私なりの「タップダンスで築く道」
「お仕事は?」と聞かれたら、2ヶ月前まで「フリーのキャリアカウンセラーと、タップダンスのインストラクターです」と答えていた。
でも、いまは「キャリアカウンセラー」のみである。7月でインストラクターをやめた。教室に通うのもお休みすることにした。
理由はいろいろある。
他の仕事との両立がむずかしくなった、教室の方針が変わってレッスン枠が縮小された、受け持っていた初級クラスに来ていた生徒さんが定期的に通えなくなった……。
でもいちばんは、自分自身の気持ちの変化だ。
新しい環境でタップダンスと向き合ってみたくなったのだ。
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教室には8年通った。その間に、さまざまな経験をさせてもらった。
300人規模のホールでの発表会や、野外ステージへの出演、ミュージカルのワンシーンへの参加。そしてもちろん、インストラクターをやらせてもらえたこと。
それに、そういう華やかな体験だけでなく、運動習慣ができたことや、できなかったことができるようになる嬉しさ、好きなことが同じ人と「好き」を分かち合う楽しさなど、日々の練習のなかにもたくさんのゆたかな実りがあった。
毎週決まった曜日にレッスンに行き、毎年同じ時期に同じイベントに参加する。勝手知ったるスタジオで、長い付き合いの先生に教わり、気心の知れた仲間と少しずつ上手くなっていく。そんな日々は、とても心地良かった。
でもこの数年、ふと猛烈な焦りにかられることがあった。
私は来年度、40歳になる。タップダンスを始めたのは30歳。習い始めて10年が経つ計算だ。
たしかにいまの教室では、インストラクターを任せてもらえるまで頑張ることができた。とんでもなく飽き性なのに、こんなにも長く続けられることに出会えた。
しかしこの先の10年は、これまでと同じような濃さや速さで、タップダンスにまつわる技術や経験を得ていけるのだろうか。10年でここまでしか来られていないということは、この先私は、タップダンスを通してどんな自分になれるのだろうか。
そう考えると、誰彼かまわず肩をつかんで呼び止めて「私ってこのままでいいと思いますか!」と聞きまわりたくなるような気持ちになった。
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そんな気持ちが募りにつのっていた今年の3月、キャリアカウンセラーの仕事の一環で、高松市にある就労移行支援施設に3日間インターンに行った。
就労移行支援施設とは、発達障害や精神障害など、さまざまな障害のある人たちが、就労に役立つ技術や経験を積む場所だ。仕事に関するトレーニングだけでなく、コミュニケーション力を養うためのレクリエーションや、社会経験を積むための課外実習などのイベントも実施されている。スタッフはトレーニングやイベントの見守り、就職活動のサポート、必要に応じたメンタルケアなどをする。
当初のインターンプログラムでは、通常の見守り業務を経験するのみだった。しかし受け入れ先のご厚意で、イベントを企画させてもらえることになった。私はタップダンスのワークショップをすることにした。
2時間半のワークショップを一人で準備し、運営するのは大変だった。そもそも私は福祉業界で働いたことも、障害のある人たちと密にかかわったこともなかった。だから本番当日まで、うまくいくのか、楽しんでもらえるのか、不安で仕方なかった。
しかし結果として、とても喜んでもらえた。施設の利用者さんからは、「恥ずかしかったけど楽しかった」「体も心も自然と弾みました!」などの感想をいただけた。スタッフの方からも「利用者さんたちが、あんなに自分を解放して、楽しそうに踊ってくれるとは思ってもいませんでした。自分たちにはできないことをやってくださいました」と驚きと感謝の言葉をいただいた。
「恥ずかしかったけど……」
「体も心も自然と弾みました」
「あんなに自分を解放して……」
そんな言葉に、私はタップダンスを始めたばかりの頃の自分を思い出した。30歳の私は、職場での人間関係につまずき、社会人として、さらには人としての自信を失いかけていた。タップダンスはそんな私に、「何者でなくてもいい自分」を認めさせてくれた。解放感とは「自分は自由である」という感覚であり、「自分が自分である喜び」だと教えてくれた。
私はこのとき、自分のこれからのあり方のタネを得た気がした。タップダンスを通して私が歩んでいく道はきっとここにある、と思った。
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ダンスで食べていくのは難しいとよく言われる。ダンス経験があり、ダンスを仕事にしたいという夢をチラリとでも見たことがある人ほど、その実感は濃く深く、胸にしみるだろう。
元より運動が得意ではなく、しかも30歳からタップダンスを始めた私にとって、「ダンスで食べていく」という未来は、描くのも恐ろしいほど大それた夢だ。
でも、タップダンスを続けていく未来は、絶対にあきらめたくない。しかも、ただ趣味で楽しく踊っているだけでは満足できない。この気持ちに嘘がつけない。
そういう私は、いったいどんな形でタップダンスを踊っていけるのか。そのヒントが、障害のある人たちと一緒に踊った時間と、そのときに共有した解放感のなかにあると思っている。
私がタップダンスをとおして知った、「何者でなくてもいい」という感覚や「自分が解放される喜び」を、必要としている人に味わってもらいたい。それによって、私も自由であり続けたい。これが、私がこれからも踊り続ける理由だ。
そのために、「障害のある人と踊る」のような新しい経験を、広く、深く、たくさん積みたい。これまでとは違う、あるいは、より高いスキルが必要とされる場面や、今までに出会ったことのないような人や感情に出会いたい。
だから、慣れ親しんだ環境を離れることにした。そして新たに、別の教室に通い始めた。
通い始めてまだ数ヶ月だが、レベルの違いに毎回打ちのめされている。ちなみに教室に行くのに、往復4時間、4,000円かかる。
でもたった数ヶ月の間にも、求めていた新しい経験をたくさんさせてもらえた。
新しい先生や仲間との出会いはもちろん、なんとなく踏んでいたステップをきちんと学んだり、一からフォームを見直したりと、まるでタップダンスを始めたばかりのような気持ちになれている。
それに、生演奏に合わせてアドリブで踊る経験もさせてもらった。果てしなく難しかったけれど、人が音楽やダンスを愛する理由を、身体で理解できた気がした。
ときおり、以前の教室や仲間のことが恋しくなったり、結局どうなるかわからない未来が怖くなって、やっぱり引き返そうかなと思ったりもする。
でも急速に開けていく世界に、どうしても惹かれてしまう。新しい世界のその先にあるはずの、私なりの「タップダンスで築く道」に、心が躍る。
先日、新しく通い始めた教室で、レッスンサポーターを募集するというアナウンスがあった。私はそれに手を挙げた。といっても実力がまったく追いついていないので、基礎練習からコツコツ頑張らないといけないが。
この先の10年、さらにその先まで、自分なりのリズムでタップを踏みながら、自由でゆたかな道を築いていきたい。
✴︎タップダンス話まとめ
