君夏 ⑫
君と見上げた夏空の記憶が、今も背中を押してくれる(完全版)
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・出来事などとは一切関係ありません。
第4章 Week3
第12話 浴衣で、嘘がつけない
どれだけ時計を見ても針は遅く、
心の中ばかりが先に進んでいった。
みーちゃんが浴衣に着替えてくる──
その一言だけで、頭の中はもうずっと花火。
いや、花火より熱くて、もっと甘くて、もっと期待に満ちた何か。
そしてようやくその時が来た。
待ち合わせ場所は、街外れにある昔ながらの商店の駐車場。
どれだけこの瞬間を待ちわびていたか。
…そして、登場する浴衣姿の彼女。
……。
絶句。
からの。
絶叫。
ギャーーーーー!!!
くぁわぁゆぅいぃぃぃ!!!
夏空みたいに明るくて、澄みきった青をまとった浴衣には、
小さな花たちが風に乗って舞うように、優しく散りばめられていた。
その色合いも、雰囲気も、彼女にぴったりすぎて、
息を呑む…というより、呼吸すら忘れてしまった。
そして髪。
いつもふわっとしてるその髪が、今日はきゅっと結われていて。
うなじが…うなじが、まるっと、見えてる。
白くて、なめらかで、思わず見とれる色気。
しばらく見とれていた俺に、みーちゃんがそっと声をかけてくる。
「ごめんね、おまたせ。……あのぅ、どうかな?」

控えめなトーン。
ちょっとだけはにかんだ顔。
そして、その仕草。
耳に髪をかける、あの、たまらないほど女の子らしい所作。
もう、ダメ。
破壊力がえげつない。
「か、かわいいよ。めちゃくちゃ……すっごく、かわいい。」
言葉がつっかえながらも、どうしても伝えたくて。
溢れてしまうくらい「かわいい」を連呼していた。
「あはは、ありがと。たくさんかわいいって言ってくれて嬉しいです」
みーちゃんは少し照れくさそうに笑った。
でも、その笑顔は少しだけ、前よりも距離が近づいた気がして。
敬語もゆるやかになってきて──まるで、心の距離がそのまま反映されているようで。
花火まではまだ少し時間があった。
「まだ花火まで時間あるけど、することないですね。どうしよっか?車で雑談でもしてますか?」
「うん。そうだね。おしゃべり……しよっか」
俺たちはふたりで並んで歩きながら、
静かに車へと向かった。
その時間さえも、花火よりずっと、特別な予感がしていた。
◆ずっと見ていたい横顔と…
2人は、そのまま車の前の席に並んで座った。
人の気配もまるでないお店の駐車場。
でも念の為、道からも見えにくい、一番奥のスペースに車を停めてある。
お店の敷地内だし、もちろん“何か”をするにはリスクがある。
だから何も起きない。
──と思う。
けど、誰かが来る気配はまるでない。
この空間にいるのは、俺と、みーちゃんだけ。
「みーちゃん、浴衣……かわいすぎる。……キス、したい。」
車に乗り込んですぐ、欲望が口からこぼれ落ちた。
ここから先は

君夏まとめ買いマガジン
「君夏」全22話をまとめて読めるマガジンです。 毎週連載してきた物語もついに完結。 ひと夏の青春と恋の物語を、この機会にまとめてお楽しみく…
この記事が参加している募集
ここまで読んでいただけるだけで、心から喜びを感じています。 言葉があなたの心に届くこと、それだけで感謝の念があふれます。 それでも、もし応援の気持ちをいただけたなら、こんなにありがたく、幸せなことはありません。 どうぞこれからも、よろしくお願いいたします。
