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みんなが集う、湯気のそばで──番外編

湖と森と深海のあいだに、
名前のない場所がある。

今日は、
そこにいい匂いが漂っていた。

大きな鍋の前で、
ハナブトオオトカゲのトルヴァンが腕を組んでいる。

「火、いい感じだな」

草原のハーブと、
森で採れた根菜、
湖のそばで見つけた木の実。

特別な料理じゃない。
でも、腹にたまって、体が落ち着くやつ。

最初に集まってきたのは、
バーバリーシープたちだった。

「え、なにこれ、いい匂い」
「今日は作戦会議じゃないよね?」
「違う違う、たぶん食べるだけの日」

六匹は自然に鍋のまわりに座り込む。
順番も、役割も決めない。

そこへ、
羽を休めたシャルメナが降りてくる。

「踊らなくていい時間って、
こんな感じなんだね」

サンガランデがすかさず言う。
「今日は舞台なし!
代わりに腹八分目で感動しよ!」

ピカローザは鍋をのぞき込み、
「これ、ちゃんと元気出る味だ」
と、確信したようにうなずく。

ズィモラは花を置きながら、
「食べる前に、これだけ」
と、さりげなく場を整えた。

トルヴァンは鍋をかき混ぜながら言う。
「群れってさ、
こういうときに黙って集まれるかどうかだと思うんだ」

そのとき、
誰にも聞こえないくらいの声で、
ルクスピラがぽつりとつぶやいた。

「……昨日と、同じだ」

色を変えながら、
鍋の湯気を見つめている。

トルヴァンは、聞こえたのか聞こえなかったのか、
何も言わずに器を並べる。

やがて水面が揺れ、
ヴァルメイが顔を出す。

「……光、ちゃんと届いてる?」

少し不安そうな声。

それに答えたのは、
深い場所から聞こえるマルヴォンの低い声だった。

「届いてる。
今は、温かいほうもな」

トルヴァンが器を差し出す。
「ほら、冷めないうちに食え」

誰かが前に立つこともなく、
乾杯の音頭もない。

ただ、
湯気と笑い声が重なっていく。

昨日と同じ味。
でも、
同じ時間じゃない。

光は鍋のそばに置かれ、
誰のものでもなく、
みんなのそばにあった。

「うまい」
「これ、また作って」
「次はパン欲しいな」

トルヴァンは肩をすくめる。
「気が向いたらな」

約束はいらない。
理由もいらない。

また集うときは、
きっと今日みたいに、
自然に始まる。


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