タイに行きたい――メロウなタイのポップス3選――
アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画を観て以来、タイに行きたい欲とタイのカルチャーへの関心が高まっている。そんな私が最近聴いているのが、タイのポップス、いわゆるT-POPである。T-POPを知るきっかけとなったのが、雑誌『東京人』(2021年4月号)「特集 1970―1980年代Tokyo シティ・ポップが生まれたまち」における、寺尾ブッタの記事「アジアを中心とした世界で広がる再評価。」だ。You Tubeやサブスクリプションサービスを通して、80年代のシティ・ポップ――竹内まりや、松原みき、杏里、山下達郎等の楽曲――が海外のファンを獲得していることは周知の通り。本記事で寺尾は、シティ・ポップのエッセンスを取り入れたバンドを紹介する。例えば、韓国のDJ、Night Tempoは、竹内まりやの「Plastic Love」(1984)をフューチャーファンクの作品として発表し、海外におけるシティ・ポップ人気を後押しした。
(シティ・ポップには全然関係ないのだが、Night TempoはNew Jeansの「Ditto」もアレンジしている。このほか、細川たかしの「北酒場」も良いので是非聴いてほしい。まさかの北酒場ですよ。細川たかしがシティーボーイ(以下略))
Polycat
本題に戻ろう。この記事のなかで寺尾が紹介しているのが、2011年結成のタイのシンセポップバンド、Polycatである。本記事では、「日本の80年代シティ・ポップの要素がタイの歌謡ポップスに絶妙なバランスで落とし込まれており、本国タイでも圧倒的人気を誇る」と紹介されている。メンバーの脱退を経て ボーカル・Na、キーボード・Tong、ベース・Pure Watanabeの3ピースバンドとして活動、2017年10月には日本デビュー盤『土曜日のテレビ』をリリースした。なかでもボーカル・Naは、日本の80年代のレコード(山下達郎や竹内まりや、大貫妙子など)を趣味で集めているとのこと。早速聴いてみよう。
Polycat/たくさんの花
山下達郎の「いつか(SOMEDAY)」(『RIDE ON TIME』収録、1980)を彷彿とさせる軽やかなメロディーが心地よい。「いつも持ってる このカメラは素敵な 君を撮るために 好きな店に 連れて行ったら 喜ぶかな 君は」といったように、きわめてシンプルな「君と僕のラブソング」である。「君」という言葉が10回以上はリピートされ(それだけ「君」に夢中、ということだろう)、ポップなアニメーションも相俟って微笑ましい一曲だ。
続いてはこの曲。
Polycat/Forever Mate
Chapter1とあるから、おそらくシリーズ仕立てでリリースされたのだろう。歌詞は全く分からないが、どこか懐かしくて聴きやすい。古いビデオカメラで撮られた感じのMVも趣がある。
YONLAPA
Polycatをきっかけに、芋づる式にT-POPを聴くようになった。続いて私が紹介したいのが、タイ第二の都市、チェンマイで結成された4ピースバンド、YONLAPAである。メンバーはボーカル兼ギタリストのNoina、ギタリストのGun、ベーシストのNawin、ドラマーのFewchy。何度か来日公演も果たし、近年注目を集めているグループだ。日本でのインタビューで、ドラム担当のFewchyが次のように話していて、とても興味深かった。
Fewchy:チェンマイは割とヒッピー的なスタイルの生演奏志向のバンドが多いような気がします。森の中で演奏するフェスの雰囲気にすごくぴったりくる感じですね。片やバンコクのシーンは、メインストリームの産業と距離が近いこともあって、プログラミングを駆使したDTM志向が強いアーティストが多い印象です。それには恐らく両都市の交通事情の違いも関係しているんじゃないかと思います。バンコクは車の渋滞もすごく、ちょっと人に会うだけでもとても苦労するので、リモートのやりとりが発展しているんですよね。その点チェンマイはお互いの家も近いし、すぐスタジオに入れますから。
個人的に、YONLAPAの楽曲のなかで最もグッと来たのが「INSOMNIA」である。
YONLAPA/INSOMNIA
ゆったりとした浮遊感。ダウナーな歌声とベースラインが癖になる一曲、すっかりハマって何度も聴いている。MVの世界観も好き。
YONLAPA/Sunday Gloaming
こちらもchillな一曲。YONLAPAの楽曲は総じて心地よい。チェンマイの風土も関係しているのだろうか。
Echo Resort
最後に紹介したいのが、YONLAPAと同じくチェンマイで結成された四人組バンド、Echo Resort。ドリーム・ポップやポストパンクの影響のもと、爽快で都会的な楽曲を次々にリリースしている。
Echo Resort/Earthquakes
コード進行はシンプルながら、幻想的なテクスチャー。再生数もっと伸びていいのに……。
Echo Resort/20/20 Version
こちらはアンビエントな要素もあり、おしゃれな一曲。Echo ResortはMVがドラマティックで、映像も美しい。ウォン・カーウァイが好きな人には刺さりそう。
個人的備忘録も兼ねて、T-POPのバンド3組を紹介した。全てを聴き込んだわけではないが、タイのインディーズバンドの多くはメロウでチル。良い意味で棘がなくて、心地よさを感じさせる。いつかまた来日してくれるといいな。
