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やさしさに包まれたなら

何年か前の話。

あの頃、夫との間に距離ができてしまった。
夫が私に対して、心を閉ざしてしまった。
名前も、呼ばれなくなった。

毎日、辛くて辛くて……。
それまでも、乳がんの手術など、辛いことはあった。
でも、それよりもずっと、
このことが辛かった。

消えてしまいたいと思ったほどだった。

あの時、手術しなければ、
今ここにいなかったのに……とも。

その頃、よく頭の中に流れていた曲があった。
ちゃんと聴いたこともなかったし、
「なんでこの曲、こんなに知ってるんだろう?」
それくらいの感覚だった。

今思えば、あれは私へのメッセージだったんだと思う。
ユーミンの
「やさしさに包まれたなら」。

その曲をちゃんと聴いてから、
まずは、やさしい気持ちで目覚めることを意識するようになった。
起きている間も、できるだけ穏やかな気持ちでいようとした。

最初は、なかなかうまくいかなかった。

「今、この瞬間を気分よく過ごす」
「気楽でいる」

頭ではわかっていても、
心が辛すぎて、できる気がしなかった。

それでも、少しずつ変わっていった。

日中、仕事や家事に集中している時、
「あ、またネガティブになっているな」
そんなふうに、自分の状態に気づけるようになってきた。

次第に、朝の目覚めがやさしくなり、
穏やかな気持ちでいられる時間が、
少しずつ長くなっていった。

そして、ある時、ふと思った。

闘病中、
「辛いのは自分だけ」だと思っていた私。

でも、あの頃、
夫もまた、辛かったのだ。

私を支えなければならない中で、
仕事も大変な時期だった。
それでも、弱音を吐かずに、
必死に踏ん張っていたのだと思う。


今では、毎日が穏やかで、楽しくて、
幸せが、あちこちに転がっている。

だから私は、
「少しずつ呼吸が楽になった人もいる」ということを、
今、辛い人に、そっと置いておきたい。

一瞬でもいい。
「ほっ……」とできる感覚。

何のざわつきもない、静かな心。

そんな感覚を、少しずつ積み重ねていけば、
気がついた時には、
穏やかな日々の中にいる。

大丈夫。
大丈夫。

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