「短編小説」偽愛
「今から2人で、抜け出さない?」
長い黒髪の、どこか寂しそうな目をした君がそう言った。
「短編小説」偽愛
第1章 俺の目線
「2人寄り添って歩ーいてー、永久の愛を形にーしてー」
俺は決して大人数の場が好きではない。
こんな大人数でのカラオケだなんて、絶対に来なかった。
彼女が来ると知ったから、俺は来た。
鈴乃森あかね。
俺は彼女の事が好きだ。
「ごめん、ジュースおかわりしてくる」
はぁー…
無理だろ、大人数でカラオケとか…
けど鈴乃森さんいるし。
少しは楽しい、かも?
ポチッ
ジョーーー…
俺は無心でコップに飲み物を注いでいると。
彼女が隣に来た。
鈴乃森あかね。
「今から2人で、抜け出さない?」
長い黒髪の、どこか寂しそうな目をした君がそう言った。
「え?」
ジョーーー…
ポタ...ポタ…
「溢れてるよ?」
「え?あーーやべっ」
嘘だろ?
鈴乃森さんが俺にそんな事を?
「ごめん、今なんて」
「だからカラオケ。皆には内緒で2人で抜け出そうよって」
聞き間違いではなかった。
「何でそんなこと」
「だって君、楽しそうじゃなかったもん」
そうだよ。
楽しくない。
大人数での場は好きではない。
嫌いだ。
けど俺の大好きな鈴乃森さん。
君が居てくれたから少しでも楽しめた、気でいただけか…
たった1人、君の事が好きなのに。
そんな君に見透かされてたなんて…
「もういいっ。ほら、行くよっ」
「え、ちょっと待って」
彼女が俺の腕を掴んで、無理やり引っ張られた。
ポタ…ポタ…
俺のコップは、その場で溢れたままだった。
「けど行くって、どこに?」
「私の家…」
「え…」
今、何て…
鈴乃森さんの家?
嘘、だよな…
え、だって…
て言うことは、彼女も俺の事が好き、なのか?
そんなはずは。
それから俺と彼女の会話はなかった。
手を引っ張られる事、数分。
彼女の家に着いたようだ。
「ここ、私の家…」
初めて来た。
ガチャッ
「今日親2人とも、帰ってこないから…」
「え…」
さっきまで半信半疑だった気持ちが。
その言葉によって疑いが晴れた。
ゴクッ…
俺は唾を飲み込んだ。
今日、ここで、してしまうのか?
あの、鈴乃森さんと…
「ここ、私の部屋…」
「お、お邪魔します…」
ここが鈴乃森さんの部屋…
ここで今日俺は、やってしまうのか?
ガチャッ
とてもとても重い扉が、今閉まった。
第2章 彼女の目線
私の名前は鈴乃森あかね。
私は今日、彼を殺さなければならない。
なんとか大人数ではあったが、彼をカラオケに誘い出すことに成功した。
なんとか2人きりの場をつくり、ここから抜け出す。
それも成功した。
彼が私の事が好きなのは百も承知だから、絶対に私からの誘いは断らないと思った。
そして私の家へと着いた。
今、ここで、何としてでも彼を殺す。
「ここ、私の部屋…」
「お、お邪魔します…」
そして今、現在に至る。
第3章 結果
ガチャッ
とてもとても重い扉が、今閉まった。
鈴乃森さんの匂いがする…
大好きな匂いだ…
「ねぇ、ねぇ鈴乃森さん…ここで何かする、の?」
俺は知らないような口振りでそう言った。
「そうだね、するよ。だから目、そらさないでね…」
彼女が何かあさっている。
取り出したのは、
「ロープ?そんな物、何で」
「これで君を、殺すんだ、よ!」
あっ…
くっ…
首、が…
「く、苦しいぃ…」
何だよこれ。
どういう事だよ…
「あっ!」
バタンッ
俺は彼女に押し倒された。
ベットの上で…
さらに俺を締め付けるロープが縮んだ。
「な、何でこんな、事…」
「死ぬ前に特別に教えてあげる」
何だよ。
俺が彼女に何かしたか?
俺はただ、君の事が好きだった
「私の前の名字、西園寺なの。西園寺あかね。どう?これでピンと来た?」
西園寺?
西園寺あかね?
けど、嫌、だって…
俺はその名前を知っていた。
知らなければいけなかった。
忘れてはいけなかった。
遡ること、8年前。
ある日、俺の父親が事故を起こした。
親父は車を運転していて、雪道だった。
タイヤがスリップしてしまい、そのまま反対車線へと出てしまった。
車と車の正面衝突を起こしてしまった。
親父が運転していたのはトラック。
相手側は軽自動車だった。
お互い1人だったのだが、相手方は亡くなった..
名は、西園寺由利。
親父は幸いにも軽傷、とまではいかなかったが、数日の入院をして、その後は普通の生活に戻った。
相手方が亡くなり、その葬式に俺も参加した。
俺の親父は相手方に土下座していた。
謝っても失った命は戻っては来ないのに、何でそんなに親父は謝ってるんだ。
当時の俺はそんな風に土下座している親父を見ていた。
亡くなった西園寺由利。
その遺族に彼女がいた。
旧姓、西園寺あかねが。
西園寺由利の娘らしい。
親父の土下座を見る彼女の目。
それは憎しみ。
後悔。
怒り。
悲しみ。
そんな目をしていた。
とても9歳がする目ではなかった。
俺は彼女の事を忘れる事はないだろうと。
そう思った。
なのに。
なのに何で。
今俺の目の前にいるのは西園寺あかね何だ!
「ち、違う…君は西園寺あかねじゃ、ない…」
「何を言ってるの?私は西園寺あかねよ。君の父親が殺した、西園寺由利の娘、西園寺あかねよ!!」
「だってあんな子供、忘れる訳がない…」
「だって私、整形したから」
せ、整形!?
そっか、だから顔が違うのか。
けど、何でそんな事。
「君を殺すため、私は整形したの。お母さんが亡くなってそれから少ししてお父さんが再婚したの。それで名字が西園寺から鈴乃森になったの。でその時思ったの。これを使えば復讐出来るって。それで顔も名前も変えて私は復讐を誓ったの」
「け、けど何で俺を殺そうと、親父はどうした、ん、だ。う、嘘だろ?」
「あら?気がついた?」
あり得ない憶測が、一瞬にして俺の頭をよぎった。
俺の父親は数年前に事故で死んだのだった。
そう、事故で。
「お、俺の親父は事故で、死んだはずだ。ま、さか、君が、殺したの、か?」
「大成功!いやー殺す前に気付かれたんたけどね、私が西園寺あかねだってことに。でその時に君の父親はどうしたと思う?謝ったの!土下座したの!笑っちゃうよね。全く一緒だった、その土下座が。だから踏み潰したの、その頭を。何度も何度も、何度も何度も何度も何度も!それでも謝ってた。でもういいやって思って殺したの、事故に見せかけてね」
「ふざ、けるなよ。それで次は俺を殺そうってか?」
「そうよ。今の今まで気がつかなかったでしょ?私が西園寺あかねだって事に」
くっ…
こんな事が、あってたまるか!
「親父が事故を起こしたのはたまたま、偶然なのに、何で親父が死ななきゃ、ならない!?」
「偶然!?あなたの父親が後1分家を早く、遅く出ていれば。もう少し遅い速度で運転していれば!お母さんは死なないですんだんだよ!?殺されるのは当然の結果よ!」
ま、まずい…
く、苦しいぃ…
まじで、死んじゃ、う…
「良かったわね。死ぬ前に本当の事が知れて」
「くっ…俺を殺して、何になる?」
「君を殺すために私は努力したの。整形するためにはお金が必要だった。だからバイトをしてお金を貯めた。君と同じ高校へ通うために猛勉強した。その努力を全てなかった事には出来ないの!!私の人生、お母さんの人生。君と君の父親は奪ったんだ!殺されるのは当然の結果!!」
くっ…
あっ…
「もっと…もっと苦しみなさいよ!!」
あっ…
ギュッ…
「はぁ…はぁ…やったわ…殺したわ…お母さん、見てる?私かたき、とったわよ…」
俺はこの日、父親の死の真相を初めて知った。
そして、大好きだった人に、殺された。
第4章 物語の結末
数日後。
鈴乃森さんの両親が彼女の部屋を訪ねた。
扉を開けるとそこには、2人の遺体があったという。
1人は俺。
そしてもう1人は彼女、鈴乃森あかね。
彼女は俺を殺した後に、自殺したのだ。
「短編小説」偽愛 完
