変わりたいのに続かない人へ―意志の弱さに頼らず、習慣の仕組みで人生を変える方法「習慣の力」を小学生でも分かるように説明します
習慣の力〔新版〕
著者 チャールズ デュヒッグ
翻訳 渡会 圭子
はじめに
このnote記事は、無料部分の「小学生でもわかる解説」だけでも十分にご理解いただけます。
有料エリアには「音声考察(日本語版・英語版)」と本のエッセンスをより深く理解するための「大人向けの解説」を用意しております。
なお、この記事は無料・有料・音声考察のすべてにおいて、原著の引用は一切使用しておりません。すべて、私自身の言葉のみで構成したものです。

習慣の力で人生も世界もガラリと変えよう!
私たちの毎日の行動は、実は半分近くが「自分で考えて決めている」のではなく、「体が勝手にやっているお決まりの行動」です。
つまり、私たちの人生の多くは「習慣」によって作られています。
学校の勉強、スポーツの練習、朝起きること、ゲームをすること、ついついやってしまう悪い癖まで、すべてが習慣の力と深く結びついているのです。
この記事では、なぜ私たちが考えずに動いてしまうのかという不思議な仕組みから、悪い習慣を良い習慣に書き換える魔法のルール、そして自分自身だけでなく大きな会社や世界までを変えてしまう方法について、おもしろいストーリーや科学の実験をまじえながら紹介します。
みんなの毎日は「習慣」でできている! 脳がサボるための驚きの仕組み。
皆さんは、今朝起きたときに一番最初に何をしたか覚えていますか?
シャワーを浴びたでしょうか?
それとも、すぐにスマートフォンやメールをチェックしたでしょうか?
このような毎日の何気ない行動を、私たちは「自分でよく考えて決めている」と思いがちです。
しかし、実はそうではありません。
アメリカのデューク大学の研究者が発表した論文によると、私たちが毎日行っている行動のなんと40%以上が、その場の決定ではなく「習慣」で動いていることがわかりました。
つまり、一日の約半分近くは、頭を使わずに体が勝手に動いているのです。
では、なぜ私たちの脳はこのような習慣を作りたがるのでしょうか?
その理由は、脳がとても「サボりたがり屋」だからです。
人間の脳は、できるだけ使うエネルギーを節約して、もっと難しい問題(新しいゲームの攻略法を考えたり、テストの勉強をしたりすること)に頭の力を残しておきたいと考えています。
そのため、一度やり方を覚えた行動は、できるだけ頭を使わなくてもできるように「習慣」として登録し、脳を休ませようとするのです。
脳がどれほど習慣を大切にしているかを示す、ある不思議なおじいさんの話があります。
友人ポーリーというおじいさんは、脳の病気にかかってしまい、過去の記憶や新しいことを覚える部分をすっかり壊されてしまいました。
おじいさんは、自分の年齢も、孫の名前も、たった1分前に会ったお医者さんの名前も覚えることができません。
自分の家のトイレがどこにあるかを紙に書くことすらできません。
しかし、おじいさんはお腹が空くと、自分で立ち上がって台所へ行き、戸棚から大好きなナッツの容器を開けて食べることができました。
さらに驚くべきことに、毎日おうちの外に出て1人で散歩に行き、近所の松ぼっくりや石をお土産に持って、迷わずにちゃんと自分の家に帰ってくることができたのです。
なぜ自分の住所もトイレの場所もわからないおじいさんが、こんなに複雑な散歩をしてちゃんと帰ってこられたのでしょうか。
それは、脳の奥深くにある「大脳基底核」と呼ばれるゴルフボールくらいの大きさの古い部分が無事だったからです。
この大脳基底核は、おでこの近くにある「新しいことを考えて決める部分」が眠っているときでも、体にしみついた「習慣」の地図を勝手に動かすことができる素晴らしい場所なのです。
おじいさんの脳は、頭で記憶することはできなくても、体が散歩のルートを習慣として完全に覚えていたのでした。
ネズミの迷路実験でわかった! 習慣を動かす3つのステップ「ループ」
脳の奥深くにある大脳基底核が、どうやって習慣を作り出すのかを突き止めるために、アメリカのMITというすごい学校で、ネズミを使ったおもしろい実験が行われました。
研究者たちは、ネズミの頭に脳波を測るためのとても細いワイヤーを取り付け、チョコレートを置いたT字型の迷路に入れました。
迷路の入り口には仕切りがあり、最初はネズミが進めないようになっています。
そして、「カチッ」という音がして仕切りが開くと、ネズミは迷路を走り出します。
最初のうち、ネズミはチョコレートの匂いがすることはわかっても、どこにあるのかわかりません。
そのため、仕切りが開くと迷路の中をゆっくりフラフラと歩き、あちこちの匂いを嗅ぎ、壁を爪でひっかきながら探します。
このときのネズミの脳の活動を測ると、大脳基底核がものすごい勢いで活発に動いていました。
脳全体をフル回転させて、周りの光景や匂いを必死に分析し、チョコレートを探していたのです。
しかし、この実験を何百回も繰り返すと、ネズミの行動に驚くべき変化が現れました。
ネズミは迷路の道を完全に覚え、仕切りが開く音がした瞬間、迷うことなくまっすぐに走ってチョコレートを見つけられるようになったのです。
このとき、ネズミの脳の中ではもっと驚くべきことが起きていました。
ネズミが何も考えずに走ってチョコレートにたどり着くようになると、走っている間の脳の活動が、どんどん低くなっていったのです。
迷路を進むことが「無意識の習慣」になったことで、ネズミの脳はまったく考えなくても体が動く「サボりモード」に入っていました。
この実験から、研究者たちは習慣が次の3つのステップでできていることを発見しました。
これを「習慣のループ」と呼びます。
第1段階:きっかけ
脳に「これから習慣のサボりモードに入りなさい」と伝える引き金です。
ネズミの実験では「カチッ」という仕切りの開く音にあたります。
第2段階:ルーチン
きっかけに反応してやってしまう、体や頭のいつもの行動です。
ネズミが迷路を走る行動にあたります。
第3段階:報酬
その行動をやったことで得られる、脳が喜ぶごほうびです。
ネズミにとってのチョコレートにあたります。
脳は、この「きっかけ・ルーチン・報酬」のループを何度も繰り返すことで、その行動を大脳基底核にしっかりと書き込み、自動的に動くようにしていきます。
もし習慣がなければ、私たちは毎日、車のキーを差し込む方法から、靴紐を結ぶ力加減まで、いちいち頭がパンクするほど考えなければならなくなります。
脳がサボるために習慣を作ることは、私たちが生きていくために絶対に欠かせない、素晴らしい武器なのです。
しかし、これには1つ大きな落とし穴があります。
私たちの脳は、その習慣が「良い習慣」なのか「悪い習慣」なのかを区別することができません。
一度ループができあがると、脳は自動的にその通りに動いてしまいます。
しかも、習慣のループは脳の奥深くに完全に保存されるため、一度できてしまった習慣を完全に消し去ることは、とても難しいのです。
人を動かす魔法のエネルギー! 「欲求」がヒット商品と習慣を生み出す。
では、一度できあがった習慣のループを、さらに強力に動かし続けるための「見えないエンジン」は何でしょうか?
それは、私たちの心の中に生まれる「ほしくてたまらない!」という強い「欲求」です。
これを証明するために、ボルフラム・シュルツ教授という科学者が、ジュリオという名前のサルを使って実験を行いました。
ジュリオの仕事は、目の前の画面に「木のような渦巻き模様」などのきっかけが現れたら、すぐに手元のレバーを引くことです。
それが上手にできると、天井のチューブからジュリオが大好きなブラックベリーのジュースという報酬が一滴、唇に落ちてきます。
最初は、ジュリオは画面の模様にあまり興味がなく、ジュースを飲んだときに初めて脳が「おいしい!」と喜んでいました。
しかし、このテストを何度も繰り返して習慣になると、ジュリオの脳の中に不思議な変化が起きました。
画面に模様が現れた瞬間、まだジュースを飲んでいないのに、ジュリオの脳がすでにジュースをもらったときと同じくらい、ものすごく喜び始めたのです。
もしここで、機械が故障してジュースが出なかったり、ジュースが遅れて出てきたりすると、ジュリオは怒って不満を叫び、脳の中では「ジュースがほしいのに手に入らない!」という強いがっかり感と、激しい欲求の電波が暴れ出しました。
ジュリオの脳は、きっかけを見ただけで、その先にあるごほうびを強く期待するようになっていたのです。
この「期待と欲求」こそが、習慣のループをぐるぐると回す強力なエネルギーです。
この欲求の力を上手に使って、世界中で大ヒットした素晴らしい商品のエピソードを紹介しましょう。
まず1つ目は、アメリカの伝説的な広告マン、クロード・ホプキンスが売り出した歯磨き粉「ペプソデント」です。
約100年前のアメリカでは、誰も毎日歯を磨く習慣がありませんでした。
そこでホプキンスは、「歯の表面を舌で触ってみてください。ねばねばした膜を感じるでしょう。それがあなたの歯を曇らせています」という広告をたくさん貼り出しました。
そして、「ペプソデントで磨けば、白くて美しい歯が手に入ります」と約束したのです。
実は、この歯磨き粉には、ミントやクエン酸など、口の中をひんやりとヒリヒリさせる成分が入っていました。
このひんやりする刺激自体は、歯をきれいにするのには全く関係のない成分でした。
しかし、人々がペプソデントで歯を磨くようになると、脳がその「ひんやりとしたすっきり感」をごほうびとして強く期待する(欲求する)ようになったのです。
今では、歯を磨いたあとに口の中がすっきりしないと、なんだか歯がきれいに磨けていないような気がしますよね。
これが、ホプキンスが作り出した「ひんやり感を求める欲求」の力です。
おかげで、アメリカ中でみんなが毎日歯を磨く習慣が生まれました。
もう1つのエピソードは、P&Gという会社が作った消臭スプレー「ファブリーズ」です。
ファブリーズは、どんな嫌な臭いも完全に消し去る魔法のようなスプレーとして開発されました。
しかし、売り出した最初のうちは、全く売れずに大失敗しそうでした。
なぜなら、おうちの中に猫を9匹も飼っているような本当にひどい臭いがする家に住んでいる人は、毎日その臭いの中にいるため、鼻が慣れてしまって、自分の家が臭いことに気づいていなかったからです。
つまり、臭いを消すためのきっかけがありませんでした。
そこで、開発チームは人々が掃除をする様子をビデオでじっくり観察しました。
すると、多くの人はベッドをきれいに整えたり、部屋を片付けたりした最後に、にっこり笑ってリラックスすることがわかりました。
開発チームは、ファブリーズを「臭い家をレスキューするスプレー」から、「掃除の最後の仕上げにスプレーして、部屋をいい香りですっきりさせるごほうびのスプレー」へと宣伝を変えました。
お布団をピンと張り、掃除機をかけたあとに、シュッシュッとファブリーズを吹きかけて、「いい香りを味わいたい!」という欲求を人々の心の中に作り出したのです。
これが大成功し、今では掃除の仕上げに良い香りを期待する欲求が習慣となり、ファブリーズは世界中で大ヒット商品となりました。
悪い習慣を変えたいなら真ん中の「行動(ルーチン)」だけを入れ替えよう。
お菓子の食べすぎや、宿題を後回しにしてゲームをしてしまうなど、誰にでも「やめたい悪い習慣」がありますよね?
しかし、先ほどお話ししたように、脳に一度刻み込まれた習慣のループを、頭の力だけで完全に消し去ることはとても困難です。
ソファーの上にあるドーナツの箱を見ないようにしようと我慢すればするほど、脳はドーナツの甘いおいしさを期待して暴れ出します。
では、どうすれば悪い習慣をやめることができるのでしょうか?
その秘密は、習慣を変えるための最強のルールである「習慣変更の黄金律」にあります。
同じきっかけを使い、同じ報酬を与えながら、真ん中のルーチン(行動)だけを体に良い別の行動に入れ替える。
きっかけと報酬がそのままであれば、真ん中の行動を書き換えるだけで、僕たちはどんな悪い習慣でも変えることができるのです。
このルールを使って、大きな奇跡を起こした素晴らしい人たちの話を紹介します。
まずは、アメリカンフットボールのトニー・ダンジー監督のストーリーです。
ダンジー監督が、負けてばかりで「リーグ最弱」と呼ばれていたプロチーム「バッカニアーズ」の監督に就任したとき、彼は選手たちに「君たちの習慣を書き換える」と宣言しました。
普通の監督は、選手たちに何百もの複雑な作戦を覚えさせようとします。
しかし、ダンジー監督は逆でした。
選手たちに、覚える作戦はほんの少しだけでいいと伝えました。
その代わりに、相手の選手の足の動きや肩の向きなどのきっかけを見たら、頭で考えずに、練習した通りの動き(ルーチン)を反射的に、誰よりも速く行えるように徹底的に練習させたのです。
フットボールでは、コンマ1秒の遅れが勝敗を分けます。
どうしようかなと頭で考えている間に、相手に先に行かれてしまいます。
ダンジー監督の「考えずに、体にしみついた習慣の通りに動く」という作戦は大成功し、最弱だったバッカニアーズは、誰も敵わないほどのスピードで動ける最強のチームへと生まれ変わりました。
もう1つの例は、お酒をどうしてもやめられない人たちを助ける世界最大の組織「AA、アルコール厚生会」です。
AAはお医者さんの難しい薬を使うのではなく、この「習慣変更の黄金律」を上手に使っています。
お酒がやめられない人は、なぜお酒を飲んでしまうのか、そのきっかけ(仕事のつらいストレスや、寂しさ、不安な気持ち)と、お酒を飲んだときに本当にほしい報酬(不安が消えてリラックスすることや、仲間とおしゃべりをして楽しい気分になること)をじっくり書き出します。
そして、ストレスを感じたときにお酒を飲む代わりに、「AAのミーティングに行って、同じ悩みを持つ仲間とお茶を飲みながら、自分のつらい気持ちをすべて打ち明ける」という、新しいルーチンに置き換えました。
お酒を飲まなくても、仲間と話すことで「リラックスして安心する」という、本当にほしかったごほうびが満たされるため、何百万人もの人が、つらい禁酒を成功させることができたのです。
爪を噛む癖がどうしてもやめられなくて、指先が傷だらけだったマンディちゃんという女の子も、この方法で癖を克服しました。
マンディちゃんは、退屈したときや勉強中に「爪の先がちょっと痛む、指先がむずむずする(きっかけ)」と感じると、無意識に爪を噛んで、噛み終わったあとの「すっきりした刺激(報酬)」を得ていました。
そこで、指先にむずむずした緊張を感じたら、すぐに「両手をポケットに入れるか、鉛筆を強く握りしめる。
そして、代わりに腕をトントンとこする」という新しいルーチンに変えました。
これで爪を噛まなくても、同じように指先のむずむずをすっきりさせることができ、何年も治らなかった爪を噛む悪い癖を、たったの1ヶ月ですっかり直して、きれいな爪を取り戻すことができました。
つらいことがあっても元に戻らないために! 絶対に欠かせない「信じる力」
真ん中の行動を新しいものに入れ替える練習をすれば、普段の生活のなかでは、悪い習慣を上手にコントロールできるようになります。
しかし、研究者たちがさらに調査を続けると、ある大きな問題が見つかりました。
新しい習慣を身につけて順調に暮らしていても、人生の中でとても大きなショックやストレス(お母さんが大きな病気になったり、大切な試験に失敗したりすること)が起きると、つい昔の悪い習慣に逆戻りしてしまう人が多かったのです。
せっかく新しく書き換えた習慣を、一生モノの強い習慣にするために、最後にどうしても欠かせない大切なピースがあります。
それが、心の中から「自分は絶対に変われるんだ」「この状況は必ず良くなる」と強く「信じること」の力です。
お酒なしでも、このつらいストレスを絶対に乗り越えられる。
自分たちのやり方は正しい。
だから絶対に勝てる。
そう強く信じる力がある人だけが、どんなに苦しいときでも逆戻りせず、新しい良い習慣を貫き通すことができます。
では、この「信じる力」はどうやって手に入れればよいのでしょうか?
研究によると、たった1人だけで「自分は変われる」と信じ続けるのはとても難しいことです。
しかし、「同じ目標に向かってがんばっている仲間」の中に身を置き、みんなと一緒に取り組むことで、信じる力は驚くほど簡単に強くなります。
あの人ががんばって変われたんだから、自分にだってできるはずだ。
仲間が変化する姿を見ることで、心の中の不安が消え、「自分も変われる」という強い信頼感が生まれるのです。
先ほどのトニー・ダンジー監督のチームでも、この「信じる力」が最後の大きな勝利をもたらしました。
ダンジー監督は、別のチーム「コルツ」の監督になりました。
チームはレギュラーシーズンで何度も優勝するほど強くなりましたが、一番プレッシャーがかかる大きな決勝戦になると、選手たちは負ける恐怖からパニックになり、ダンジー監督の習慣の作戦を信じられなくなって、昔の自分勝手なプレイに戻って負けてしまっていました。
そんなとき、ダンジー監督の若い息子さんが亡くなってしまうという、とても悲しい事件が起こりました。
葬儀を終えて、つらい悲しみのなかでグラウンドに戻ってきた監督の姿を見て、選手たちの心の中で何かがガラリと変わりました。
「監督のために、絶対に全員で力を合わせて勝ちたい。自分をチームにすべて捧げたい」 選手たちはお互いに強くハグを交わし、チームはただの仕事仲間から、1つの強い「家族」になりました。
お互いを深く信頼し、「この監督の作戦を信じて戦えば、絶対に勝てるんだ」と、全員が心から信じられるようになったのです。
次の大きな決勝戦、相手に大きくリードされて大ピンチになっても、選手たちはもうパニックになりませんでした。
お互いと監督を信じ、体に染みついた習慣のプレイを、コンマ1秒の乱れもなく完璧にやり遂げ、大逆転勝利を収めました。
そして、ついに全米一を決める「スーパーボウル」で見事に優勝し、優勝カップを掲げることができたのです。
仲間の絆から生まれた「信じる力」が、つらい悲劇を乗り越え、彼らを本物のチャンピオンへと導きました。
人生と会社をガラリと変える「かなめの習慣(キーストン・ハビット)」
宿題を毎日やるようにしたい、部屋をきれいに片付けたい、運動を始めたいなど、やりたい良い習慣がたくさんあると、「どこから手をつければいいのかわからない」と迷ってしまいますよね。
いっぺんに全部を変えようとすると、頭も体も疲れてしまって、すぐに三日坊主になってしまいます。
実は、すべての習慣をいっぺんに変える必要はありません。
私たちの暮らしや組織のなかには、それを1つ変えるだけで、ドミノ倒しのように他のたくさんの行動も勝手に良い方向へ変わり出す、とても特別な習慣が存在します。
これを「かなめの習慣」と呼びます。
このかなめの習慣が、どれほど凄まじい奇跡を起こすのか、あるアメリカの大企業の有名なストーリーを紹介しましょう。
アルコアという、アルミニウムを作る巨大な会社がありました。
100年以上の歴史を持つ歴史ある会社でしたが、当時は経営がうまくいかず、売上がどんどん落ちて、社員たちもやる気をなくして怒っていました。
そこで、新しくポール・オニールというおじさんが社長に就任しました。
オニール社長が、初めて大勢の投資家や株主の前に立って挨拶をしたとき、みんなは「これからコストをカットして利益を増やします」という話を期待していました。
しかし、社長が口にしたのは全く違う言葉でした。
「私は、社員の安全についてお話をしたいと思います。我が社の目標は、仕事中の事故を完全にゼロにすることです」
会場にいた投資家たちは、びっくりして
「この社長は頭がおかしいのではないか。会社の利益の話をしないなんて、アルコアの株はすぐ売った方がいい」
とパニックになりました。
しかし、オニール社長の狙いは、まさに「社員の安全を守る」という、たった1つのかなめの習慣に集中することでした。
オニール社長は、次のような安全のための習慣ルールを作りました。
「もし社員が怪我をしたら、24時間以内に、その工場の責任者が事故の原因を社長に報告し、二度と同じことが起きないための自己防止のアイデアを提出しなければならない」
このたった1つのルールを守るために、会社全体がガラリと変わり始めました。
責任者が24時間以内に報告するためには、現場の作業員が怪我をしたら、すぐに班長に伝え、班長が責任者に伝える、というもの凄く早い連絡の仕組みを作る必要がありました。
さらに、事故の原因を調べることで、現場の機械のどこが壊れやすいのか、どこを改善すればもっときれいにアルミニウムを作れるのかが、自然とわかるようになったのです。
社員たちは、「社長は、会ったこともない僕たちの命を本気で心配してくれている」と感じ、社長を信頼して、どんどん良い仕事のアイデアを提案し始めました。
それまで誰も使っていなかった社内のメールシステムを使って、世界中の工場同士が、どこよりも早く情報交換をするようになり、ライバル会社が追いつけないほどのチームワークが生まれました。
その結果、どうなったでしょうか?
アルコアは、世界で最も事故が少ない「安全な会社」になっただけでなく、製品の質が劇的に向上し、売上は社長が就任する前のなんと5倍にまで跳ね上がったのです。
たった1つの「安全」というかなめの習慣を変えたことが、社員の信頼、チームワーク、連絡のスピード、技術の改善、すべてのドミノを倒して、会社を大復活させました。
同じようなかなめの習慣は、僕たちの毎日の生活の中にもたくさんあります。
例えば、毎日「朝起きたときに自分のベッドをきれいに整える」という習慣を始めるだけで、その日一日の自制心が強くなり、学校での勉強がはかどったり、お小遣いを無駄遣いしなくなったり、幸福感が強くなったりすることが、科学の研究でわかっています。
また、週に1度だけでいいので「自分が食べたものを日記にメモする」という習慣を始めると、自分の食事のパターンに自然と気づくようになり、誰も強制していないのに勝手にお菓子のドカ食いをやめ、健康的な食事を選ぶようになって、メモをつけなかった人の2倍もダイエットに成功したという研究もあります。
オリンピックの水泳で何個も金メダルをとったマイケル・フェルプス選手も、このかなめの習慣の力を使っていました。
ボブ・バウマン監督は、フェルプス選手がまだ幼いころから、毎晩寝る前と、朝起きたときの1日2回、「自分の完璧なレースを、頭の中でスローモーションのビデオを見るように思い描きなさい」と言い、これをかなめの習慣にさせました。
フェルプス選手は、水が唇を切り裂く感触や、ターンの瞬間の壁の感触まで、頭の中で何千回も完璧にイメージトレーニングを行いました。
北京オリンピックの決勝戦、スタート台に立ってプールに飛び込んだ瞬間、フェルプス選手は「ゴーグルに水が入って、曇って何も見えない」という大トラブルに襲われました。
普通の水泳選手なら、オリンピックの大舞台で何も見えなくなったら、パニックになって溺れそうになってしまいます。
しかし、フェルプス選手はものすごく冷静でした。
なぜなら、彼の頭の中のビデオには「もしゴーグルが壊れたらどうするか」というトラブルの時のイメージも、すでに完璧に練習して習慣になっていたからです。
フェルプス選手は、リラックスして自分の泳ぎの「ストローク(腕をかく回数)」を頭の中で数えながら全力で泳ぎ、21回目のストロークで完璧にゴール壁をタッチしました。
目が見えないまま、なんと世界新記録を叩き出して金メダルを獲得したのです。
「ビデオを見る」という1つのかなめの習慣が、彼の心を誰よりも強く鍛え上げ、歴史的な勝利をもたらしました。
大ピンチは最大のチャンス! 組織が新しく生まれ変わる「危機の力」。
学校のクラスや、部活動のチーム、あるいは親が働いている会社など、たくさんの人が集まる大きな組織には、お互いの喧嘩や衝突を避けるために作られた「暗黙のルール」が存在します。
「面倒なことには口を出さないでおこう」 「他人の仕事のやり方に文句を言わないようにしよう」お互いのバランスを保つためのルールは、一見すると平和でうまく回っているように見えます。
しかし、話し合いを避けて悪い習慣やいい加減な暗黙のルールをそのまま放置しておくと、ある日突然、取り返しのつかない恐ろしい大悲劇を引き起こしてしまいます。
例えば、アメリカにある有名なロードアイランド病院のストーリーです。
この病院では、手術を行う偉そうなお医者さんと、現場を支える看護師さんたちの仲がとても悪く、お互いに反発し合っていました。
看護師さんたちは、「お医者さんは私たちの名前も覚えないし、使い捨てのように扱っている」と怒り、お医者さんは「私たちのやることに口出しするな」と威張っていました。
お互いに喧嘩を避けるために、お互いの領域に干渉しないという、冷たい「停戦状態」の悪い習慣がしみついていたのです。
ある日、86歳のおじいさんが、頭の中に血が溜まってしまう病気で緊急手術を受けることになりました。
メスを入れる前に、お医者さんと看護師さん全員で手術の手順を確認する「タイムアウト」という安全なルールを行う必要がありましたが、威張っている担当のお医者さんはそれを面倒くさがって無視し、さらに、どちらの頭を切り開くのかが書かれた「同意書」の書類を確認するのも拒否して、勝手に右側の頭にドリルを当てて穴を開けてしまいました。
本当は「左側」を手術しなければならなかったのですが、周りにいた看護師さんはお医者さんに怒鳴られるのが怖くて、間違っているとわかっていながら、何も言わずに黙って見ていたのです。
おじいさんは間違った頭を傷つけられ、結局、亡くなってしまいました。
もう1つの恐ろしいエピソードは、ロンドンの地下鉄「キングスクロス駅」で起きた大火災の事故です。
この駅では、木でできた古いエスカレーターの下で、小さなティッシュペーパーが燃えて煙が出ているのを通勤客が駅員に教えました。
しかし、切符を売る駅員は「火の掃除をするのは別の部署の仕事だから、自分には関係ない」と無視し、保安の担当者も「エスカレーターの水をまく機械(スプリンクラー)は、使い方がわからないし、触ったら怒られる」と放置しました。
さらに、お互いの部署が「自分たちの縄張りに他人が入ってくるな」という暗黙のルールでがっちりと停戦していたため、お互いに大切な連絡を全くしていなかったのです。
その結果、小さな火はエスカレーターを包み込み、トンネルの天井に塗られていた20層もの古いペンキに火が移って、突然、もの凄まじい爆発を引き起こしました。
駅の改札はコンマ数秒で700度以上の炎の壁になり、31人もの尊い命が失われる大惨事になってしまったのです。
防げたはずの小さな火事だったのに、お互いに協力しない組織の悪い習慣が、多くの人を巻き込む悲劇を生み出しました。
しかし、このような「恐ろしい大ピンチ」は、本当に悲しいことですが、実は古くて頑固な悪い習慣を徹底的に壊して、まったく新しい良いルールを作る「最大のチャンス」にもなります。
人間も大きな組織も、普段は「今のやり方を変えたくない」と、変化に強く抵抗するものです。
しかし、このような大事故が起きて、テレビやニュースで大バッシングを受け、「このままでは絶対にダメだ、会社や病院が潰れてしまう!」という強烈な危機感をみんなが持ったときだけ、古い壁を壊して、新しい素晴らしい習慣を素直に受け入れることができるようになります。
おじいさんの悲しい事故を起こしてしまったロードアイランド病院は、大ピンチのなかで病院のやり方をすべて見直しました。
手術室にビデオカメラを設置し、手術の前にはどんなに偉いお医者さんでも必ず看護師さんと対等に並んで安全をチェックする新しい習慣を徹底しました。
誰でもおかしなところを見つけたら、お医者さんに直接意見を言えるようにしたのです。
何年もの間、誰も変えられなかった病院の冷たい壁が、危機をきっかけにして「全員が対等に協力し合える、世界一安全な病院」へと新しく生まれ変わりました。
数年後、若くて経験の浅い新人看護師さんが手術室に入ったとき、ベテランのお医者さんが手術のチェックを忘れそうになりました。
新人看護師さんは、勇気を出して「先生、もう一度タイムアウトをして、手順を確認させてください」と言いました。
昔の病院なら、お医者さんに激怒されてクビになっていたかもしれません。
しかし、生まれ変わった先生はにっこり笑って言いました。
「教えてくれて本当にありがとう。君の言う通りだ。さあ、みんなで確認して、手術を始めよう」 手術室の中は、お互いを尊敬し合う温かいチームワークの笑顔で満ちていました。
習慣をコントロールして、より良い未来を選び取ろう
『習慣の力』の著者、チャールズ・デュヒッグさんは言います。
「習慣を変えることは、簡単ではないし、すぐにできることでもない。しかし、習慣の仕組みをきちんと理解すれば、どんな習慣でも、必ず変えることができる」
私たちは、自分の意思で「きっかけ・ルーチン・報酬」のループを見つけ出し、かなめの習慣を1つずつ変えて、自分を信じる仲間と一緒に進むことで、勉強も、スポーツも、自分の性格も、自由に変えていくことができます。
アメリカの偉大な学者ウィリアム・ジェームズは、若いころに「自分なんて何をやってもうまくいかない」と絶望し、自殺をしてしまおうかと思い詰めるほど深く悩んでいました。
しかし28歳のとき、彼はある大決心をしました。
「これからの1年間、自分には自分を変える力があると信じて、毎日を実験だと思って過ごしてみよう」
彼は毎日、自分をコントロールし、より良い行動を信じることを「習慣」にしました。
すると、彼の人生はみるみるうちに輝き始め、やがてアメリカの歴史に名を残す素晴らしい心理学者になったのです。
私たちの周りにある「水」のように目に見えない習慣のルールは、いつでも自分たちの手で向きを変えることができます。
さあ、皆さんも、今日から自分のまわりにある「習慣のループ」を宝探しのように探してみてください。
小さな1つの習慣を変えることが、あなたのこれからの素晴らしい未来を作る、大きな第1歩になるはずです。

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