創作物語『海沿いの約束』 シロクマ文芸部
「波の音なんて、聞こえないんだろうなぁ」
ケンジは海岸に座り、ポツリと言いました。
「なんの話?」
隣に佇んでいる白い花が尋ねます。
「海の中だよ。僕、学校のプールで潜ったことあるけど、全然、バタバタしても、何も聞こえないんだよ」
「あら、そう」
二人は海岸から、波の音に耳を傾けました。
ザーッ ザーッ
「ほら、ここからでも、こんなに波の音がきこえるじゃないか」
「そうね」
「不思議だなぁ。海から聞こえる音なのに、海に入ったら、もう聞こえないんだよ?」
「本当なの?私は根っこが張ってて歩けないから、確かめられないのが残念」
「そっか、君は動けないもんね」
二人はしばらく黙りました。
5月の真っ昼間。
日差しはギラギラと輝いていますが、風がよく吹いているおかげで、街中よりも涼しく感じます。
「ケンジは、どうしていつもここに来るの?」
「ここに座ると、なんだか落ち着くんだ。海が見えるし。泳ぐのはそんなに好きじゃないけどね」
ケンジは海を見つめたまま続けました。
「それに、ここに来ればいつも、君がいるじゃないか」
白い花は嬉しそうにふふっと笑いました。
風に揺られるその姿は、とても幸せそうにケンジには見えました。
「そろそろ君の名前を教えてくれよ」
ケンジは少しむぅとして尋ねました。
「私はただの花よ」
白い花は、いつもと同じ返事をすると、再び風にゆらゆらと身を任せ始めました。
「ねぇねぇ、いいこと思いついた」
白い花がパッと明るく言いました。
「私、ウミガメちゃんともお友達だから、本当に海の中は波の音がしないのか、今度聞いてみる」
ケンジはへぇ、と目を丸くしました。
「僕も気になるなぁ。海に潜るのは怖いけど」
ケンジの目の前に、海の世界が広がりました。
ウミガメは、広ーい海の中で、どんな風に泳ぐのでしょう。
ケンジは少しだけ、ウミガメと泳いでみたい気持ちになりました。
「…じゃあ、また今度、ウミガメちゃんがなんて言ったか、確かめにくるね」
「うん。ちゃんと私が咲いている頃に来てよね」
「うん、約束するよ」
ケンジはそっと、白い花のキラキラした葉っぱにちょん、と触れました。
海風が、少しだけ強く吹きました。
おしまい
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今週もシロクマ文芸部さんの企画に参加させていただきました。
読んでいただきありがとうございます🍀
あむの
