《魔女のハーブは、あんまり甘くない》 ユイと魔女の友だち Episode1ー1
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〈1〉
みなとの風って、空の香りを、はこんでくる。
わたしは、みなとの美術館まえのベンチで、カズマをまっていた。
人びとが、美術館に入っていくのを見ていたが、やっぱり、カップルがおおい。
「いま10時10分を、すぎました・・・・」
わたしは、自分に、つぶやいた。
まあ、彼が時間どおりにきたことなんて、ないんだけどね・・・・。
「あれ?」
わたしは、いま、目のまえを通りすぎた長い髪の少女を見て、はっとした。
「あの子は、たしか・・・・」
そういえば、この前、となりのクラスに転校してきた子。
ーたぶん、あの子だ。
きのう、廊下ですれちがったとき、ちらっと見たけど、青い目のかわいらしい顔立ちで、やさしそうな雰囲気だった。
髪も、わたしとおなじくらいに長い。
でもちょっと、不思議な感じがした。
なんか、階段をのぼるとき、ふわりとした足どりで、空にうかんだように見えたけど。
あれは、気のせいだよね、うん、ぜったい。
あの子は、ゆっくりと、美術館のなかへ入っていった。
1人なのかな?
わたしは、なびく髪を、手のひらにおいた。
「よっ、おまたせ」
うしろから声がしたので、わたしは、ふり向いた。
「あ、カズマ」
カズマが、たっていた。
赤茶色の髪と、はきならしたジーンズ姿。
「ごめん、ユイ。ずばり、寝坊です」
笑顔で、はっきりいう。
白い歯が、気にさわるほど、まぶしい。
「そこまで、どうどうとしてると、なにも言う気がなくなるわ。はい、これ、入場チケットね」
わたしは、苦笑しながら、カズマにチケットをわたした。
「お、サンキュ。わっ」
みなとから、つよい風がふいてきた。
わたしは、手で髪をおさえた。
あやうく、チケットも、とんでしまいそうだった。
「いや、そんなに髪ながいと、めんどくさと思うんだけど」
カズマが、わたしを見る。
「よけいなお世話。あたしは、長いのが好きなだけ」
わたしは、カズマのおでこを、指さきで、つついた。
カズマが、小さくわらう。
「じゃ、入ろっか」
わたしは、カズマと、うでを組んで美術館にはいった。
独特のにおいが、からだをつつんだ。
「お、なんか、いい感じ」
わたしは、カズマを、ちらりと見る。
カズマは、おなじ学年で、学校の音楽イベントで知り合った。
彼が、自分のバンドを演奏したいが、買うお金がないというので、楽器をかしてあげたのだ。
正直、ちょっと心配だったが、彼らの演奏は、すごい人気だった。
そのあと、お礼をいわれ、話していたら、なんとなく好きになった。
「つきあってみようかな・・・・」
なんとなくたよりないが、なんとなく安心できて、なんとなく兄弟みたいな存在。
でも、兄弟は、いないけど・・・・。
美術館のなかは、思ったよりひろく、絵の数もおかった。
「こんなに、いっぱいあるのね・・・・」
わたしもカズマも、とくに絵画が好きというわけではなかったが、時間があって近いという理由で、きょう、この絵画展にきた。
「あれ、あの子?」
カズマが、声をあげた。
「ほら、この前、となりのクラスにきた子じゃない?」
あの子が、大きな絵を、じっと鑑賞していた。
カズマも、知っていたのか。
「おなじくらい髪ながくない?色は、ちがうけど」
カズマが、わたしの髪を見ながらいう。
「あの子が、そんなに気になるの?」
「い、いや、なんとなくさ」
カズマが、指さきで、ほおをかきながら、目をそらす。
やがて、あの子は、奥へとすすんでいった。
どんな絵を、見てたんだろう。
「ね、あれ、見てみない?」
わたしは、カズマを、絵のまえにさそった。
「へえ、なんか、不思議な絵だね」
カズマは、おどろいた表情で大きな絵を見る。
「わあ」
天空の丘にある中世の街に、翼のはえた女性が、空を飛んでいる絵。
女性が、天使みたいに見えた。
「どこのだろう。作者不詳で、西洋の作品って、書いてあるけど」
「あたし、これ、好き」
わたしがいうと、カズマが、小さくうなずいた。
わたしは、ふっと、足をとめた。
「え、この香り?」
なにか、香りがした。
まわりの人の香水とはちがった、そう、天使のような香り。
「?」
床に、なにかが、おちていた。
「え、しおり?」
わたしは、しおりをひろいあげると、はっとした。
ーこの香りだ。
しおりのおもてを見ると、<魔女とハーブの、お店>と文字が書いてあった。
そして、わたしは、しおりのうらに書いてある住所を見た。
ーあの子のだ、きっと。
「ん、どうかした?」
カズマが、わたしを見る。
「ううん、ほかのも、観てみようよ」
わたしたちは、まわりの人たちの流れにのりながら絵を鑑賞し、30分くらいでひととおり見おわった。
「あー、けっこう、楽しかったね」
わたしは、美術館のそとにでると、うーんと、のびをしながらいった。
「うん、ほとんど、しらない絵だったけど、見ていて、けっこうワクワクした」
カズマも、嬉しそうにいう。
「なあ、おれ、今日これから、バイトがあるから」
カズマが、腕時計を見る。
「あ、そうか、30分のデートか。合理的なカップルだね。あたしたちって」
わたしは、わらった。
そう、カズマは、ライブハウスのバイトをしているんだった。
いつか、新曲を、聴かせたいっていってる。
「じゃ、がんばってね」
わたしは、カズマのほおに、キスをした。
カズマは、ちょっと照れたような笑みをうかべ
「じゃ、また明日」
といって、みなとのほうに進んでいった。
わたしは、カズマが見えなくなると、ポケットから、しおりをだした。
「さて、と。ここに、行ってみるかな」
わたしは、美術館のうらにとめた自転車で、元の町ストリートにでた。
そのまま、まっすぐに走っていると、みなとの心地よい風が、背中をおしてくれた。
「これだと、こっちの方角かな・・・・」
わたしは、ストリートにはいると、角をまがった。
「あ、あれだ」
可愛らしい小さなお店が、目にとまった。
ーまちがいない。
あの子の雰囲気と、ぴったりとかさなる外装だ。
わたしは、お店のわきに自転車をとめると、ドアをあけた。
からんからんと、ベルの音がする。
「いらっしゃいませ」
きれいな黒髪と青い瞳の少女が、わたしに、ほほえんだ。
ーやっぱり、そうだ。
「どうぞ、お好きな席へ」
少女がいうと、わたしは、カウンターに、すわった。
わたしは、お店のなかを、ゆっくりと見た。
魔女のイラストが表紙の本や、ハーブのはいった瓶が、きれいにならべてあった。
「なにを、お飲みになりますか?」
少女が、わたしに、ほほえむ。
「え、と、じゃ、クランベリーで」
「かしこまりました」
わたしがいうと、少女が、お湯をわかし、ハーブをいれはじめる。
「あの・・・・」
わたしは、少女の背中に声をかける。
「はい?」
少女が、わたしを見る。
「この、しおり。あなたの?」
わたしが、しおりを、少女に見せる。
「あ、わたしの。どうして?」
少女が、おどろいて、わたしを見る。
「さっき、美術館にいたでしょ? 落ちてたの」
わたしは、しおりを、さしだす。
「え、ほんとに? すみません、わざわざ」
少女は、しおりをうけとると、ハーブティーをカップにそそぎはじめた。
「この前、転校してきた子だよね?」
わたしが、ちらりと、少女にたずねる。
「あの、あなたは・・・・?」
少女が、顔をあげる。
わたしは、こほんと、小さくせきばらいをした。
「あたし、となりのクラスのユイっていうんだ。よろしくね」
わたしは、ポケットから生徒手帳を見せる。
「ええ、そうなんですか? 知らなかった」
少女が、嬉しそうにおどろくと、わたしは、大きくうなずいた。
「はい、よろしくお願いします。やった」
少女が、なんだか、嬉しそうにほほえむ。
「・・・・?」
「あ、いや。わたし、まだ、学校に友だちがいなかったから・・・・」
少女が、すこし、はずかしそうに、うつむく。
「ああ、そうなの」
だから、1人でいたのかな。
「わたし、アカリって、いいます」
「アカリ、さんね」
「アカリって、呼んでください」
「OK 。わかったわ、アカリ」
わたしは、アカリに、ほほえんだ。
「美術館にいたのは、絵が好きなの?」
「ええ、むかしから、けっこう好きで。母が、よく絵を描いてましたから」
よく見ると、お店の棚に、絵がならんでいた。
不思議の世界の絵が、好きみたいだ。
だから、あの大きな絵を、見ていたのか。
「おまたせしました」
アカリが、ハーブティーを、わたしのまえに、おいた。
わたしは、ゆっくりと、カップに口をつけた。
「おいしい。でも、ちょっと、すっぱい?」
わたしがわらうと、アカリがほほえむ。
「でも、こんなに、魔女の本がいっぱい。どれから読めばいいかな?」
わたしがいうと、アカリは、ちょっと考える。
「じゃ、これなんか、おすすめですよ」
アカリが、紺色の表紙の本を、わたしてきた。
タイトルを見ると・・・・、
「魔法の書?」
わたしは、不思議に思いながら、本をひらいた。
〈Vol.2 へ、つづく>
