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【DOLLS】 Ep.8 あいたい

唯は両手いっぱいの買い物袋を、毛足の長い艶やかな白い絨毯の上に放って、ため息をついた。

南平台
18時52分


夕日が落ちていく、がらんとしたリビングの真ん中で、とっくになくなったレモネードのカップの底をストローで突く。

家族カードなんていらないって言ったのに、また使っちゃった。

唯はおもむろに袋を拾い上げた。

……開封動画、撮るか。

スマホを三脚に固定し、ライトを点ける。
目の中にハートの照明が写り込む。

ここからは、“仕事”だ。

「今日は——」

言葉が続かなかった。
唯はカメラを切った。

スマホを手に取り、LINEを開く。

『今から会えない?』
『何やってんのー?』
『この間はありがとう。来週は』

左にスワイプし、片っ端から消していく。

一番上には、未読のままのレイからのメッセージ。
触らずに、閉じた。

渋谷・宮益坂
Blue Bar
23時16分


「唯ちゃん?」
「……大和くん」

平日の小さなDJバーには不釣り合いなほど陽気なハウスミュージックと、上機嫌な酔客。
唯はその中に知った顔を見つけ、顔を顰めた。

「露骨に嫌そうな顔しないでよ」

大和が苦々しく笑う。

「……レイから聞いてるでしょ」

唯は拗ねた顔で、視線だけ大和に向けた。

「知らね」
「あっそ」

端のカウンターに少し離れて並ぶ大和と唯だけが、その場の陽気さから切り離されていた。

「今日は1人なんだ、珍しいね」

唯がやっと口を開く。

「別に、いつも1人だけど」
「うわ、大和くんが言うと感じ悪い」
「そういうこと言うそっちが感じ悪いだろ」

唯は怪訝に大和の顔を見る。大和は笑っていた。その顔を見て、唯は少し息を吐いてから笑った。

「大和くんて普段こういう感じなんだ?」
「どういう意味」
「営業モードじゃない大和くん初めて見たって意味」
「……営業モードって」

大和が鼻を鳴らす。

「ニコニコしてみんなに優しくて、ヒーローって感じじゃん?OAKでは」
「唯ちゃんだって、インスタではもっと楽しそうだけど」

唯は眉を寄せてグラスを煽った。

「……大和、性格悪っ」

渋谷・宮益坂
Blue Bar
24時42分


「だから、唯はレイのこと大好きなの。レイっていつでもレイって感じでかっこいいじゃん。あ、見た目はめっちゃ可愛いけどね?でもレイって全然連絡くれないし、唯ばっかり好きみたいでムカつく!」

カウンターの隅には、いつの間にか空いたグラスがいくつも並んでいた。

「いやお前さ、ドタキャン繰り返してたんだろ?明らかレイより男の方が好きじゃん」
「……お前ってゆーな!つーか、唯よりレイのこと知ってんのウザい!」

大和は溜め息を吐いて、グラスを置く。

「まぁ、そんだけ言いたいことあるならレイに言えよ」
「……もう言ったもん」

唯が急に静かになる。大和は席を立った。

「じゃあ俺行くわ」

店を出る前に、大和が唯へ振り返る。

「……未読無視は良くないと思うよ」
「やっぱ聞いてんじゃん!」



——三日前

永福町
21時47分


「大和、どうしたらいいと思う!?」

レコードやCDケースが床に散乱する大和の自室で、レイは食い入るように大和の顔を覗き込んだ。

「……お前さぁ、こんな時間にチャリで突撃して来んなよ。親驚いてただろ」

ベッドの上で胡座をかいた大和は、呆れたようにレイを睨んた。

「それはごめんって!で、どうしたらいい?!」
「いや、だからお前はどうしたいんだよ」
「このままは嫌だ!仲直りしたい!」
「じゃあそう言えよ」
「……確かに」
「ほら、さっさとLINE」

大和は片手でスマホを弄りながら、ため息交じりに言う。
レイはスマホを手に取って、一瞬止まった。

「……でも俺悪くなくない?」
「そういう話じゃねぇだろ」
「唯だって悪くない?」
「じゃあ切れば」

大和は相変わらずスマホを弄ったまま言った。

「それは嫌!」
「……俺寝るわ」

大和は掛け布団を引き寄せて、寝転んだ。

「大和!話まだ終わってない!」


——現在

南平台
25時23分


唯は天蓋付きのベッドに寝転がってスマホを睨んでいた。

レイの部屋を飛び出してから、開けないままでいたメッセージをやっと開く。

<R E I ❷⓿⓿⓿
唯、今どこ?

ゆぃ×口 💖🎀💅>
あいたい


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