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「なんでもホルモン 最強の体内物質が人生を変える」を小学生でも分かるように説明します(本・書籍)食欲・睡眠・気分まで動かすホルモンの力


なんでもホルモン 最強の体内物質が人生を変える

著者 伊藤 裕





人生を操る魔法の物質「ホルモン」の秘密。

私たちが生まれてから死ぬまでに経験するさまざまなこと、例えば子供から大人への成長、友達が増えること、誰かを好きになること、食事を美味しく感じること、夜ぐっすり眠ること、病気になるかどうか、そして寿命の長さに至るまで、実はすべて私たちの体が作り出す「ホルモン」という物質が決めています。

ホルモンという言葉は、今から100年以上前の1905年にイギリスの学者によって作られました。

ギリシャ語で「刺激する」「興奮させる」という意味を持つ言葉が語源になっています。

ホルモンは、私たちの体を興奮させて、毎日を生き生きと過ごすための源です。

お芝居を見に行ったとき、舞台がぐるっと回転してあっという間に新しい場面に変わると、とてもワクワクしますよね。

ホルモンは、体の中でこれと同じような「場面転換」を起こして、私たちを興奮させてくれるのです。

私たちの体は、およそ60兆個という途方もない数の小さな細胞からできています。

ある細胞が興奮すると、そこからホルモンが分泌されて血液の中に入り、血管を通って別の細胞へと旅をします。

そして、たどり着いた先の細胞を興奮させるのです。

現在までに100種類以上のホルモンが発見されており、それぞれが特別な役割を持っています。

少し残酷ですが、年老いたマウスと若いマウスの皮膚を縫い合わせて血管をつなぐという実験が行われました。

すると、年老いたマウスの心臓の肥大が消え、落ちていた筋力が若いマウスのように回復したのです。

また、記憶力のテストの成績も良くなりました。

これは、若いマウスの血液の中に体を若返らせるホルモンが含まれていることを証明しています。

吸血鬼ドラキュラが若い人の血を吸って若返るという伝説は、あながち嘘ではなかったのかもしれません。


ホルモンは体の中の情報配達員。

ホルモンには、大きく分けて2つのタイプがあります。

一つはアミノ酸という物質から作られるグループで、もう一つはコレステロールという油の仲間の物質から作られるグループです。

アミノ酸から作られるホルモンは、タンパク質の仲間なので、口から食べてしまうと胃や腸で消化されてバラバラになってしまいます。

そのため、薬として使うときは注射で直接血管に入れなければ効きません。

このタイプのホルモンは、血液の中ですぐに壊れてしまいますが、ものすごく素早く効果を現すという特徴があります。

一方で、コレステロールから作られるホルモンは、頑丈な油の構造を持っているので、食べても胃や腸でバラバラにされにくく、ある程度は効果を発揮します。

細胞の奥深くにある遺伝子にまで入り込んで、ゆっくりと長く効果を続けるのが得意です。

このように、速く効くホルモンと長く効くホルモンの両方が用意されているおかげで、私たちは複雑な毎日を乗り切ることができるのです。

ホルモンの素晴らしいところは「おもてなしの精神」を持っていることです。

日本の旅館などでは、お客さんが何かを頼む前に、お客さんが何を望んでいるかを先回りして用意してくれますよね。

ホルモンも同じです。

例えば、ご飯を食べると血糖値という血液の中の糖分が上がります。

健康な人の体では、食べ物が腸に入ってきた瞬間に腸がそれを感じ取り、血糖値が上がる前に先回りしてホルモンを出します。

そして、すい臓という臓器に「これから血糖値が上がるから準備して」と伝えて、血糖値を下げるインスリンというホルモンを出させるのです。

問題が起こる前に手を打つ、まさに最高のおもてなしです。


体を大きくし、心に愛情を生み出すホルモン。

私たちの体を大きくする「成長ホルモン」は、人間の進化の秘密を握っています。

人間は猿から進化する中で、直立二足歩行をするために足の親指をまっすぐにしました。

そのためには骨盤を小さくして、未熟で幼い状態のまま赤ちゃんを産む必要がありました。

幼いまま生きることで脳をどんどん大きくし、寿命を飛躍的に延ばすことに成功したのです。

成長ホルモンは体を大きくしますが、出すぎると先端巨大症という病気になり、ガンになりやすくなって寿命が縮んでしまいます。

映画スターウォーズのヨーダのように、幼い姿を保つことが長生きの秘訣なのです。

また、寝ている間はご飯を食べられないので、脳のエネルギーが不足しないように成長ホルモンがたくさん出て血糖値を上げてくれます。

だから「寝る子は育つ」と言われるのです。

人間は未熟な状態で生まれるため、お母さんはとても長い期間、手間をかけて子育てをしなければなりません。

そこで活躍するのが「オキシトシン」という愛情ホルモンです。

オキシトシンはお母さんの脳に働いて、我が子を何よりも愛おしいと感じさせます。

また、オキシトシンは誰かを信じる力を生み出します。

人間は集団で生活する動物なので、他人を信じて助け合うことがとても大切です。

ペットの犬を撫でるだけでも、このオキシトシンはたくさん分泌されて、私たちの心を優しく穏やかにしてくれます。

男性には「バソプレッシン」という特有の愛情ホルモンがあります。

これは、自分の家族や縄張りを守ろうとする、少し不器用だけれど力強い優しさを生み出すホルモンです。

尿を濃縮して体の水分が逃げるのを防ぐ働きもありますが、同時に男性の心に強い責任感を持たせる役割も果たしているのです。


ストレスに打ち勝ち、やる気を出すホルモン。

仕事や勉強で成功したり、何かに挑戦したりするときには「男性ホルモン」が活躍します。

男性ホルモンの代表であるテストステロンは、競争心を高め、危険を恐れずに挑戦する気持ちを起こさせます。

お母さんのお腹の中にいるときに、この男性ホルモンをたくさん浴びて育つと、薬指が人差し指よりも長くなるという面白い研究結果もあります。

男性ホルモンが減ってくると、道に迷いやすくなったり、落ち込みやすくなったりする男性更年期障害になることもあります。

一方で「女性ホルモン」は、家を守り、子供を産み育てるための基礎となる体力を作ってくれます。

骨にカルシウムをしっかり蓄えたり、いざという時のためにエネルギーを脂肪として蓄えたりする、やりくり上手なホルモンです。

また、血液の巡りを良くして血管を丈夫にする素晴らしい働きがあります。

女性が男性よりも平均して6年以上も長生きするのは、この女性ホルモンが血管を守ってくれているからです。

私たちが生きていると、さまざまなストレスを感じます。

大昔の人間にとって最大のストレスは「食べ物がない飢え」と「敵に襲われること」でした。

この危機を乗り越えるために、副腎という臓器から「コルチゾール」や「アドレナリン」というホルモンが出ます。

これらは血糖値を上げたり、心臓の鼓動を速くしたりして、敵と戦うか逃げるかの準備をさせます。

しかし、現代の社会では食べ物が溢れていて、逆に「食べ過ぎ」が新しいストレスになっています。

昔のストレスに対抗するために作られたコルチゾールが、食べ過ぎの現代では働きすぎてしまい、メタボリックシンドロームという肥満や病気の原因になってしまっているのです。


血液やエネルギーをしっかり管理する体の調整役。

私たちが「さあ、新しいことに挑戦しよう」と新機一転するときには、首のところにある甲状腺から「甲状腺ホルモン」が出ます。

これは体を燃焼させてエネルギーを作り出すホルモンです。

例えば、サケが川で生まれて海へ旅立つとき、塩水の中で生きられるように体の仕組みを変えるのにこのホルモンが必要です。

人間でも元気を出すために大切ですが、働きすぎるとバセドウ病という病気になり、体が熱くなって疲れ切ってしまいます。

ウルトラマンが3分間しか戦えないのも、一気にエネルギーを燃やし尽くしてしまうからです。

血液のゴミをろ過して尿を作る「腎臓」は、実はホルモンを出す大切な臓器でもあります。

体が酸欠になるのを防ぐために、エリスロポエチンというホルモンを出して血液の細胞を増やしたり、レニンという物質を出して血圧を上げたりします。

逆に「心臓」は、血液を送り出すだけでなく、血圧を下げて尿をたくさん出させるナトリウム利尿ペプチドというホルモンを出します。

腎臓と心臓は正反対の働きをするホルモンを出し合いながら、お互いに助け合って体のバランスを保っています。

私たちが体を動かしたり、心が興奮したりするためには、骨の中にある「カルシウム」が絶対に必要です。

副甲状腺ホルモンは、骨からカルシウムを取り出して血液に送ります。

そして、太陽の光を浴びることで作られるビタミンDというホルモンは、腸からカルシウムを吸収する手伝いをします。

食べ物を食べて血糖値が上がったとき、それを下げてくれる最強のエースがすい臓から出る「インスリン」です。

インスリンは余った糖分を脂肪として溜め込む「倹約ホルモン」でもあります。

このインスリンがうまく働かなくなると、糖尿病になってしまいます。

腸から出る「インクレチン」というホルモンは、インスリンの働きを陰ながら支えて助ける、とても賢くて優しい存在です。


いつまでも若々しく元気に生きるためのホルモン。

人間の寿命の限界は、フランスのカルマンさんという女性が記録した122歳だと言われています。

100歳を超えても元気で生きる人たちは、ホルモンの力を上手に使って毎日自分の体をピカピカに磨いているのです。

いつまでも若々しくいるために注目されているのが、胃から出る「グレリン」というホルモンです。

グレリンは、お腹が空いたときに出て「ご飯を食べろ」と脳に命令します。

しかしそれだけでなく、実は細胞の中にある「ミトコンドリア」というエネルギー工場を元気にする素晴らしい働きを持っています。

ミトコンドリアの力が落ちることが老化の原因ですが、グレリンはこのミトコンドリアを増やして筋肉の持久力を回復させたり、病気を良くしたりしてくれます。

腹八分目にして少しだけ食事を減らし、運動をして少し酸素が足りないような厳しい環境に体を置くと、ミトコンドリアは「頑張らなきゃ」と思って若返るのです。

また、「クロトー」というホルモンも若さを保つために重要です。

クロトーはギリシャ神話に登場する、人間の生命の糸を紡ぐ運命の女神の名前がつけられています。

このクロトーホルモンは、カルシウムの濃度を調整したり、エネルギーの素を作るのを助けたりして、私たちが生き生きと過ごすための手助けをしてくれます。

ただし、ホルモンは多ければいいというものではありません。

ミツバチの社会では、働き蜂が成長して外の世界へ蜜を集めに行くようになると、寿命が短くなってしまいます。

無理をして体を鞭打つようなホルモンがたくさん出すぎると、かえって体を壊してしまいます。

臓器の機嫌を損ねないように、リラックスして体を大切に扱うことが長生きの秘訣なのです。


ホルモンパワーを高める4つの楽しい生活習慣。

最後に、体に良いホルモンをたくさん出して、楽しく健康に生きるための4つのコツを紹介します。

良いホルモンは、心も体もリラックスして「楽しい」と感じているときにたくさん出ます。

1つ目は「楽食」です。

お腹が空いたとしっかり感じてから、ワクワクして色々な種類のものを食べましょう。

お腹が空いているときに食べるからこそ、若返りホルモンのグレリンがたくさん出ます。

ただし、夜中に食べるのはやめましょう。

夜寝ている間は、食欲を抑えるレプチンというホルモンが出ていますが、夜中に食べるとこのリズムが狂って太ってしまいます。

2つ目は「楽動」です。

ニコニコと会話できるくらいの楽しいペースで運動をすると、血の巡りが良くなり、心臓や血管から良い運動ホルモンがたくさん出ます。

これらのホルモンは血管を広げて血圧を下げ、体を元気にしてくれます。

お風呂にゆっくり浸かるのも、水圧で血液が戻りやすくなり、同じような良い効果があります。

3つ目は「楽眠」です。

睡眠は単なるお休みではなく、脳が昼間に集めたたくさんの情報を整理整頓する大切な時間です。

脳が一人になって考える時間をしっかり作ってあげないと、ストレスが溜まってしまいます。

寝るときは部屋を真っ暗にしましょう。

暗闇の中で寝ると、脳からメラトニンというホルモンが出て、体の中に溜まった悪い物質を掃除してくれます。

夜遅くまで明るい画面を見るのは避けたほうがいいです。

4つ目は「楽話」です。

信頼できる家族や友達と楽しくおしゃべりをすることです。

イタリアのサルデーニャ島には長生きしているお年寄りがたくさんいますが、彼らの秘訣は「一人で生きてこなかったこと」でした。

誰かと触れ合い、心を通わせることで、愛情ホルモンのオキシトシンがたくさん出て、ストレスを消し去ってくれます。

振り子がだんだん同じリズムで揺れるようになるように、人と人が共感して心を通わせることは、健康にとってものすごく大きな力になります。

世界で最も過酷な子育てをする皇帝ペンギンを知っていますか。

南極のマイナス60度という厳しい冬の中で、お母さんが海へ餌を取りに行っている間、お父さんペンギンは絶食したまま何十日も足の上でたった一つの卵を温め続けます。

お父さんペンギンがこの厳しい絶食に耐えられるのは、卵の重みを感じながら、必ず帰ってくるお母さんを信じているからです。

この信じる心こそがオキシトシンをあふれさせ、奇跡のような力を生み出しているのです。

私たち人間も同じです。

毎日の生活の中で、よく寝て、楽しく食べて、適度に体を動かし、周りの人を信じて仲良くおしゃべりする。

そんな当たり前の楽しい生活が、私たちの体の中にある魔法の物質「ホルモン」の力を最大限に引き出し、素晴らしい人生を作ってくれるのです。


★付録その1★音声考察★



★付録その2★大人向け論文★


ホルモンが人間の生活と健康に与える働きについて

要旨

本稿では、ホルモンが人間の体と心にどのように関わっているのかを整理します。 ホルモンは、体の中で作られる小さな物質ですが、その働きはとても大きいものです。 成長、食欲、睡眠、恋愛、子育て、ストレスへの対応、病気へのなりやすさ、老化、寿命など、私たちの生活の多くに関わっています。 ホルモンは、単に体を動かすための物質ではありません。

細胞同士、臓器同士、そして人間の行動や感情をつなぐ「情報伝達の道具」として働いています。 つまり、ホルモンを理解することは、自分の体と心の仕組みを理解することにつながります。 本稿では、ホルモンの基本的な仕組み、種類、主な働き、そしてホルモンの力を高める生活のあり方について述べます。

1 はじめに

私たちは、生まれてから死ぬまでの間に、さまざまな変化を経験します。 子どもから大人へ成長し、友人を作り、人を好きになり、仕事や家庭のために努力し、やがて年を取り、病気になることもあります。 こうした人生の流れは、自分の意思だけで決まっているように見えます。 しかし実際には、体の中で作られるホルモンが深く関わっています。

ホルモンは、私たちの性格、食欲、眠りの深さ、恋愛感情、子育てへの気持ち、ストレスへの強さ、老化の進み方、病気へのなりやすさなどに影響します。 もちろん、人生のすべてがホルモンだけで決まるわけではありません。 しかし、ホルモンが私たちの生活の土台を支えていることは確かです。

ホルモンという言葉は、もともと「刺激する」「興奮させる」という意味を持つ言葉から作られました。 このことからも分かるように、ホルモンは体の中で何かを起こすきっかけになります。 体の状態を切り替えたり、必要な場所に指令を送ったり、細胞を元気にしたりします。 言い換えれば、ホルモンは体の中の「合図」です。

人間が楽しいと感じるとき、何かに夢中になるとき、恋をするとき、食事をおいしいと感じるとき、そこには必ず体の変化があります。 その変化を起こしているものの一つがホルモンです。 ホルモンをうまく働かせることができれば、私たちはより健康に、より前向きに生きることができます。

2 ホルモンの基本的な仕組み

人間の体は、多くの細胞からできています。 細胞は一つひとつが小さな部屋のようなもので、それぞれに役割があります。 筋肉の細胞、神経の細胞、血管の細胞、腸の細胞、脂肪の細胞など、さまざまな細胞が集まって臓器を作り、臓器が協力して体全体を動かしています。

しかし、細胞や臓器がばらばらに働いていたのでは、体はうまく動きません。 たとえば、食事をしたときには、胃や腸だけでなく、すい臓、肝臓、脳、筋肉なども協力しなければなりません。 運動をするときには、筋肉だけでなく、心臓、血管、肺、腎臓、脳なども関わります。 このように体全体が協力するためには、情報を伝える仕組みが必要です。 その情報を伝える役目を持つものがホルモンです。

ホルモンは、ある細胞で作られ、細胞の外へ出され、別の細胞に働きかけます。 血液に乗って遠くの臓器まで運ばれることもあれば、すぐ近くの細胞に働くこともあります。 また、自分自身の細胞に働きかけることもあります。 つまりホルモンは、遠くにも近くにも情報を伝えることができる物質です。

ただし、ホルモンはどの細胞にも同じように働くわけではありません。 ホルモンには、それを受け取るための受け手があります。 この受け手は受容体と呼ばれます。 受容体を持っている細胞だけが、そのホルモンの情報を受け取ることができます。 これは、ラジオの電波と受信機の関係に似ています。 電波があっても、受信機がなければ音は聞こえません。 同じように、ホルモンが血液中にあっても、受容体を持たない細胞には働きません。

この仕組みによって、ホルモンは必要な相手にだけ正しく情報を届けることができます。 体の中では、非常に多くの情報が同時に行き交っています。 それでも体が混乱せずに動いているのは、ホルモンと受容体の組み合わせが細かく決まっているからです。

3 ホルモンの種類と働き方

ホルモンは大きく分けると、アミノ酸から作られるものと、コレステロールから作られるものがあります。 アミノ酸から作られるホルモンは、比較的すばやく働きます。 血液の中で分解されやすく、効果は短い時間で終わります。 そのため、急な変化に対応するのに向いています。 たとえば、血糖値を下げるインスリンなどがこの仲間に入ります。

アミノ酸から作られるホルモンは、食べてもそのまま効くわけではありません。 口から入ると、消化の途中で分解されてしまうからです。 タンパク質を食べるとアミノ酸に分解されるのと同じように、ホルモンとしての形が壊れてしまいます。 そのため、インスリンのようなホルモンは飲み薬ではなく、注射で体に入れる必要があります。

一方、コレステロールから作られるホルモンは、体の中で比較的長く働きます。 細胞の中に入り、核にある遺伝子の働きに影響を与えることがあります。 そのため、効果が出るまでに時間はかかりますが、長く続きます。 ステロイドホルモンなどがこの仲間に入ります。 こうしたホルモンは、飲み薬や塗り薬として使われることもあります。

このように、ホルモンには「すばやく働くもの」と「ゆっくり長く働くもの」があります。 人間の体は、急な変化にも、長期的な変化にも対応しなければなりません。 そのため、性質の違うホルモンが必要になります。 短距離走のようにすぐ反応するホルモンと、長距離走のようにじっくり働くホルモンが、体の中で役割を分け合っているのです。

4 ホルモンは助け合いのために生まれた

ホルモンの本質は、細胞同士の助け合いにあります。 生命の歴史を考えると、最初の生物は一つの細胞だけで生きていました。 しかし、進化の中で細胞が集まり、多細胞生物が生まれました。 多細胞生物になると、細胞は一人で勝手に生きるのではなく、全体のために働く必要が出てきました。

そのためには、細胞同士が情報をやり取りしなければなりません。 どの細胞が何を必要としているのか、どこで問題が起きているのか、どの臓器がどのように働くべきなのかを伝える必要があります。 そのための道具として、ホルモンのような物質が重要になりました。

つまりホルモンは、体の中の連絡手段です。 人間社会でいえば、電話、メール、手紙、会議のようなものです。 体の中では、細胞や臓器がそれぞれ勝手に動いているのではなく、ホルモンを使って会話をしています。 この会話がうまくいくことで、体は健康を保つことができます。

ホルモンの役割は大きく分けると、四つあります。 第一に、生殖です。 妊娠、出産、育児を進めるために、ホルモンは重要な働きをします。 第二に、成長です。 子どもが大人になるためには、成長ホルモンや性ホルモンが必要です。 第三に、エネルギー代謝です。 食べたものを消化し、吸収し、体を動かす燃料として使うために、ホルモンが働きます。 第四に、体の状態を一定に保つことです。 体温、血糖、血圧、水分、塩分などを大きく乱さないように、ホルモンが調整しています。

このように、ホルモンは体の中の平和を守る存在でもあります。 体に何か問題が起こったときに反応するだけでなく、問題が起こりそうなときに前もって調整することもあります。 これは、相手が困る前に気づいて助ける「おもてなし」に似ています。

5 主なホルモンと人間の生き方

本書では、さまざまなホルモンが紹介されています。 その中でも重要なのが、成長ホルモン、オキシトシン、バソプレッシン、男性ホルモン、女性ホルモン、甲状腺ホルモン、副腎ホルモン、腎臓や心臓から出るホルモン、骨に関わるホルモン、インスリン、インクレチン、グレリンなどです。

成長ホルモンは、体を成長させるだけでなく、寿命や老化にも関わります。 人間は、他の動物に比べて未熟な状態で生まれ、長い時間をかけて成長します。 この「ゆっくり育つ」という性質が、人間の脳の発達や長い寿命につながったと考えられています。 成長ホルモンは必要ですが、多すぎると問題が起こります。 成長しすぎることは、体に負担をかけ、病気の危険を高めることがあります。 大切なのは、成長を止めることではなく、ちょうどよく調整することです。

オキシトシンとバソプレッシンは、愛情や絆に関わるホルモンです。 子育て、夫婦関係、信頼感、安心感などに関係します。 人間の赤ちゃんはとても未熟な状態で生まれるため、長い間、親や周囲の人に守られる必要があります。 そのため、子どもを大切に思い、世話をしたいと感じる仕組みが必要です。 そこにオキシトシンなどが関わります。 愛情は気持ちだけの問題ではなく、体の中の仕組みにも支えられています。

男性ホルモンは、競争心、行動力、意欲、社会的な成功への姿勢などに関わります。 ただし、男性ホルモンは男性だけのものではありません。 女性の体にも存在します。 また、強さや攻撃性だけでなく、挑戦する力や前へ進む力にも関わります。 大切なのは、過剰になることではなく、目的に向かって適切に働くことです。

女性ホルモンは、妊娠や出産だけでなく、体を守る働きにも関わります。 女性の体は、子どもを産み育てる可能性を持つため、体を安定させる仕組みが発達しています。 また、プロラクチンのようなミルクに関わるホルモンも、子育てや母性に関係します。 女性ホルモンは、体を守り、次の世代を支えるための重要な働きをしています。

甲状腺ホルモンは、体の活動の速さを調整します。 元気が出たり、体温が上がったり、代謝が活発になったりすることに関わります。 多すぎると落ち着かなくなり、少なすぎると元気が出にくくなります。 体のアクセルのような役割を持つホルモンです。

副腎ホルモンは、ストレスに対応するために大切です。 私たちは、勉強、仕事、人間関係、病気、けがなど、さまざまなストレスを受けながら生きています。 ストレスを完全になくすことはできません。 そこで、体は副腎ホルモンを使って、ストレスに耐えられるようにします。 しかし、ストレスが長く続きすぎると、ホルモンの働きにも乱れが出ます。 したがって、休むことや気分転換をすることも、体を守るために必要です。

心臓や腎臓もホルモンを出します。 以前は、心臓は血液を送るポンプ、腎臓は尿を作る臓器と考えられがちでした。 しかし実際には、心臓や腎臓も体全体に情報を送っています。 心臓から出るホルモンは血管を広げたり、余分な塩分や水分を外へ出したりします。 腎臓に関わるホルモンは、血圧や血液の状態を整えます。 臓器は単独で働いているのではなく、ホルモンを通じて互いに連絡を取り合っています。

インスリンとインクレチンは、食事と血糖に関わる重要なホルモンです。 食べ物を食べると血糖値が上がります。 血糖が高くなりすぎると体に悪いため、インスリンが血糖を下げます。 インクレチンは、腸から出てインスリンの分泌を助けます。 つまり、食べることと血糖の調整は、腸、すい臓、脳、筋肉などが協力して行っているのです。

グレリンは、空腹や若返り、元気に関わるホルモンとして重要です。 お腹が空いたときに分泌され、食欲を高めます。 しかし、それだけではありません。 体のエネルギーを作るミトコンドリアを元気にする働きもあると考えられています。 空腹をまったく感じない生活よりも、適度にお腹が空く時間を持つことが、体にとって大切だといえます。

6 ホルモンと食事・運動・睡眠

ホルモンの力を高めるためには、特別な薬や難しい方法だけが必要なのではありません。 日常生活の中で、食事、運動、睡眠、人との関わりを整えることが大切です。

まず食事では、楽しく食べることが重要です。 食べすぎを恐れて罪悪感ばかり持って食べても、体によいホルモンは出にくくなります。 反対に、お腹が空いた状態で、食事をおいしいと感じながら食べると、体は自然に食事を受け入れます。 空腹の時間があることでグレリンが出やすくなり、食事の満足感も高まります。

また、食事にはバラエティが必要です。 同じものばかり食べるより、いろいろな食品を少しずつ食べる方が、体にも心にもよい刺激になります。 和食のように、米、魚、野菜、豆、海藻、発酵食品などを組み合わせる食べ方は、体に必要な栄養を取りやすい方法です。 ただし、夜遅くに食べ続けることは、ホルモンのリズムを乱します。 夜は本来、食べるよりも休む時間です。 寝る前の食事が多くなると、睡眠が浅くなり、食欲を調整するホルモンも乱れます。

運動も重要です。 運動は、単にカロリーを消費するためだけのものではありません。 運動をすると、心臓や血管、筋肉からホルモンが出ます。 これらは血管を広げ、血流をよくし、血圧や血糖の調整を助けます。 筋肉からも体を守る物質が出て、腸や全身に働きます。 したがって、運動は体を動かすだけでなく、ホルモンを通じて全身を整える行動です。

ただし、無理な運動をする必要はありません。 楽しく続けられることが大切です。 歩く、階段を使う、軽く体操する、友人と散歩するなど、日常の中で体を動かすことがホルモンの働きを助けます。 運動を苦痛として続けるよりも、気持ちよく動くことの方が長続きします。

睡眠もホルモンに深く関わります。 眠っている間には、成長ホルモンをはじめ、体を修復するためのホルモンが働きます。 夜にしっかり眠ることで、食欲を抑えるホルモンや空腹を感じさせるホルモンのリズムも整います。 睡眠不足になると、食欲が増えたり、太りやすくなったり、ストレスに弱くなったりします。 よい睡眠は、ホルモンの力を整える基本です。

7 ホルモンと心の健康

ホルモンは体だけでなく、心にも関係します。 人は、うれしい、楽しい、安心する、愛されていると感じる、やる気が出る、緊張する、不安になるなど、さまざまな感情を持ちます。 こうした感情の背景には、脳とホルモンの働きがあります。

たとえば、何かを達成したときの喜びには、報酬に関わる仕組みが働きます。 人と親しくなったり、信頼関係を築いたりするときには、オキシトシンなどが関わります。 ストレスを受けたときには、副腎ホルモンが働きます。 つまり、心の動きは体から切り離されたものではありません。

本書では、心と体を分けずに見る考え方も重視されています。 日本語の「身」という言葉には、体と心の両方の意味があります。 体が疲れれば心も弱り、心が苦しければ体にも影響が出ます。 反対に、体を整えれば心も安定しやすくなります。 ホルモンは、まさに心と体をつなぐ役目を持っています。

そのため、ホルモンの力を高める生活とは、単に健康食品を食べることでも、激しい運動をすることでもありません。 楽しく食べ、楽しく動き、よく眠り、人とつながり、安心できる時間を持つことです。 心が落ち着き、体がリラックスしているとき、よいホルモンは働きやすくなります。

8 老化と若返りをめぐるホルモン

人間は誰でも年を取ります。 老化を完全に止めることはできません。 しかし、老化の進み方には差があります。 ホルモンは、この老化にも関わっています。

若い血液の中には、筋肉や神経、心臓などを元気にする物質がある可能性が示されています。 動物実験では、若い個体の血液が年を取った個体の体に良い影響を与えることが観察されています。 このことは、血液中のホルモンやそれに近い物質が、老化や若返りに関わっている可能性を示しています。

ただし、若返りを簡単に実現できる万能薬があるという意味ではありません。 大切なのは、自分の体が本来持っているホルモンの働きを大事にすることです。 成長しすぎず、食べすぎず、動かなすぎず、ストレスをためすぎず、体のリズムを整えることが、結果として老化をゆるやかにすることにつながります。

ホルモンは、体を一気に若返らせる魔法ではありません。 しかし、毎日の生活を整えることで、ホルモンの働きを味方にすることはできます。 老化に逆らうというより、体が持っている力をできるだけ長く保つことが大切です。

9 ホルモン力を高める生活

ホルモン力を高めるためには、四つの「楽」が大切です。 第一に、楽しく食べることです。 お腹が空いたと感じる時間を持ち、食事を味わい、いろいろな食品を食べることが重要です。 第二に、楽しく動くことです。 運動を義務として嫌々行うのではなく、気持ちよく体を動かすことが大切です。 第三に、楽しく眠ることです。 夜は食べる時間ではなく、休む時間と考え、体のリズムを整える必要があります。 第四に、楽しく人と関わることです。 人との信頼や愛情は、ホルモンの働きを通じて心身を支えます。

現代社会では、忙しさやストレスによって、食事、運動、睡眠、人間関係が乱れがちです。 するとホルモンのリズムも乱れ、体や心に不調が出やすくなります。 反対に、生活のリズムを整え、楽しいと感じる時間を増やすことで、ホルモンはよい方向に働きやすくなります。

ホルモンは、無理や我慢だけではうまく働きません。 もちろん、食べすぎや運動不足を避ける努力は必要です。 しかし、それ以上に大切なのは、体が喜ぶ生活をすることです。 楽しい食事、気持ちのよい運動、深い睡眠、安心できる人間関係は、どれもホルモンにとってよい環境になります。

10 結論

ホルモンは、人間の体の中で作られる情報伝達物質です。 成長、食欲、睡眠、愛情、ストレス、血糖、血圧、骨、筋肉、老化など、私たちの生活のほとんどに関わっています。 ホルモンは、細胞同士や臓器同士をつなぎ、体全体が一つのまとまりとして働くように助けています。

ホルモンの働きは、単なる医学の知識にとどまりません。 私たちがどのように食べ、動き、眠り、人と関わり、年を重ねるかという生き方そのものに関係しています。 ホルモンを理解することは、自分の体と心の声を理解することでもあります。

大切なのは、ホルモンを特別なものとして遠くに置くことではありません。 ホルモンは、私たちの体の中で毎日働いています。 楽しく食べ、楽しく動き、よく眠り、人とのつながりを大切にすることによって、ホルモンの力は自然に整っていきます。

ホルモンは、体の中の小さな物質ですが、人生を支える大きな力を持っています。 私たちが健康に、前向きに、長く生きていくためには、この体内の力と上手につき合うことが大切です。 ホルモンは、私たちの体と心をつなぎ、日々の生活を支える見えない協力者なのです。

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