「パソコン使える?」「エクセル使える?」「AI使える?」——これ、全部おなじ問いです
「青木さん、AIって使えます?」
打ち合わせで、よく聞かれます。そのたびに、正直すこし困ります。
答えたくないわけではありません。「使える/使えない」の二択で答えられる問いではないからです。かといって「どういう意味ですか」と聞き返すのも感じが悪い。結局、毎回もごもごと「まあ、はい」みたいな返事をしていました。
先日ふと、この居心地の悪さの正体が分かりました。今日はその話です。
「エクセル使える?」と、まったく同じ構造だった
気づいたきっかけは、頭の中でこの3つを並べてみたことでした。
「パソコン使える?」
「エクセル使える?」
「AI使える?」
全部、同じ問いです。そして全部、答えに困る。

たとえばエクセル。家計簿を作れる人も、関数とピボットで在庫を回している人も、マクロで業務の一部をまるごと動かしている人も、聞かれれば全員「使えます」と答えます。嘘は一つもありません。でも、聞いた側には何も伝わっていない。
抜けているのは、たった一言です。「どのレベルで?」
AIも同じでした。しかもAIのほうが、たちが悪い。エクセルなら「表計算のソフト」という共通のイメージが一応あります。でもAIは、5級の人と1級の人とでは、同じ言葉で完全に別のものを指しています。
ある人にとってAIは「賢い検索窓」です。別の人にとっては「業務そのものを動かしている仕組み」です。この二人が「AI、使ってます?」「使ってますよ」と会話しても、実は何一つ噛み合っていない。私が毎回もごもごしていたのは、この距離を一言で埋められなかったからでした。
じゃあ、勝手に級を作ってみよう
エクセルには検定があります。AIにもあれば、この会話はずいぶん楽になるはずです。
というわけで、勝手に作ってみました。

先にお断りしておきますが、これは実在する資格でも、業界の標準でもありません。 AI導入支援を生業にしている一人の人間が、日々お客様と話しながら「だいたいこの5段階だな」と感じている、あくまで私見の目安です。
5級|チャットで検索・相談ができる
「これ、どう書けばいい?」「この文章、直して」。分からないことを聞いて、返ってきた答えを自分で判断して使える段階です。ここに立てているだけで、実は上位2割くらいには入っていると思います(周りを見ていての実感です)。
4級|単発の調査・分析・資料づくりを任せられる
「この業界の動向を調べて」「この数字を分析して」「これを資料の形にして」。“聞く”から“任せる”に変わる段階。ここまで来ると、自分でやるより速い場面がはっきり出てきます。世の中で「AIを活用しています」と言われているものの多くは、体感このあたりです。
3級|ナレッジの置き場を用意して、記憶と文脈を踏まえて使える
AIが自由に読み書きできる“置き場”を先に作り、そこに会社のことを溜めていく段階です。前提を毎回説明しなくてよくなる。ここから景色が変わります(後で詳しく書きます)。
2級|プロダクトを作れる
社内アプリでも、お客様に出すサービスでも、AIと一緒に「動くもの」を形にできる段階。以前の記事で書いた、いわゆるバイブコーディングの世界です。
1級|仕組みごと設計して、業務の中に落とし込める
アプリを作るのではなく、業務の流れそのものにAIを埋める段階。誰が何を担当し、どこで人が確認し、記憶をどこに残すか——その設計まで含めて組める人です。
さて。あなたは、そして御社は、何級でしょうか。
いちばん高い壁は、3級にある

並べてみて、自分でも意外だったことがあります。壁があるのは2級と1級の間ではなく、4級と3級の間でした。
4級までは、実は誰でも今日から行けます。特別な準備は要りません。

でも4級には、地味に効いてくる天井があります。毎回、ゼロから説明していることです。
「うちはこういう会社で」「今こういう状況で」「前にこう決めていて」——毎回書いていませんか。AIは前回の話を覚えていないので、こちらが毎回思い出させてあげる必要がある。そして人間は面倒くさがるので、だんだん説明を省くようになる。すると当然、返ってくる答えも当たり障りのないものになっていきます。
「AIを入れてみたけど、大したことなかった」という声をよく聞きます。私の見える範囲では、その多くはAIの性能の問題ではなく、覚えておく場所を渡していないだけです。

3級は、そこを作る段階です。会社のことが置いてある場所をAIに開放して、そこを読ませ、書かせる。すると「うちの場合はどうか」が最初から前提になる。同じAIに同じことを聞いているのに、返ってくるものの質がはっきり変わります。
前に別の記事で書いたことの繰り返しになりますが、大事なので改めて。チャットの記憶は受け身、仕組みの記憶は設計です。 チャットが覚えていてくれるのは、良くも悪くもこちらに合わせた分だけ。本当に覚えていてほしいことは、意図して残す仕組みを作らないと残りません。
3級の壁は、賢さの壁ではなく、準備の壁でした。だから、越えようと思えば越えられます。
そして、2級と1級には逆転がある
ここが個人的にいちばん面白いところです。

2級——つまりAIと一緒にアプリを作れる段階に来ると、たいてい社内アプリを作りたくなります。「この作業、専用の画面を作れば楽になるな」と。実際、作れてしまいます。数年前なら数百万円と数ヶ月かかっていたものが、数日で形になる。楽しいです。
ところが1級までいくと、その社内アプリが要らなくなることがあります。
理由は単純で、アプリを作らなくても、業務の流れそのものにAIを埋められるからです。画面を作って、そこに人がデータを入れに行く——という往復自体が、そもそも不要になる。
うちのAIチームがまさにそれで、実は専用のアプリを作ったところは同じなのですが、そこへのデータの入出力はAIチームが行うようになってきています。道具の上に、手順と記憶と担当を設計して載せているだけです。それでも毎日ちゃんと働いています。
このあたりを、私は勝手に3段階で捉えています。

プロンプトエンジニアリング(どう伝えるか)→ コンテキストエンジニアリング(何を覚えさせておくか)→ ハーネスエンジニアリング(仕組みごと業務に組み込むか)。
級で言えば、5〜4級が一段目、3級が二段目、1級が三段目。世の中の「AI活用術」の多くは一段目の話に集中していますが、効き目が大きいのは圧倒的に二段目から先でした。指示の言い回しを磨くより、文脈が自然に溜まる仕組みを作るほうが、はるかに効きます。
全員が1級を目指す必要は、まったくない

ここまで書いておいてなんですが、会社として全員が1級になる必要はありません。というより、無理です。
現実的に効くのは、たぶんこの形です。
全員が5級(分からないことをAIに聞く癖がついている)
数人が4級(調査・資料づくりを任せられる)
社内に一人でも3級がいる(会社の記憶をAIに残す係)
この3つ目がいるかどうかで、会社としての伸び方がまるで変わります。個人の生産性が上がるのが4級まで、会社に資産が溜まり始めるのが3級から、という感覚です。
そして2級・1級は、社内に無理に育てなくても、外から借りてしまっていい領域だと思っています。私自身がそういう仕事をしているからそう言うのだろう、と思われるかもしれませんが、順序としては逆でした。自分で全部やってみた結果、「ここから上は片手間では無理だ」と分かったので、そこを引き受ける仕事にした、というのが正直なところです。
で、私は何級なのか
自分のことも正直に書いておきます。
一応1級を名乗りたいところですが、先週の記事に書いたとおり、うちのAIは「今年が何年か」を知らないまま私に存在しない仕事を依頼してきましたし、その仕組みを作ったのは私です。テストは46件、全部通っていました。
だからこの級分けは、資格というより現在地だと思っています。取ったら終わりではなく、毎日ちょっとずつ上がったり、油断すると足元が崩れたりする。私も途中です。

それから、これも毎回書いていることですが——会社が丸ごとAIになったわけではありません。 何級まで行っても、お客様と会って話し、最後に判断して送るのは人の仕事です。表に立つのは人、裏を支えるのがAI。級が上がるのは裏側の話で、表の仕事が減るわけではない。むしろ、裏が静かに回るぶん、人と会う時間が増えました。
次に「AI使えます?」と聞かれたら
たぶん私は、こう聞き返すと思います。
「何級の話ですか?」——さすがに感じが悪いので言いませんが、頭の中ではそう整理して、相手が何級の景色を見ているかを想像してから答えるようにしています。
もしこの記事を読んで「うちは4級で止まってるかも」と思われたなら、それはとても良い発見です。止まっている場所が分かれば、次の一段だけ決まります。 いきなり1級を目指す必要はありません。3級——つまり「会社の記憶をAIに残す場所を作る」——ここだけで、たいていの会社は景色が変わります。
「うちは何級ですか」「次の一段は何をすればいいですか」。そういう話でよければ、お気軽にどうぞ。今すぐ導入する気がなくても大丈夫です。私も毎日転びながらやっている途中なので、一緒に現在地を数えるくらいの気持ちで。
記事末尾(リンクまとめ)
Grid Office(AIチームまるごと一式)とは:https://grid-links.com/ai-support/grid-office/
AI導入支援(サービス全体):https://grid-links.com/ai-support/
Grid Memo(AIチームの“記憶の置き場”になっている、Gmailの上で動く共有ノート):https://grid-memo.com/
会社サイト:https://grid-links.com/
前回の記事(AIチームは、今日もふつうに失敗する):https://note.com/aoki_hayama/n/nd2a3a6d2b53c
