届く踊りは、心が動いた瞬間に
──ライラックニシブッポウソウ・シャルメナ
風が止まり、音がひとつに集まる。
その中央で、シャルメナは羽を広げていた。
今日は、逃げない。
そう決めていた。
客席の奥で、キゴシタイヨウチョウのピカローザが
羽を軽く揺らして合図を送る。
「大丈夫。今のままで」
そのすぐ隣で、
アカカザリフウチョウのサンガランデが楽しそうに囁いた。
「力抜いて。ほら、空気がもう踊ってる」
最初の一歩は、まだ少し震えた。
けれど羽が空を切った瞬間、
シャルメナは気づく。
上手く踊ろうとしていない。
評価も、正解も、探していない。
ただ、
「誰かの心が動く場所」
そこへ向かって、体が進んでいる。
踊り終えたあと、
一拍遅れて、拍手が広がった。
大きな音じゃない。
でも、確かにあたたかい。
真っ先に声を上げたのは、サンガランデだった。
羽を大きく広げ、いつもの調子で笑う。
「いやあ、今のはズルいね。
見せる踊りじゃなくて、“巻き込む踊り”だった」
その言葉に、
シャルメナは思わず息を吐いた。
ピカローザも、静かにうなずく。
「届いたよ。ちゃんと。
無理に輝かせなくても、羽は光るんだね」
そこへ、オカピのズィモラが近づき、
森の花を束ねた小さな花束を差し出す。
「派手じゃないけど、
この舞台にいちばん合ってた」
サンガランデは花束をのぞき込み、
からかうように言った。
「ほら、主役やめるタイミングも完璧じゃない?」
シャルメナは、少し照れたように笑い、
一歩、後ろへ下がる。
それは終わりじゃない。
役目を、次へ渡す動きだった。
視線の先では、
ざわざわと集まり始めるバーバリーシープたち。
シャルメナは言う。
「届く踊りはね、
心が動いたときに生まれるんだと思う」
サンガランデが、楽しそうに締めくくった。
「じゃあ次は、
あの子たちの番だね」
舞台は続く。
物語も、まだ終わらない。
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