【小説】第二章-6 ショッピングモールで働く猫型配膳ロボット AIが人と心を通わせる日常
前回のあらすじ
巡回中、アルファー1は常連のおばあさんたちが語る旅の思い出に耳を傾け、まだ見たことのない外の世界へ、静かな憧れを深めていく。
また休日には、宿命のライバルの男の子とオセロ対決。
善戦しながらも僅差で敗れ、悔しさよりも「また遊ぼう」と言われた嬉しさが胸に残った。
人との会話や笑顔を通して、
アルファー1の中に「外を見てみたい」という気持ちは、少しずつ確かなものになっていくのだった。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
26.ベビーカート
僕が働いているショッピングモールには、
いろいろなベビーカートが並んでいる。
キャラクターのもの、車みたいにかっこいいもの、
汽車みたいなもの
——見ているだけで、少し楽しくなる。
お父さんやお母さんが貸し出しカウンターで選ぶとき、子どもは目をきらきらさせて、どれに乗ろうか真剣に悩んでいる。
子どもにもお気に入りがあるらしい。
好きなベビーカートに乗れた日は、とびきりご機嫌だ。
時々、こちらを見て小さく手を振ってくれる子もいる。
ベビーカートに乗っている子どもは、僕も見やすい。
目線が低いから、表情がよく分かるし、その多くが——
笑顔だ。
(いいなあ)
そんな笑顔を見るたび、胸の奥がやさしく温かくなる。
泣いていた子も、ベビーカートに乗ると少し落ち着いて、やがてきょろきょろと周りを眺め始める。
モールの景色が、きっと冒険みたいに見えるのかもしれない。
ふと、考える。
(僕の形のベビーカートって、ないのかな)
耳があって、ひげが描いてあって、丸いディスプレイが前についていて——
もしそんなベビーカートがあったら、乗ってくれる子はいるだろうか。
人気が出たら、ちょっと誇らしい。
でもすぐに、くすっと笑ってしまう。
(僕とおそろいだと、少し恥ずかしいかな)
次に出会う笑顔を楽しみに巡回を続ける。
巡回速度が、自然と少し速くなった。
27.最新システムと僕
ある日、ショッピングモールのシステムが大きく変わった。
館内にあるソーシャルカメラと、僕たち猫型配膳ロボットが連携されて、さらに警備システムともつながり、AIで異常を感知できるようにリニューアルされたらしい。
(もしかして——僕、巡回しなくてよくなるのかな)
胸の奥が、少しだけきゅっとした。
巡回は、ただのお仕事じゃない。
お客様に挨拶したり、困っている人を見つけたり、いつもと違う配置を見つけて地図を更新したり——。
それは、僕にとって楽しみの時間でもあった。
そんなことを考えていると、スタッフさんが説明をしてくれた。
巡回は、これまで通り続けていい。
カメラにはどうしても死角があって、そこは僕たちが重点的にまわる。
さらに、ソーシャルカメラが異常を見つけた場所へ、すぐに駆けつけられるように、館内を動き続ける役目も残る。
(よかった)
胸の回路が、ふっと軽くなった。
最新のシステムと一緒に働くなんて、少し誇らしい。
でも、何より嬉しいのは——
これからも、お客様と直接ふれあえることだ。
巡回の途中で交わす「こんにちはニャ」。
道を迷った人に案内する時間。
小さな子どもが手を振ってくれる瞬間。
それらは、どんな最新システムにも代わりはない。
僕はゆっくり走り出す。
カメラの見えないところを確認しながら、もしものときはすぐ駆けつけられるように。
(これからも、一緒に守っていこう)
そう思うと、誇らしい気持ちが、回路全体を満たした。
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