短編小説|夜桜と一緒
夜桜と一緒だから夕飯いらない、という友実からのメッセージを見て、一瞬「よざくらと一緒ってどういうことだろう?」と考えていたら、次のメッセージが表示された。
『そのまま桜の家に泊めてもらいます』
ああ、夜、桜ちゃんと一緒ということか。お互いに何度か泊まり合っている娘のクラスメイトの人懐っこい笑顔が浮かぶ。OK、と返信してからキッチンに移動して、冷蔵庫を開けて考える。夕飯、どうしようか。
長女の友実は四月から地元の専門学校に進学する。高校卒業を機に地元を離れる友達も多く、一番仲がいい桜ちゃんは遠方の学校に進学するらしい。最後の春休みを満喫しようと最近は連日家を空けているが、あまりうるさいことは言わないようにしている。
友実がいない三人分の夕飯は冷蔵庫にある食材で賄えそうだ。昨日買っておいた鶏胸肉でチキン南蛮にしよう。また冷蔵庫を開けて、ゆで卵を作るべく卵を取り出した。
友実は小さい頃から手のかからない子だった。私の実家と義実家、両家共に初孫だったこともあり可愛がられて育ったと思う。あまり自分を主張することもなく、妹の麻実に比べて問題を起こすこともなく、まぁ、いい子だ。自立心旺盛な麻実は今から「高校卒業したら絶対都会で一人暮らしする」と息巻いているけれど、おっとりしている友実は社会人になっても地元から離れることなく近くにいてくれるんだろう。
細かく刻んで水に晒した玉ねぎの水気を拭いて、潰したゆで卵とマヨネーズで和える。タルタルソースを作っていたら、ピンポーンとインターフォンが鳴った。友実あての荷物だった。受け取って、何か買うって言ってたっけ、と思いながら友実の部屋のドアを開ける。息子のいる友人は勝手に部屋に入ると怒られるって言ってたけど、娘たちは今のところ何も言ってこない。机の上に届いた荷物を置くと、鏡台代わりにしているチェストが目に入る。鏡が立てかけられ、アクリル製の蓋のない透明なボックスには化粧水の瓶や制汗剤、何かのスプレーなどが無造作に入れられている。ふと、桜色のハンドクリームらしきチューブの先端が目に入った。淡いピンク色の本体にグレーの筆記体の細い文字。上品なデザインだな、と手にとってみると、シルバーのラインの入ったキャップの上にDiorの文字が見えた。
「えっ」
今どき、高校生でもブランドを好む子たちがいるのは知っているけど、友実がそんな興味を持ってるなんて知らなかった。ディオールのハンドクリームなんて一体いくらで買えるのか見当もつかない。けど、千円や二千円ではないだろう。お小遣いを貯めて買った? ふいに、今日友実に届いた荷物の中身が気になる。一体何を買ったんだろう?
キッチンに戻り、携帯で『ディオール ハンドクリーム 高校生』と検索をしてみたら、すぐに同じ商品の画像や価格が表示された。こんな高いハンドクリーム、私だって使ったことない。画面をスクロールすると、ずらりと検索結果が並び、見出しが表示された。
『高校生のギフトにおすすめの……』
『いい香りの人気ハンドクリーム……』
『彼氏彼女の誕生日プレゼントに……』
今日びの高校生はこんな高価なものを送り合うの? と小さく驚きを感じながら、でも特別な相手だったらあり得るな、とも思う。
今夜、友実が一緒にいるのは本当に桜ちゃんなんだろうか?
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