第14章 猛き聖母とバイエルンのしたたかさ
左腕に幼子のキリストを抱く聖母マリア。炎のように広がる後光、わずかに首を傾けながら前を見据える姿はどこか戦場の指揮官のような猛々しさすら漂っている。

宮下英樹の漫画「神聖ローマ帝国 三十年戦争」からこの世界の魅力に囚われ始めた私は、シラーの「三十年戦史」でさらに沼にはまりつつある。ドイツ全土を強引にカトリック(旧教)色に塗り替えようとするハプスブルク家の皇帝フェルディナンド2世と傭兵隊長ヴァレンシュタイン。それに対抗しようとスウェーデンから上陸して戦う新教側の英雄グスタフ2世アドルフ。

その中で登場するバイエルンのマクシミリアン1世は、皇帝フェルディナンド2世すら手玉に取る老獪さを持ち、ティリー将軍を操りながら三十年戦争の序盤を支配していた。
彼は親族でありながら、反ハプスブルク家の旗頭だったプファルツ選帝侯のフリードリヒ5世を打ち破り、その領土と、神聖ローマ帝国皇帝を選ぶ権利を持つ「選帝侯」の地位を奪い取った。この銀貨が発行された1624年はまさに絶頂期で、自身のカトリック信仰、自らの権力や武力を誇示するような力強さが、このマリア像には溢れている。
マクシミリアン1世のヴィッテルスバッハ家はその後もしたたかに欧州の戦乱を生き抜いた。 三十年戦争では敗者側に回りながらも領土と地位を守り、ナポレオン時代には巧みに立ち回り、ドイツ統一後もバイエルン王国として存在感を保ち続けた。 ナチスには毅然と反抗し、当主の妻と息子が強制収容所に送られるという苦難を受けながらも、王家としての矜持を失わなかった一族でもある。
ディズニーランドの「シンデレラ城」のモデルとも言われるノイシュヴァンシュタイン城は彼らが残した富と文化の象徴だ。
小学3年生の長女は現在、漫画の伝記本「エリザベート」に夢中だ。「雲上の女神」にはとても手が出ないとしても、この皇后がマクシミリアン1世の一族であることも教えてあげられたら、と思っている。
