東ヨーロッパの国々をNATOに引き入れた決定も、学者から「ロシアを無駄に刺激する愚かな決定だ」と批判されました。
しかし、これもアメリカのチーム内で「民主主義や自由な貿易を広げれば世界が平和になる」という信頼できる理論(自由主義理論)と、「勢力均衡」を重視する理論がぶつかり合い、何年も時間をかけて議論された末の決断でした。
逆に「非合理的(間違った考え方)」になってしまった4つの珍しい事件。
ここまで読むと、「じゃあ世の中の歴史的な決定は全部合理的で、非合理的な決定なんて存在しないの?」と思うかもしれません。
いいえ、滅多にありませんが、歴史上にはハッキリと「非合理的(ひごうりてき)」と言えるダメな決定も存在します。
非合理的になってしまう原因は、
「①信頼できないおかしな理論を使ったこと」か
「②リーダーが威張り散らして、自由な話し合い(熟慮)を押しつぶしたこと(ドミネーター:支配者)」
のどちらか、あるいは両方です。
筆者たちは、その代表的な4つの珍しい失敗例を挙げています。
① 1900年頃のドイツの「リスク理論(艦隊計画)」
ドイツのティルピッツ提督は、世界一の海軍を持つイギリスに対抗するため、巨大な戦艦をたくさん作る計画を立てました。
彼は「ドイツが強い戦艦を持てば、イギリスは怖がって攻撃してこなくなり、おとなしく譲歩するだろう」という勝手な理論(リスク理論)を信じ込みました。
しかし、「相手が強い武器を作ったら、自分も負けじと武器を作って仲間を増やす」のが国際政治の当たり前のルール(勢力均衡)です。
ティルピッツの理論は現実から離れた「信頼できない理論」でした。
しかも、彼は反対する他の海軍士官たちの意見を一切聞かず、批判する者を力で黙らせて自分一人で計画を押し通しました(熟慮の失敗)。
その結果、イギリスを本気で怒らせて挟み撃ちにされるという大失敗を招きました。
② 1930年代後半のイギリス(チェンバレン首相)の「大陸に関わらない戦略」
ナチス・ドイツのヒトラーがヨーロッパで暴れ始めたとき、イギリスのチェンバレン首相は「イギリスはヨーロッパ大陸に陸軍を送らない」という方針を決めました。
これは、第一次世界大戦のあまりの恐ろしさにショックを受けたチェンバレン首相が、「もう二度と戦争の恐怖を味わいたくない」という個人的な強い「感情(恐怖と希望)」に支配されてしまったためです。
彼は「ドイツに陸軍を送るべきだ」と主張する外務大臣や軍のトップたちを次々とクビにして追い出し、話し合いを拒否して自分の考えを押し付けました(熟慮の失敗)。
筋の通った理論ではなく感情で決め、話し合いを潰したため、非合理的でした。
③ 1961年のアメリカによるピッグス湾事件(キューバ侵攻の失敗)
アメリカのCIA(中央情報局)は、キューバの力ストロ政権を倒すため、アメリカで訓練したキューバ人の亡命部隊1500人をキューバのピッグス湾に上陸させる作戦を立てました。
CIAは「1500人が上陸すれば、キューバの民衆が自然に立ち上がって大革命が起きる」という到底あり得ない無謀な理論を立てていました。
さらに、CIAは大統領になったばかりのケネディに対して「作戦は絶対うまくいきます」と嘘や甘い報告ばかりを伝え、危険を指摘する軍や専門家の声を隠して話し合いを邪魔しました。
その結果、上陸した部隊はすぐに囲まれて全滅するという、大恥をかく結果になりました。
④ 2003年のアメリカによるイラク戦争
アメリカのブッシュ(子)政権は、イラクのサダム・フセイン政権を倒して軍事占領しました。
ブッシュ大統領たちの考えは、「イラクを力づくで民主主義の国に改変すれば、周りの独裁国もドミノ倒しのように次々と民主主義になり、中東全体が平和になる」というものでした(武力による民主化理論とドミノ理論)。
しかし、「力づくで他国を民主主義にできる」という考えは過去の歴史を見ても失敗ばかりで、根拠のない「信頼できない理論」でした。
さらに、チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官といった中心人物たちは、「占領後の計画がない」と心配する専門家や将軍たちの忠告を完全に無視し、異論を唱える者を脅したり左遷したりして話し合いの機会を奪いました(熟慮の失敗)。
その結果、イラクは激しい大混乱に陥ってしまいました。
この本から私たちが学べる「これからの世界の見方」
ジョン・ミアシャイマー教授とセバスチャン・ロザート教授が書いた『国家の考え方』の内容をまとめると、私たちにとても大切な3つの教訓を教えてくれます。
第一に、「相手の国のリーダーを『頭がおかしい狂人だ』と安易に決めつけてはいけない」ということです。
ニュースでどんなに恐ろしい事件や戦争が起きても、相手の国は自分たちの生存や安全を守るために、「信頼できる理論」と「真剣な話し合い」を経て行動しています。
相手を「狂人」だと決めつけると、相手が何を恐れ、何を目指しているのかの本質が見えなくなってしまいます。
第二に、「相手も合理的だと分かってこそ、外交や平和の道が開ける」ということです。
相手が真剣に考え抜いて行動している「合理的なアクター(行動者)」だと理解できれば、「相手は何を心配しているのだろう」「どこまで譲歩すれば戦争を防げるだろう」と予測し、話し合いで未然に衝突を防ぐ手がかりを見つけることができます。
第三に、「国際政治は、不確実な世界で生き残るための真剣な知恵くらべである」ということです。
国と国との付き合いは、単なる道徳や理想論だけでは動いていません。
お互いが不確実な霧の中で、自分たちの国と国民を守るために知恵を絞り、必死に考え抜いた「戦略」と「理論」がぶつかり合っているのです。
皆さんがこれから世界ニュースを見たり、歴史の勉強をしたりするときは、「この国の指導者たちは、どんな理論を信じ、どんな話し合いをしてこの決断を下したのだろう?」という視点を持って見てみてください。
きっと、世界の動きが今まで以上に深く、正しく見えてくるはずです。

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