孤立した田舎の記憶
サンダルで、
砂利の小石をひとつ、蹴飛ばした。
蝉の鳴き声も頭に入ってこないほど
ただ、透き通った川の水を、
手のひらで掬った。
目の前の景色が全てで、それが世界だった。
和室を駆け回った。
少しだけ、畳の繊維が剥げていた。
仏壇で遊ぶことが、いけないことだって
知らなかった。
居間には、ご飯が用意されていて、
誰かが風呂を沸かしてくれる。
近くに家はなかった。
布団の隙間から感じる、外の涼しい暗さ。
ぼんやりと漏れるテレビの音。
居間のレトロな電灯。
贅沢だとは、気がつかなかった。
記憶が掠れるぐらい、
随分昔に亡くなって、ただ夏に取り残された
平屋の家。
曽祖母の家が取り壊されたことを知ったのは、
三日前だった。
近くの川は、
過去に洗濯した人がいるほど綺麗で。
今は、もう底が見えない程濁っている。
記憶にある田舎の家は、
いつもその家で、夏だった。
冷房の効いた部屋で、青い空を見て、
思ったのだ。
確かに、人が息づいたその家で。
わたしの手は、まだ小さかった。
なつの、におい。
