見出し画像

vol.66 「時代のプリズム」展に行ってきました。#ゆる展

先日、国立新美術館で開催されていた「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」展に行ってきました。ショッキングピンクの背景に、野菜などの食材でできた銃を持った女性が映っている展覧会ポスターがとても印象的で、どのような作品が観れるのだろうと楽しみでした。

「時代のプリズム」展は、平成が始まった1989年から2010年までの間に日本で生まれた美術、そして日本から影響を受けて作られた美術を見て、この時代にどのような表現が発信されてきたのかを振り返る展覧会となっています[1]。 展示室に入ったら、国内外50名以上の作家による、写真、絵画、映像、大型インスタレーション作品など、さまざまなタイプの作品が展示されてあり、とても豪華な構成でした!今回は、私が特に印象に残った作品について書いていこうと思います。

1. 大きな青い傘と黄色い傘

1991年、アメリカ・カリフォルニア州南部に1,760本の黄色い傘、茨城県北部に1,340本の青色の傘を同時に設置した[2]、《アンブレラ》プロジェクトに向けてのドローイングが展示されていました。一本、高さ6m、直径約8.7mの巨大な傘が、18日間限定で設置されていたそうです[2]。

私が《アンブレラ》を知ったきっかけは、10年ほど前に見た、テレビ番組「放送大学」でした。放送大学の講義を放映しており、美術の講義で《アンブレラ》プロジェクトについて取り上げられていました。たくさんの大きな青色の傘が緑豊かな地に配置してあり、青色が大地に映えており、実際に傘が設置されている様子を見てみたいなと思っていました。今回展示されてあった作品は、そのプロジェクトのためのドローイングでした。106.6 × 244 cm と大きなドローイングだったので、その風景に入り込んだような気持ちになりました。

[2]

[3]

クリスト
《アンブレラ、日本とアメリカ合衆国のためのジョイント・プロ ジェクト》
1987年、ドローイング(鉛筆、クレヨン、パステル、木炭、エナメル塗料、地形図)、2点組、106.6 × 244 cm、所蔵:水戸芸術館

クリスト
《アンブレラ、日本とアメリカ合衆国のためのジョイント・プロ ジェクト》 1988年、ドローイング(鉛筆、クレヨン、パステル、木炭、エナメル塗料、地形図)、2点組、244 × 106.6 cm、所蔵:水戸芸術館

2.海外にある鳥居

〈torii〉は、海外に設置されている鳥居を撮影した写真作品シリーズです。鳥居は、明治時代から第二次世界大戦が終わるまで、日本が植民地にしようとした国に建てられ、日本人の生活習慣や宗教を伝えようとしたそうです[4]。今でも鳥居が各地に残されており、その様子は作品を通して見ることができます。

作品に写っている鳥居はジャングル、海辺沿い、民家のある通りに溶け込んでいます。日本では、鳥居の後ろに神社が建っているのが当たり前ですが、そうじゃない場所に建っている姿を見て、新鮮な気持ちになりました。

〈torii〉シリーズの中で特に《台中、台湾》という作品にびっくりしました。鳥居が地面に平らに置かれ、その上に人々が腰掛けていたからです。日本では神聖なものである鳥居ですが、ここにある鳥居は鳥居本来の意味を持っていない、あるいは意味合いが変わっているんだなと感じました。鳥居が鳥居本来の意味を失い、ベンチに変化し、オブジェ化しているようにみえました。写真に写っている鳥居から、戦争時代の日本と世界での歴史、そして各国の鳥居の捉え方を垣間見ることができました。

[5]

下道基行
〈torii〉より《台中、台湾》
2006–12年、Cプリント、94 × 139.7 cm、所蔵:国立国際美術館

3. 特攻隊を持つ家族の物語

[6]

小泉明郎 
《若き侍の肖像》
2009年、マルチチャンネル・ヴィデオ・インスタレーション、9分54秒、作家蔵

とても惹き込まれた作品でした。日本の特攻隊員が特攻前に両親に最後の挨拶をしているシーンを表現した映像作品です。兵士は親に向かって「国のために戦います。」と別れの挨拶をしています。映像内では、監督(作家の小泉さんでしょうか)が兵士を演じている俳優に向かって何度も「もっと侍魂を持って、感情を込めて。」と繰り返し伝え、俳優はだんだん目の色が変わり、最後の方になると、俳優がゲホゲホ言いながら苦しそうにセリフを言っていました。

兵士が徐々に気持ちのボルテージが上がり、「国のために戦う」と誇らしげに言っているけれども、本当は恐怖を覚えているようにみえました。そして特攻に行くことを引き留めている母親の声(小泉さんが演じている?)も映像から聞こえ、兵士とその両親の気持ちを想像すると気持ちが辛くなりました。

[7]

作家の小泉さんは、インタビューにて「特攻を美学として描く危険さ、美しさの逆にある危険性を表現すべき」と回答されていました。インタビュー内容を要約すると…:

  • 一般的に若い特攻隊の物語を描こうとすると、国のためというより家族、友人を守るためという表現になる傾向があり、その姿が美しい、命の犠牲は美学という捉え方になってしまう。

  • その結果、「美しいからこそ危険になる」という視点が抜ける。

  • この美学という捉え方のみが先行した場合、戦争といった、辛く、悲しい出来事が繰り返されてしまうことを危惧している[7]。

小泉さんは、美しさだけはなく、その逆にある危険性を描くように作品を制作している[7]と知り、《若き侍の肖像》からは、若い特攻隊のまっすぐな心の美しさと共に、戦争の恐ろしさを痛感しました。映像を観終わった後、放心状態になるくらい、心にずさずさ刺さる作品でした。

4. 食材でできた銃で食卓を囲む

「ベジタブルウェポン」シリーズは、写真に写っている女性が選んだ食材で銃を作り、撮影後は、その食材を使って料理にしてみんなで食べるという作品です[8]。

銃を解体して食べると知り、写真に写っている野菜や魚は、本物の食材なのかと驚きました。作品を通して、各国の食材を見ることができ、その土地ならではの食材を見るのが面白いですし、どのような料理が出来上がるのだろうと想像することが楽しかったです。

武器という意味のウェポン(Weapon)からは攻撃や戦争など、危険なイメージを抱きますが、ウェポンを解体してみんなで食事をするのは平和的だなと真逆な印象を受けました。

この作品シリーズは、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件に対し、作家として何か答えを表現できないかと思い、制作されたそうです[9]。作品や制作背景を知り、戦うことの無意味さ、食事を一緒にすることは、平和で幸せなことだなと感じることができました。

[9] https://youtu.be/PlH3urrjtDE?si=_E02jjflm-RE8moS&t=1341

さいごに

展覧会を振り返ったら、私が印象に残っている作品は戦争に関するものが多いなと思いました。そもそも「時代のプリズム」展の出展作品の多くが戦争がテーマとなっているだからかもしれませんが...。戦争に対する各作家の思いを感じることのできるとても貴重な機会でした。気付いたら何時間も展示室内にいて、外が明るいうちに鑑賞し始めたのですが、展示を見終わる頃には外は真っ暗、閉館間近でした。また展示作品が別のかたちで観れたら嬉しいなと思いました。


<引用>
[1] art NIKKEI, “時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010” , 
https://art.nikkei.com/prismofthereal/#outline, (参照2025.12.23).
[2] 水戸美術館, “クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91”,  https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_453.html, (参照2025.12.23).
[3] ぴあ, “【展示レポート】『時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010』 時代や社会を反映した50組以上の作品から現代美術の20年を捉え直す”, 2025.09.26, 
https://lp.p.pia.jp/article/news/438373/index.html?detail=true (参照2025.12.23).
[4] 国立新美術館,  “鑑賞ガイド 時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010” , https://www.nact.jp/exhibition_special/media/JP_POR_Jr_GUIDE_0829.pdf, (参照2025.12.23).
[5] 下道基行/Shitamichi Motoyuki, [ torii ],  http://m-shitamichi.com/work/torii/, (参照2025.12.23).
[6] MUJIN-TO Production, “若き侍の肖像 (2009) “, https://www.mujin-to.com/artwork/%E8%8B%A5%E3%81%8D%E4%BE%8D%E3%81%AE%E8%82%96%E5%83%8F/, (参照2025.12.23).
[7]  国立新美術館 The National Art Center, “Tokyo (NACT), 〈Artist's Interview〉レンズ1:過去という亡霊|時代のプリズム:日本で生まれた美術表現,  1989-2010”, 2025.11.22, 01:27:10, video, https://youtu.be/kokO9fAATIk?si=BMMIiMOjpbAGGyW5&t=4095, (参照2025.12.23).
[8] Tsuyoshi Ozawa Art Works, “ベジタブルウェポン / Vegtable Weapon”, https://ozawatsuyoshi.net/works/vegtable-weapon, (参照2025.12.23).
[9] 国立新美術館 The National Art Center, Tokyo (NACT), “〈Artist's Interview〉レンズ3:コミュニティの持つ未来|時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010”, 2025.11.22, 01:01:22, video, https://youtu.be/PlH3urrjtDE?si=_E02jjflm-RE8moS&t=1341, (参照2025.12.23).

<参照>
[10] 国立新美術館,  “時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010”, https://nact.jp/exhibition_special/media/prismlist_ja.pdf, (参照2025.12.23).


いいなと思ったら応援しよう!